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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第47回

カウボーイ外交は何を生み出した? 暴力的支配の果てに馬が映し出す己の姿

雪に隠れた岩山のように、正面からは見えてこない。でも、映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる。超大国の真の姿をお届け。

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『BUCK』

伝説の調教師であり、馬の心を開くプロ”ホース・ウィスパラー”であるバック・ブラナマンの半生をたどるドキュメンタリー映画。幼少時の虐待をへた彼が、どのようにして馬と心を通じ合わせているのかを丁寧に追っている。
監督/シンディ・ミール 出演/バック・ブラナマン、ロバート・レッドフォードほか 日本での公開は未定。

 ロバート・レッドフォード監督・主演の『モンタナの風に抱かれて』(98年)という映画がある。乗馬を愛する13歳の少女が、馬と一緒に交通事故に巻き込まれる。少女は片足を切断し、心を閉じてしまう。馬も事故のショックで制御不能な暴れ馬となる。少女の親は、馬の薬殺を検討するが、そんなことをしたら娘の心も永遠に死んでしまうだろう。

 悩んだ親は、ホース・ウィスパラーという職業の存在を知る。馬とコミュニケーションし、その心を開くプロだ。彼の住むモンタナで馬の治療が始まる。それは少女を癒やす日々でもあった。

 この映画でロバート・レッドフォードの顧問を務めた本物のホース・ウィスパラー、バック・ブラナマンを追った『BUCK』というドキュメンタリー映画が作られた。BUCKとは暴れ馬が乗り手を振り落とすことをいう。やたらとBUCKしていた馬がブラナマンにかかると、大人しく人を乗せてギャロップするようになることから、このあだ名がついた。ワイオミングに住むバックは、暴れ馬を癒やすためなら、全米どこにでも出張する。

 昔から、ムスタング(野生馬)の調教はカウボーイの仕事のひとつだった。野生馬の鞍付けを「ブレイク」という。ブレイクを記録した古いフィルムを見ると、抗う馬をロープで引き回し、絶えず鞭で叩いている。それはまさに馬の心をブレイクする(へし折る)行為だ。

 しかし、バックは、ロープも鞭も使わない。毛布で馬の背中を温め、マッサージでリラックスさせ、鼻をこすりつけて馬と同じやり方でコミュニケーションする。

 そして、小さな旗がついた棒を2本使って方向を誘導する。手綱を使うときも、バックは決して引っ張らない。行きたい方向、曲がりたい方向に一瞬力を入れるだけだ。

最終更新:2011/08/10 10:30
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