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【元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第99回】

あおり派週刊誌に宣戦布告!? 「ポスト」覚悟の総力大特集、その中身とは?

12818.jpg「週刊朝日」7月22日号

第1位
「独占スクープ!! 福島第一原発最高幹部がついに語った フクシマの真実(前編)」(「週刊朝日」7月22日号)

第2位
「ウクライナの百倍緩い―チェルノブイリの汚染地域と日本の『規制値』を比べたら…」(「AERA」7月18日号)

問題提起特集
「『恐怖の放射能』の嘘を暴く-原発デマと節電ファッショの酷暑」(「週刊ポスト」7月22・29日号)


 「覚悟の総力大特集」と謳ったポストの特集については、後で触れる。

 日曜日(7月10日)の朝日新聞の読書欄で、柄谷行人が「いま、憲法は『時代遅れ』か」(樋口陽一著/平凡社)を評している中で、こう書いている。

「憲法は国民が国家権力を縛るものだ、という観点から見ると、現行憲法は『時代遅れ』であるどころか、きわめて今日的である。憲法25条1項には、こうある。《すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する》。たとえば、震災でホームレスとなり職を失った人々を放置するのは、憲法に反する。また、放射性物質の飛散によって人々の生存を脅かすのは、憲法違反であり、犯罪である」

 1999年9月に起きたJCO東海村「臨界事故」で作業員2人が被曝して亡くなった。捜査が進むにつれ、手抜き手順を明記した裏マニュアルの存在など違法作業が日常化していたことや、上層部がこれを容認していたことが明らかとなり、幹部社員6人が業務上過失致死罪で逮捕されている。

 今回の福島第一原発事故は、東電による「人災」であり、明らかに犯罪を構成すると思うのだが、東電トップの逮捕はないのだろうか。

 さて、「AERA」の記事は2ページだが、へぇ~そうなんだと、考え込んでしまった。今回の福島第一原発事故はチェルノブイリの時と同じレベル7である。

 しかも旧ソ連時代だから、言い方は悪いが、住民無視の政策をやっていたのではないかと、以前はそう思っていたのだが、原発周辺住民の避難(3年経って強制的に避難させられた人たちもいるが)や、その後の住民たちの健康調査など、思っていたほど悪くはないことを、このところの報道で知った。

 ベラルーシやロシア、ウクライナ3国の食品についてのセシウム137の規制値も、日本に比べて驚くほど厳しいというのだ。

 ウクライナの飲料水の規制値は1キログラム当たり2ベクレル。日本はセシウム134と137の合算値だが、200ベクレルである。

 野菜は7倍以上、肉類で2.5倍、魚では3.33倍、果物は7倍、卵5倍と、日本の方がはるかに緩い。

 「AERA」編集部が入手したウクライナ保健省の資料によると、原発事故以来、規制値は繰り返し改定され、徐々に厳しくなってきたようだ。その上、日本にはどこの国にもあるストロンチウム90についての規制値がないのだ。

 原発事故による食品汚染問題に詳しい宮崎吉郎さんは、実際に放射能被害に苦しんだ地域から学ばないのはおかしいとした上で、こう語る。

「農産物について、必要な検査とその結果の公表を地道に繰り返し、消費者の信用を取り戻すためにも、日本はウクライナのデータを活用すべきだ」

 今の永田町村の醜悪な権力争奪ごっこを見ていると、まだ旧ソ連の方がましだったかもしれないと思ってしまう。日本は「最大不幸社会」になっているのは間違いない。

 1位の「朝日」の記事には最高幹部とあるだけで名前はない。文中に吉田昌郎所長のことが出てくる。私は、吉田所長本人が語っているのではないかと推測するのだが、その当否は別にして、なかなか興味深い内容である。

 冒頭、玄海原発の再稼働問題について、「フクイチ(福島第一原発)の事故を経験した私に言わせれば、そんなバカなことはやめたほうがいい」と言っている。それは、玄海原発は老朽化が進み、現地はフクイチよりも地盤が軟らかいからだ。

 フクイチ事故は、地震による被害も大きかったが、津波対策がおろそかだったため、事故が深刻化した。この心配は全国の原発に当てはまるという。

 現場と東電本社との温度差があり、現場ではこれ以上汚染水を海に放出することは許されないと認識しているが、なぜか本社は海に流すことをいとわない雰囲気があるというのだ。

 汚染水を循環するシステムは日米仏でやっているが、現場では、日本だけで十分やれると思っていた。それがなぜそうなったのかについては、「政府同士で商取引の約束でも交わしたのでしょうか。本社のある幹部は政府や経産省との絡みも暗ににおわせて、『勘弁してくれ。こちらでもどうにもならない』ということでした」と話す。

 また、「安定したら、何とか核燃料を外に取り出したい。しかし、その燃料がどんな状況なのか、すでにメルトダウン、さらにはメルトスルー(原子炉貫通)もないとは言えない。飛び散っていることも考えられる」と、内部の現状把握もまだしていないことを明かした上で、今の一番の課題は、現場で作業をする「人」だという。

