「実写以上にリアル」コミカルなアクションファンタジー『カーズ2』
#映画
夏休み映画の封切りラッシュもいよいよ本格化。大人も楽しめる良質アニメの中でも、スタジオジブリとディズニー傘下のピクサーという日米の国民的アニメスタジオの新作は、やはり見逃すわけにはいかない。
『コクリコ坂から』(公開中)は、少女漫画誌「なかよし」(講談社)に連載された高橋千鶴・佐山哲郎による同名コミックをスタジオジブリが映画化。宮崎駿が企画・脚本、『ゲド戦記』の宮崎吾朗が5年ぶりに手掛け監督第2作となる。
東京オリンピック開催を翌年に控えた1963年、高度経済成長期の横浜。港を見下ろす丘にあるコクリコ荘に住む高校2年生の海は、船乗りの父を亡くし、仕事を持つ母親を助けて下宿人たちと家族の面倒をみている。ある日海は、高校の文化部部室棟「カルチェラタン」の取り壊しに反対する学生たちの運動に巻き込まれ、そこで新聞部部長の俊と出会う。新聞作りや部室棟清掃を通じて互いにひかれあうが、俊の出生をめぐる秘密から2人の関係は大きく変わっていく……。
ファンタジー系が多いジブリ作品群の中にあって、今作は『おもひでぽろぽろ』(91)や『耳をすませば』(95)に連なるリアルな青春ドラマ路線。長澤まさみが声を演じる頑張り屋の海と、V6の岡田准一が演じる穏やかな正義漢の俊が織りなす、淡い恋の行方がさわやかに、時に切なく描かれる。ガリ版刷りの学校新聞や個人商店の連なる街並みなど、大人世代には懐かしい要素が、水彩画調の背景とともにノスタルジックな雰囲気を醸し出す。カルチェラタン存続運動に象徴される、古き良き伝統と記憶を尊重しながら新たな文化を創造していこうというメッセージは、経済発展と開発による環境破壊に異議を唱えてきた過去のジブリ作品群に共鳴するとともに、宮崎駿ら創業世代から吾朗監督ら次世代へとジブリの資産を継承していく意思の表れでもあるのだろう。
一方、ピクサーの最新作『カーズ2』(7月30日公開、3D同時上映)は、擬人化された車たちの活躍や珍騒動を描くファンタジーアニメ『カーズ』(06)の続編。前作で友情を築いた天才レーシングカーのマックィーンとおんぼろレッカー車メーターは、あるハプニングからワールド・グランプリに参戦することに。日本から始まり、フランス、イタリア、イギリスと転戦するレースで奮闘する。だがその裏で、陰謀を企む謎の組織と、対抗する英国スパイによる暗闘が繰り広げられ、メーターらも命懸けの戦いに巻き込まれていく……。
ピクサー躍進の立役者であり、今やディズニーの幹部でもあるジョン・ラセターが、前作に続き5年ぶりに監督を務める。今作はスピーディーなカーレースとスリリングなスパイアクションが平行して進む展開に、恋と笑いの要素も加わった盛りだくさんのストーリー。レースが東京から始まるのも日本の観客にとってはうれしいポイントで、挿入歌に採用されたPerfumeの「ポリリズム」も違和感なくハマっている。各国の観光名所や景観にさりげなく挿入された車のデザインが遊び心を感じさせ、間違い探し感覚で背景ばかり注目してしまう観客も続出しそうだ。各国の街並みを巧みに描き分けているのも見事だが、とりわけレース最終地のロンドンでは、建物や石畳の質感、空撮を再現した上空からの描写など、「実写以上にリアル」と感じてしまうほどのCGの魅力が3D映像で堪能できる。
伝統的な手描き2Dアニメにこだわるジブリによるノスタルジックな青春ドラマと、CGアニメの開拓者であり近年は3D映像表現でも業界をリードするピクサーのコミカルなアクションファンタジー。好対照な2作品を見比べて、ぜひそれぞれの魅力を味わっていただきたい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
「コクリコ坂から」作品情報
<http://eiga.com/movie/55911/>
「カーズ2」作品情報
<http://eiga.com/movie/54470/>
擬人萌え~。
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