竹ヤリで世界進出”スシタイフーン”『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸
#映画 #パンドラ映画館
竹ヤリで北米大陸に攻め込んでやれ! 21世紀の現代に、そんなムチャなプロジェクトが発動した。それが日活の海外向けレーベル”SUSHI TYPHOON”だ。1本あたり約5,000万円という低予算ながら、「自分の撮りたい作品を自由に撮る」という監督の情熱と過酷な撮影現場を乗り切ったスタッフ&キャストのド根性の化合物でどこまで海外で通用するのかやってやろうじゃないのという無鉄砲な試みである。しかし、バットは振ってみなくちゃ分からない。『ドカベン』の男・岩鬼の初打席初球ホームランばりに、第1弾からガツンと手応えがあった。ニンジャ映画を得意とする千葉誠治監督とアクション監督の第一人者・下村勇二がタッグを組んだ『AVN/エイリアンVSニンジャ』が早々にハリウッドリメイクが決まったのだ。続いて作られた特殊造形のスペシャリスト・西村喜廣監督による壮大なるゾンビ映画『ヘルドライバー』、石川賢の原作コミックを『VERSUS』(00)の坂口拓主演で実写化した『極道兵器』、山口雄大監督のカルトなデビュー作『地獄甲子園』(02)をさらに過激に進化させた『デッドボール』の3作品も現在、世界各地のファンタスティック系映画祭で絶賛上映中とのこと。そして、この4作品が”SUSHI TYPHOONまつり”と銘打って今夏、日本で一挙逆上陸公開されることになった。
この無謀なるレーベル”SUSHI TYPHOON”の発案者は、日活の千葉善紀プロデューサー。ギャガ在籍時には三池崇史監督にヤクザ映画の怪作『極道戦国志 不動』(96)を撮らせ、日活でも三池監督と組んで実写版『ヤッターマン』(08)を作った要注意人物。園子温監督の大ヒット作『冷たい熱帯魚』は、海外では”SUSHI TYPHOON”レーベル扱いとなっている。そして”SUSHI TYPHOON”を立ち上げるきっかけとなった井口昇監督の『片腕マシンガール』(07)、西村喜廣監督のデビュー作『東京残酷警察』(08)のプロデューサーでもある。見事なほどに、どれもイッちゃってる作品ばかりですよ。ゾンビの足が自然とショッピングモールに向かうように、いつの間にか自分の足も怪しげな作品ばかり作っている千葉プロデューサーのもとに向かっているのだった。
モデル出身の原裕美子が日本刀型チェーン
ソーでゾンビ軍団をぶった斬る。”ゾンビ
カー””ゾンビジェット機”は必見もの。
(C)2010 SUSHI TYPHOON/ NIKKATSU
米国資本によって製作され、井口昇監督の異能ぶりがノーリミットで発揮された『片腕マシンガール』。日本でも逆輸入公開され話題となったが、北米市場では何とDVD10万枚をセールスする大ヒットを記録したそうだ。
千葉 「10万枚以上売れたんじゃないですか。でも残念なことに権利はすべて出資した米国のメディアブラスターズ社にあったので、日活側は大ヒットの恩恵を被ることができなかったんです(苦笑)。そこで日活の新レーベルとして”SUSHI TYPHOON”を立ち上げたわけです。でも、『片腕マシンガール』のように自由に作らせてもらえるというのは、ボクらにとってすごく有り難いことでもあったんです。何で『片腕マシンガール』があんなに面白かったかというと、”米国がお金を出してくれるから自由に作っていいんだ”とボクが開き直れたことが大きかった。日本から少しでもお金が入っていたら、もっと有名な女優を出そうとか、血しぶきの量は抑えた方がいいかなとか考えてしまう。映倫のことも意識します。プロデューサーとして、どうしても安全なほうに寄ってしまう。日本で売るにはどうするか考えるわけです。まぁ、商売ですから当然そうですよね(笑)。でもね、今の日本の映画製作は言ってみれば妥協の産物なんですよ。妥協して、妥協して……。本当にやりたいことがあっても、いろんな人が関わって、キャスティングが決まっていくうちにどんどんねじ曲がって、違った方向になってしまう。その点、『片腕マシンガール』はお金を出してくれたメディアブラスターズ社とボクとで直接やりとりでき、ボクから井口監督に話を振ったら、翌日にはシノプスが送られてきた。当時の井口監督は携帯メールでシノプスを書いていました(笑)。そのスピード感がよかった。主演女優もオーディションのその場で決めちゃいましたしね」
『魁!!男塾』(08)で剣桃太郎を演じたアクシ
ョン俳優・坂口拓の監督&主演作。ぜひアイ
アンマンと戦ってください。(C)2010
KEN ISHIKAWA/Dynamic Planning-YAKUZA
WEAPON Film Partners
『片腕マシンガール』『東京残酷警察』の製作費は各4,000万円だったそうだが、今回の”SUSHI TYPHOON”4作品の製作費はそれぞれ5,000万円とちょっぴり上乗せ。とはいえ、この規模の予算で北米マーケットを目指すとは竹ヤリで攻め込むようなものではないか?