 これからの暑さと、台風などによる雨の中で仕事ができるかどうかと心配する。吉田所長から聞いた話として、こうも言っている。

「恐らく今後、年内に安定化できるかどうかが焦点になるだろうが、それは正直厳しい」

 原発事故から4カ月が経ち、福島第一原発事故が収束方向に向かっているように「錯覚」している国民も多いようだが、まだまだ予断を許さないことは、原発内部の幹部も認めているのである。

 最後になったが、「ポスト」の「覚悟の総力特集」について書こう。

 まずは巻頭2ページを使ったリードにやや圧倒される。これまで新聞・テレビが政府・東電の発表を垂れ流してきたことを批判している。だが、本丸はライバルである「現代」や「文春」、「朝日」のような「放射能の危険」をことさらあおる週刊誌である。

 その連中に共通しているのは「知識の乏しさと科学リテラシーの低さ」で、ありもしない「放射能クライシス」をあおり立てる報道に対して、「これを正すことも報道機関の責務である」と、すごい気合いの入り方だ。

 また、こうしたあおり派雑誌に登場する「専門家」は、原子力の研究者というより反米・反日活動家や、間違ったことを主張するために、学会で名誉ある地位を占められなかった人物たちであると難じる。

 デマを真実と思いこんだ国民の中には、ノイローゼになったり、子どもを産むことに恐怖心を覚え、人工中絶するケースまで出ていることを憂い、「今回の事故による放射線汚染で、子どもが『奇形』や『遺伝子異常』で生まれる可能性は『ゼロ』だといっても過言ではない」と言い切る。

 最後に、「ポスト」は「バイアスや信条、利権に基づいた報道はしないと読者に約束する。それこそがメディアの良心だと信じるからである」と結ぶ。

 これだけ気合いが入った特集とは何かと見てみると、まずは、「50年前の日本は『放射線まみれ』だった」。スリーマイル島やチェルノブイリ原発事故があるもっと前、45年にアメリカが大気圏核実験して以降、今日までに世界中で2,000回以上の核実験が行われている。中でも62年には年間178回の核実験が行われ、世界中に「死の灰」がまき散らされたから、その当時の方が今とは比較にならないぐらいの放射線量があったと、「日本分析センター」というところの協力を得て、63年から今年までのセシウム137の測定値を表にしている。

 ちなみに63年の秋田は3.36ミリシーベルト/年、東京も1.69ミリシーベルト/年であるが、その後減り続け、86年のチェルノブイリの時にやや上がるが、00年にはほとんど検出されなかったそうだ。

 このデータを見れば、今よりもっと高い放射線量を浴びても、その後の日本人のがんの発症率への影響は見られないし、広島・長崎の原爆経験者の妊娠例を調査しても、被爆(「ポスト」は被曝を使っているが、原爆の場合はこちら)の影響による子どもの先天性異常がなかったことは確実であるとしている。

 要は、原発周辺は別にして、現在の放射線量など心配しなくていいと言いたいのである。

 その後には「逃げ惑う『ノイローゼママ』、離婚、中絶、子づくり延期、そして結婚差別」、「『内部被曝に効く』『放射能を除去する』インチキ商品、未公開株詐欺が横行中」、「『節電しろ』と言う人たちのオフィスの気温を測ってきた」、「灼熱の原発『潜入記』」ときて、ついにおまえもかと思った「放射線汚染量完全マップ」と続く。

 この「完全マップ」は、医学博士の加藤洋首都大学東京放射線学科准教授(この大学って石原都知事が旗を振ってできた大学だね)と取材班が、モニタリングポストが使っているのと同じ方式のシンチレーションカウンター(価格は50万円)を使用して、東京の人気公園や関東沿岸の海水浴場を独自調査したというのである。

 その結果は、あおり派週刊誌が大声で騒いでいるような計測値は出ないし、国が定めている1時間当たり3.8 マイクロシーベルト(年間20ミリシーベルト)を超えるところはなかったとしている。

 わずかに都立葛西臨海公園で2.10 、都立水元公園で1.55という計測値が出たくらいで、心配せずに子どもと一緒に遊びに行ってもらいたいと結んでいる。

 「ポスト」は、GM管の方式のカウンターでは2倍以上の数値になるところがあるが、これは安物だからで、信用できないとしている。

 私はこうした方面に明るくないが、知人の専門家に言わせると、GM管はガンマ線だけではなくアルファ線、ベータ線なども計測してしまうので、文科省のやっているように覆いをして、ガンマ線だけにして計測すれば、ほぼ同じ値になるそうである。

 しかし、今回の原発で使用されているウラン235やMOX燃料が核分裂した際に出てくるさまざまな核種は、主にベータ線を出すものばかりで、自然放射線源との明確な違いは、このベータ線の量の異常な多さだから、ベータ線を測らせない国のやり方はおかしいと、彼は言っている。

 私は、国が安全だとしている年間20ミリシーベルトという数値への疑問もあるが、ここでは触れないでおこう。さて、あおり派、デマ週刊誌と「ポスト」から難詰された他の週刊誌は、沈黙するのではなく、挑戦を受けて堂々と反論すべきであろう。

 放射能の問題は、子や孫だけではなく、人間が今後どう生きていくのかを考える根源的な問題なのだから。
(文=元木昌彦)

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか

良心の危機

大変だ!

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最終更新:2013/09/12 13:21
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