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ある日突然”難民”になった女子大学院生が日本社会をサバイブ!『困ってるひと』

komatte.jpg『困ってるひと』(ポプラ社)

 ビルマの難民支援問題に全身全霊で取り組んでいた20代の女子大学院生が、ある日突然、原因不明で治療方法もない難病を発症。その体験を本人が綴った本が、大野更紗著『困ってるひと』(ポプラ社)だ。

 このあらすじで、すでに身構えてしまった方は多いのではないだろうか。難民支援に携わるなんてかなり意識の高い人なんだろうし、その上、難病という稀な苦労と闘っている。そんな内容の本を読んだらきっと、「恵まれた生活送ってるのに、甘えてて、どうもすみませんでした」とひれ伏すしかないんだろう。だったら、もう頭下げておこう、と。

 でも、そうではないのだ。

「病気にかかっているかどうかにかかわらず。年齢や、社会的ポジションにかかわらず。けっこうみんな、多かれ少なかれ苦しくって、『困ってる』と思うのだが、どうだろう」

 これは、本書の「はじめに」の一節。ステロイド剤を服用しながらの生活で、最低限の行動をするにも苦痛が伴い、ただ「生きている」ことそのものが困難という著者がこのように書くのは、「こんな状況でも自分が一番大変だって言わない私」アピールのためでは決してない。

 文章は、こう続く。

「どうしてこんなに苦しいのか、みんな困らなくてはならないのか、エクストリーム『困ってるひと』としては、いろいろ思うところがあるのです」

 ただの”感動モノ闘病記”ではないということが、この一文からよく分かる。難民という「困ってるひと」の問題を研究していた人らしい視点がとても新鮮なのだ。

 ビルマやタイ、日本での支援・研究活動、突然の発病、つらい体を引きずっていくつもの病院をめぐり、痛みを伴う検査を受けて、病名が判明するまでの1年間の検査期間。そして、「筋膜炎脂肪織炎症候群」と診断された後も、治る見込みもないまま続く入院生活。親しい友人に語りかけるような軽やかな文体でその様子が綴られているものの、「死にたい」「どうやって生きていったらいいか分からない」といった言葉がそこここに現れる。
 
 そんな中、「ある出来事」をきっかけに、「もう少し生きたいかも」と思うようになった彼女は「モンスター」とバトルを繰り広げる決意をした。

 ”モンスターとのバトル”とは、医療や障害、介護、社会保障にかかわる制度との格闘のことだ。「困ってるひと」を助けるためにあるはずの制度なのに、その助けを受けるための手続きは、「さらに困らせようとしてるんだろうか」と疑いを禁じえないほど煩雑だったり、かゆいところに手が届かないようにできていたりする。彼女は、この「モンスター」を「ハムスター」程度に弱体化させたいと願っている、という。

 モンスターとのエンカウントは、失業したり、配偶者を失ったり、自分や家族が介護が必要になったり、といったあらゆる困難のかたちで、誰にでも簡単に起こることだ。彼女の姿を、とても自分には関係ないと思うことはできない。だから、この本に書かれた彼女のバトルを読むと、「頭が下がる」なんて他人ごとのような言葉は出てこなくなる。「前を向こう」と思わせられるのだ。
(文=萌えしゃン)

●おおの・さらさ
1984年、福島県生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒。上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科地域研究専攻博士前期課程休学中。学部在学中にビルマ(ミャンマー)難民に出会い、民主化活動や人権問題に関心を抱き研究、NGOでの活動に没頭。大学院に進学した2008年、自己免疫疾患系の難病を発病する。1年間の検査期間、9か月間の入院治療を経て、現在も都内某所で闘病中。 <http://wsary.blogspot.com/>

困ってるひと

みんな困っている。

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最終更新:2013/09/12 15:30
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