千葉 「ハハハ、確かに竹ヤリで討ち入るようなものです(笑)。ハリウッドなんて製作費100億円なんて作品がザラですからね。まぁ、西村監督率いる西村映造の特殊造形と鹿角剛司さんのVFXが頼りです。でも、だから面白いと思うんです。ハリウッドの真似を5億~10億円の予算でやっても敵いません。いかに向こうのヤツらが見たことのないものを見せられるかということ。直球では勝てないから、変化球で勝負するしかない。その点、井口監督や西村監督は誰も見たことのないような魔球を投げますから(笑)。日本ならではのオリジナル性で勝負しなくちゃ。でもね『AVN/エイリアンVSニンジャ』のリメイクは正直、ボクらが驚いた(笑)。まぁ、リメイクといっても向こうはコンセプトが欲しいだけ。アイデアと映画のエッセンス3~4つしか要らないわけですよ。こちらから内容に関して口を出すつもりはありません。どんなハリウッドリメイクになるのか楽しみですし、”SUSHI TYPOON”に注目してもらえるいいタイミングで話が来たなと喜んでいます
こちらも坂口拓主演作。清純派女優・星野真里
がなぜか生粋のメガネ少年役で出演。意外とハ
マってます。(C)2010 SUSHI TYPHOON/
NIKKATSU
『片腕マシンガール』のヒット後、セーラー服の美少女によるサバイバルアクションというパチモノ作品が続出したが、”SUSHI TYPHOON”は作品のコンセプトを海外に売って稼ごうと狙っているわけではないようだ。
千葉 「計算ずくで動いてるわけじゃないんです(苦笑)。でも、今の日本映画界には井口監督や西村監督をはじめ、面白い映画を撮れる人材がいるわけですよ。といっても、彼らは日本映画界ではメインストリームにはなれない。それはボクにも理解できる(笑)。なら、彼らに面白い作品をどんどん作ってもらって、海外へ売ることでビジネスになるのなら、ボクは彼らと一緒に仕事がしたい。また”SUSHI TYPHOON”から、さらに若い監督たちが出てきてくれればいい。ボクがVシネマを作っていた頃は若い監督が出てきて、その中から三池崇史監督が飛び出してきた。そういう現場が今の日本映画にはないんです。若い映像作家に”SUSHI TYPHOON”の作品を観てもらって、”あっ、こんなバカなことをやってもいいんだ”と感じてもらえればいい。”テレビ局に頭を下げなくても映画は作れるんだ”と思ってほしいんです」
映画ファンがむせび泣くような言葉を口にする千葉プロデューサー。だが、米国のDVDマーケットは近年縮小が激しい。そんな中で”SUSHI TYPHOON”は1作品あたり5万本のDVDセールスを目標にしている。かなり高いハードルだが、そのへんの勝算はどうなのか?
