不条理に満ちた世界で何ができる? 『未来を生きる君たちへ』
#映画
お盆休みを迎える今週末、帰省して家族とゆっくり過ごすという人も多いのでは? この時期、親子のあり方についてヒントをもらえる高評価の新作映画2本を紹介したい。
8月12日公開の『ツリー・オブ・ライフ』は、”伝説の映画監督”テレンス・マリックがブラッド・ピット、ショーン・ペンを迎えて描く、詩情豊かな人間ドラマ。1950年代半ば、オブライエン夫妻はテキサス州の田舎町で幸せな結婚生活を送っていた。だが長男のジャックは、信仰にあつく成功するためには「力」が必要だと説く厳格な父(ピット)と、自然を慈しみ子どもたちに深い愛情を注ぐ優しい母との間で葛藤する日々を過ごす。大人になり実業家として成功したジャック(ペン)は、自分の人生や生き方の根源となった少年時代を回想する……。
『天国の日々』(78)『シン・レッド・ライン』(98)など過去40年弱で監督作が4本と寡作ながらも、映画ファンと業界から絶大な支持を集める巨匠のマリック監督。通算5作目となる最新作では、俳優陣が味わい深く演じた家族の物語を軸に、自然を美しく捉えたショット、宇宙のはじまりと地球の進化を示唆する壮大な映像が交錯する。まさに映像詩と呼ぶにふさわしい表現スタイルで、印象的なショットの数々が説明を排して提示されることにより、受け手の経験と感性によってさまざまな解釈が可能。とはいえ、生命を未来へとつなぐ基本単位が「親と子」であり、親との関係が子の生き方に大きく影響するというシンプルな真実に改めて気づかせてもくれる。挿入曲のスメタナの交響詩「わが祖国」が情感を盛り上げ、第64回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞したことも大きな話題になった。
続いては、8月13日に公開されるデンマーク・スウェーデン合作映画『未来を生きる君たちへ』。デンマークの学校でいじめられる日々を過ごす少年エリアスは、医師としてアフリカの難民キャンプに赴任中の父アントンを心の頼りにしていた。ある日、転校生クリスチャンがエリアスをいじめから守ったことで、2人は親交を深めていく。一方、エリアスの父・アントンは自身の離婚問題や、紛争地域で重傷を負った患者たちに心を痛めていた。そんな彼の前に、子どもや妊婦までも手にかける悪党が怪我をして運び込まれる……。
『アフター・ウェディング』(06)『悲しみが乾くまで』(08)のスサンネ・ビア監督が、暴力や憎しみという不条理に満ちた世界で、希望をつかもうとする人々の姿を描くドラマ。第83回米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞しており、こちらも折り紙付き。悲劇が繰り返され、不安に揺れるこの時代、未来の子どもたちに”より良い世界”を手渡すために何ができるか。平和に思いを馳せる機会が増える8月、幅広い層に見てもらいたい感動作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
「ツリー・オブ・ライフ」作品情報
<http://eiga.com/movie/53203/>
「未来を生きる君たちへ」作品情報
<http://eiga.com/movie/56122/>
若き日のリチャード・ギア。
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