究極の人材育成! 宇宙飛行士になるまでを取材した『宇宙飛行士の育て方』
#本 #宇宙
近年、日本人宇宙飛行士の活躍が目覚ましい。若田光一飛行士、野口聡一飛行士、山崎直子飛行士に続き、2011年6月8日、古川聡飛行士がロシアの宇宙船「ソユーズTMA-02M」に搭乗し、宇宙へ飛び立った。医師としてさまざまな科学実験・研究を行うため、ISS(International Space Station 国際宇宙ステーション)に5カ月半の長期滞在をする予定だ。古川飛行士にとって初飛行であり、日本人で9人目の宇宙飛行士となる。
宇宙飛行士と言えば、人気コミック『宇宙兄弟』(講談社)がまず頭に思い浮かぶが、実際はどのような世界なのだろうか。『宇宙飛行士の育て方』(日本経済新聞出版社)は、元・日本宇宙少年団情報誌編集長で、宇宙専門ライターの林公代氏が、宇宙飛行士候補者が宇宙飛行士になるまでの課程を描いたノンフィクションだ。1,000人に3人という倍率の選抜試験から、厳しい訓練を経て、高度な能力を必要とする実務までを、宇宙飛行士や訓練担当者などのインタビューを交えながら紹介している。アメリカ(NASA)とロシアの違い、宇宙ステーションでの”家事”、宇宙食の進化などのエピソードが多数語られており、興味深い。
宇宙飛行士に必要な資質とは何なのか。知識や技術はもちろん、強いメンタルとコミュニケーション能力が必須条件であるという。宇宙空間という閉鎖され、地上と切り離された環境で、3~6人の固定された人間関係で長期間を過ごさねばならない。宇宙飛行士たちは、通常の生活とは全く異なるストレスにさらされる。そういった環境下で、やはり一緒にいて陰鬱な気分になる人より明るい人が好ましく、意思疎通を明確にすることが求められる。野口飛行士は、フリーズドライのマグロ漬けやウニ、ホタテなどを使った手巻き寿司を仲間に振る舞うなどして、楽しみながらコミュニケーションを取っている。「自分を見失わず、優秀な世界の飛行士の中でも生き残れるタフさ、ストレスに過敏にならない打たれ強さが評価されて、自分が選ばれたのかもしれない」と自身を評している。
宇宙空間という過度の緊張を強いられる極限下では、異文化への理解やコミュニケーション能力など、人間の基本的な生存スキルがより重要となってくる。強い意志で夢に向かってまい進し、仲間と巧みにコミュニケーションを取りながら、宇宙飛行という大仕事を楽しむ。宇宙飛行士たちこそ実に見習うべき人生の達人であるのだ。
(文=平野遼)
●はやし・きみよ
神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーに。書籍、雑誌、ウエブサイトで宇宙関連の記事を企画・執筆。著書に『宇宙においでよ!』(野口聡一飛行士と共著/講談社)など多数。企画・編集に『宇宙日記』(野口聡一著/世界文化社)、『国際宇宙ステーションとはなにか』(若田光一著/講談社ブルーバックス)など。20年以上にわたって宇宙飛行士へのインタビュー、NASA、ロシア、日本でのロケット打ち上げ、宇宙関連施設取材を続けている。
育てられたい。
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