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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.129

『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』

super01.jpg“赤い稲妻”クリムゾンボルトを名乗り、
街の悪党どもに襲い掛かるフランク(レイン・ウィルソン)。
どー見ても、お前が変質者だよ! Crimson Bolt,LLC(c)2010

 B級のパチモノ映画と思ってスルーしちゃうと、後悔する感動作。それがジェームズ・ガン監督の『スーパー!』だ。冴えない主人公が美少女を相棒になりきりヒーローに扮して悪を退治するって、ヒット作『キック・アス』(10)のまんま。いや、確かに『キック・アス』的なコメディー設定なんだけど、内容はむしろポール・シュレイダー脚本&マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(76)に近い。自分こそが正義だという妄想に取り憑かれた中年男が、街にはびこる悪党どもに正義の鉄槌を下す。中年男の崇高な使命感とお手製のアップリケを貼付けたチープな赤い衣装とのギャップが哀愁混じりの苦笑を誘う。おもろうて、やがて哀しきバイオレンスアクション映画なのだ。”悪趣味だけど、泣ける”SFホラー映画『スリザー』(06)でデビューしたジェームズ・ガン監督のオリジナル脚本に、『Gガール 破壊的な彼女』(06)のレイン・ウィルソン、『JUNO/ジュノ』(07)のエレン・ペイジ、『アルマゲドン』(98)のリヴ・タイラーら豪華キャストが賛同し、脚本執筆から6年ごしで『スーパー!』は完成した。米国での劇場公開は単館系でのひっそりとしたものだったが、VOD視聴率は大手配給会社IFC社史上最高の数字を稼いでいる。

super02.jpgエレン・ペイジ扮する”ボルティー”。
あんまりセクシーじゃないところが、
逆に男心をソソるのだ。

 ファミレスで働く中年男・フランク(レイン・ウィルソン)の唯一の自慢は、美人妻・サラ(リヴ・タイラー)が家で待っていること。だが、サラは薬物依存癖があり、ドラッグの売人・ジョッグ(ケヴィン・ベーコン)のもとへと去っていく。貞淑な妻サラは凶悪なジョッグに脅され、自分を巻き込まないように姿を消したと思い込んだフランクは、天の声(電波)をキャッチして正義の味方クリムゾンボルト(赤い稲妻)に変身する。ま、変身するといっても、手縫いの赤い衣装にメタボ体型のお肉を詰め込むだけなんだけど。もちろん”キック・アス”と同様に特殊能力はゼロ。人一倍あるのは、「自分こそが正義」という揺るがない思い込みのみ。でも、いきなりジョッグのアジトを襲撃するのは気が重いので、まずは路地裏をうろつく露出狂や行列に割り込むマナー知らずの野郎どもに、後ろからスパナで殴り掛かる。相手の不意を突くのが、クリムゾンボルトの常套手段。正義のヒーローを自称するには、あまりにも姑息だよ。

super03.jpgフランクが愛して止まない妻・サラ(リヴ・
タイラー)。こんな美人妻がいたら、男は
間違いなくおかしくなります。

 フランクがひとりで自警活動をやっているうちは、まだ良かった。フランクの怪しげな行動を知ったアメコミオタクの少女リビー(エレン・ペイジ)が勝手にクリムゾンボルトの相棒ボルティーを名乗って、コスチューム姿で付きまとうようになる。バットマンにロビン、キック・アスにヒットガールというわけだ。興奮ぎみのリビーに煽られるかっこうで、お尻に火を点けられたフランクはついにジョッグ一味に立ち向かうことを決意する。『JUNO』『ローラーガールズ・ダイアリーズ』(09)の若手演技派女優エレン・ペイジが”変態よい子”リビー役を嬉々として演じている。ピチピチッとしたコスチューム姿で「とりあえず記念に、一発エッチしようよ」とフランクにエロく迫る、頭のイッちゃった女の子リビー役は、出世作『ハードキャンディ』(05)での援交少女に匹敵する怪演ぶりだ。

 『キック・アス』の主人公は10代の若者ならではの正義感に駆られての行動であり、大人への成長の過程としての一抹の爽やかさがエンディングに漂っていたのに比べ、『スーパー!』のフランクは分別があって然るべき中年男である。法の及ばない悪事に対し、自分なりに正義の鉄槌を下す行為は当然ながら危険を伴う。フランクとリビーが小悪党相手に暴力を振るい、自分たちの行為に酔いしれる姿は、ドラッグ中毒患者と変わらない。素人同士の2人が組むことで、行動は次第にエスカレートしてゆき、大きな犠牲を払うことになる。井筒和幸監督の『ヒーローショー』(10)で、ささいなケンカから大悲劇に発展していく過程とも似ている。

super04.jpg右側の赤いヤツが”出たがり屋”
のジェームズ・ガン監督。脚本家
として『スクービー・ドゥー』(02)、
『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)
などのヒット作あり。

 『仮面ライダーV3』(73~74年、毎日放送)に主演した宮内洋に以前、話を聞いたことがある。正義のヒーローを演じることは子どもたちへの影響力が大きいことを自覚しており、人目につくところではタバコ、飲酒、立ちションなどは控えていたそうだ。また、『仮面ライダーV3』は日本だけでなく海外でも絶大な人気を誇っていた。香港ではテレビ放映を見た小さな子どもたちがV3を真似て、マンションから次々と飛び降りるという事故が相次ぎ、すぐさま放映が打ち切られている。正義のヒーローに扮することで得られる陶酔感は、しばし取り返しのつかない惨劇を招く。

 『スーパー!』のクライマックス、引くに引けなくなったフランクとリビーはドラッグの取り引きの真っ最中のジョッグ邸を襲撃する。フランクの愛妻サラを救出するために。フランクとリビーが高倉健と鶴田浩二に見えてくる、ゾクゾクする討ち入りシーンだ。だが、武装したジョッグの子分たちとの抗争は、想像以上の血の嵐を呼び寄せる。弾丸が飛び交い、硝煙が立ち込め、肉片が飛び散る。やがて、血の暴風雨が立ち去り、静かな朝が訪れる。血の代償として、フランクは思い知る。暴力や生と死のギリギリ感がもたらす刹那的な快感よりも、生き続けていくことの痛みのほうがずっとずっと重いということを。
(文=長野辰次)

super05.jpg
『スーパー!』
脚本・監督/ジェームズ・ガン 音楽/タイラー・ベイツ 出演/レイン・ウィルソン、エレン・ペイジ、リヴ・タイラー、ケヴィン・ベーコン 配給/ファインフィルムズ 7月30日(土)よりシアターN渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 R15+ <http://www.finefilms.co.jp/super>

キック・アス Blu-ray(特典DVD付2枚組)

本家。

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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
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最終更新:2012/04/08 22:38
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