なぜ、”のび太的な生き方”は10万人に支持されたのか?
#本 #ドラえもん #インタビュー
のび太と言えば、スポーツも勉強もうまく行かず、ドラえもんのひみつ道具に甘えるダメダメ少年……。ところが最近、のび太のような生き方が見直されているという。
「ツラいことがあっても前向きで明るく、楽天的で落ち込まない。先行きが見えない今の時代に、のび太的な生き方が求められているのだと思います」
そう語るのは、富山大学名誉教授の横山泰行氏。全1,345作のドラえもん作品を国会図書館などで調べ尽くし、1999年から8年間、自由参加型ゼミ「ドラえもんの世界」を開講。のび太の人物像を体系的に論じた「のび太メソッド」を提唱し、これを元に2004年に上梓した『「のび太」という生き方』(アスコム)が10万部を超えるロングセラーとなっている。今なぜ、のび太なのか。時代が求めるのび太像と、のび太的生き方の真髄を横山氏に聞いた。
――著書を上梓されたのが04年。息の長い人気の理由はどこにあるのでしょう?
横山泰行氏(以下、横山) 一つは時代の不安感でしょう。リーマンショック以降、景気は底をつき、足元を見直そうという意識が国全体に浸透しています。本が出たのは8年前ですが、実は3月の東日本大震災以降、再び問い合わせが増えています。不安感が充満する今の日本で、多くの人がのび太のような生き方を求めているのだと思います。
――「失敗しても大丈夫」という楽観的な生き方が共感を得ているのでしょうか?
横山 のび太の人生は失敗の連続のようですが、実は重要な節目では着実に希望をかなえているんです。しずちゃんとも結婚しますしね。ぐうたらなのに、どうしたら幸せになれるのか。のび太が夢をかなえる理由を「のび太メソッド」としてまとめたのがこの本です。
――中身を拝見すると、まずはドラえもん作品の代表的なお話をサンプルに挙げ、次にそこからのび太の人物像を掘り出し、最後に実社会への役立て方へ落とし込むという構成です。ダメ少年のイメージが強いのび太をさまざまな角度から検証されています。
横山 ドラえもん作品に出てくるのび太の「吹き出し」をすべて調べると、「ドラえも~ん」と泣きつくシーンが69回あります。一方で、「僕だって」という言葉を10回以上使い、さらにそれに近い表現を加えればその数は数十倍です。ここから、のび太が実は好奇心が旺盛で、ジャイアンやスネ夫への反発心も強いことが読み取れます。こうして作品一つひとつを精査すると、夢を持ちながら実現し続けていくのび太の姿が浮き彫りになるわけです。
――それでも、69回の「ドラえも~ん」は圧巻ですね。
横山 ただ、のび太は何もしないでドラえもんの助けを待っているわけではないんです。これも「吹き出し」を分析すると分かりますが、彼は彼なりに問題解決に向かいます。ただ、能力に限界があって結果的に助けを求める。ドラえもんやひみつ道具はあくまで補助で、最終的にはのび太自身の努力で人生を切り開いているのです。
――まずは努力して無理なら助けを求めるというのは、普通の人でもしますしね。
横山 そうなんです。のび太の実像を細かく見ていくと、多少デフォルメされてはいますが、実は一般的な日本人の姿にけっこう近かったりするんです。原作者の藤子・F・不二雄先生はのび太をご自身の自画像と常々おっしゃっていましたが、読者ものび太に自身を投影しながら読んでいるところがある。ダメ人間のようで彼が本気で嫌われない理由は、実はそんなところにあるのでしょう。
――なるほど。のび太に対する見方が俄然、変わってきました。
横山 のび太が素晴らしいのは、常に夢を見続けていることです。名作と言われる「モアよドードーよ、永遠に」(てんとう虫コミックス短編17巻)では、ひみつ道具「タイムホール」などを使って絶滅動物の楽園を作る夢を描き、実現にまい進します。途中、テレビ局が計画を嗅ぎつけるなどさまざまな障害が発生しますが、ドラえもんの助けを借りながら無人島を作ることに成功します。夢や希望を持ち続けることが人生にいかに大切かを、のび太が作品の中で教えてくれています。その凝縮が「のび太メソッド」ということになります。
――主な読者層は30代前半~40代前半のいわゆる「ドラえもん世代」ですか?
横山 実は10代から60代まで年齢、性別に関係なく幅広く読まれているようです。意外だったのが若い読者が非常に多いことで、編集部に返信されてきた読者アンケートのはがきは、大半が10代前半でした。書店さんからの声を聞くと置き場に困るらしく(笑)、教育・コミック・ビジネス・自己啓発など、いろいろなコーナーに置かれているようです。ドラえもん作品自体が老若男女を選ばない作品ですが、その普遍性がこの本の売れ方に表れているというのも興味深い現象だと思います。
(構成=浮島さとし)
出来杉くんにはなれないもん。
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