千葉 「米国のDVDマーケットは、『片腕マシンガール』の頃と比べると二分の一程度になってしまっている。DVDを扱ってる店が次々と潰れてるんです。NYのタイムズスクエアにあったHMVも閉店しました。これはボクにも予想外。でも、DVDの代わりにダウンロードの伸びがすごいんです。ここにチャンスがあるんじゃないかと考えています。ゲームをやってる連中なら、『AVN/エイリアンVSニンジャ』は気になるだろうし、『パイレーツ・オブ・カリビアン』とかのタイトル群の中に『YAKUZA WEAPON』(極道兵器)ってタイトルがあれば、ちょっとダウンロードしてみようかという気になるはず。これからは分かりやすいコンセプトとタイトルであることは、より重要でしょう
世界各地にあるファンタスティック系映画祭をただ今、監督たちとドサ回り中の千葉プロデューサー。井口監督や西村監督がフンドシ姿で舞台挨拶するのに負けじと、千葉プロデューサーも忍者装束で登壇するなどサービス精神旺盛な方なのだ。
千葉 「日本では今は”ゆうばり国際ファンタスティック映画祭”しかないけれど、世界各地にファンタスティック映画祭は数え切れないほどあって、熱狂的に迎え入れられています。昨年のファンタアジア映画祭(モントリオール)でプレミア上映された『AVN/エイリアンVSニンジャ』なんて、会場の外までスタンディングオベーションの騒ぎが聞こえてきました。『ヘルドライバー』の西村監督は海外では”天才”と呼ばれています。ちなみに三池監督は”神”です(笑)。三池監督の参戦も決まっています。先日もカンヌ映画祭で赤じゅうたんを歩いた直後の三池監督と『”SUSHI TYPHOON”、どんなのにします?』なんて話をしました(笑)。三池監督はうれしいことに『オレはVシネで育ったから、Vシネをやりたいんだ』と言ってくれているんです。メジャーで活躍する今の三池監督がまったくリミッターなしで撮ったら、一体どんな作品が生まれるのか。楽しみじゃないですか(笑)」
”SUSHI TYPHOON”の魅力は、Vシネ全盛期にはまだ高価で手が出せなかったCGなどのデジタルツールとVシネ的な奇想さ&ガッツを組み合わせたもののようだ。異能のクリエイターたちの「撮りたいものを撮る」という初期衝動で、世界を舞台にどこまで突っ走ることができるのか? 7月23日(土)~8月19日(金)、銀座シネパトスでは監督やキャストたちの来場を含め、連日のイベントを企画している。10月にはエース・井口昇監督の新作『電人ザボーガー』の日本公開も控えている。”SUSHI TYPHOON”の行方に注目せよ!
(文=長野辰次)
【SUSHI TYPHOONまつり】
『AVN/エイリアンVSニンジャ』
監督・脚本・編集/千葉誠治 アクション監督/下村勇二、園村健介 出演/三元雅芸、柏原収史、土平ドンペイ、肘井美佳、小越勇輝、樋浦勉 PG12
『ヘルドライバー』
監督・脚本・キャラクターデザイン・編集/西村喜廣 VFXスーパーバイザー/鹿角剛司 出演/原裕美子、しいなえいひ、柳憂怜、波岡一喜、岸建太朗、久住みず希、鳥肌実、ガナルカナルタカ R15+
『極道兵器』
原作/石川賢 監督/坂口拓、山口雄大 特殊造型・特殊メイク/西村喜廣 出演/坂口拓、鶴見辰吾、黒川芽以、仁科貴、西明彦、山中アラタ、鷲巣あやの、ペ・ジョンミン、泉カイ、麿赤兒、村上淳 R15+
『デッドボール』
監督・脚色/山口雄大 脚本/戸梶圭太 出演/坂口拓、星野真里、蜷川みほ、須賀貴匡、ペ・ジョンミン、播田美保、ミッキー・カーチス、山寺宏一、田山涼成 R15+
4作品ともに7月23日(土)より銀座シネパトスほか全国順次ロードショー 配給/日活 ※銀座シネパトスでの公開期間中は初日舞台挨拶を含め、連日イベントを企画しているので公式HPもしくは公式ツイッターをチェックされたし! <http://www.sushi-typhoon.com/jp>
暴れまくり。
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
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[第123回]北国で93年間営業を続ける”大黒座”と町の記録『小さな町の小さな映画館』
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[第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』
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[第11回]美人女優は”下ネタ”でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』
[第10回]ジャッキー・チェンの”暗黒面”? 中国で上映禁止『新宿インシデント』
[第9回]胸の谷間に”桃源郷”を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』
[第8回]“都市伝説”は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』
[第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』
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[第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が”倒錯美”の世界へ
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[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……
[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは”映画の神様”となった
[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学
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