「井戸端会議で話題にもできない」”ホットスポット”で闘う母親たちの苦悩
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
第1位
「AKB48 芝幸太郎社長 隠された『ドス黒い履歴』」(「週刊文春」7月7日号)
第2位
「<理論物理学者ミチオ・カク教授>福島第一の再爆発に備えよ」(「週刊現代」7月16・23日号)
第3位
「すべての判断は母任せのつらさ 『ホットスポット』柏で闘う母の座談会」(「AERA」7月11日号)
今朝(7月4日)の新聞で、芥川賞と直木賞の候補者が出ていた。その中に、私の友人である石田千さんが、芥川賞にノミネートされていた。石田さんは、作家・嵐山光三郎さんの秘書をしていたころから、自らもエッセーを書き始めた。
最初の本『月と菓子パン』(晶文社)は、彼女にしか書けない何ともホンワカとした文体が魅力的で、多くのファンを獲得した。
その後、エッセーだけではなく、私小説風なものも書くようになった。候補作「あめりかむら」は「新潮」2月号に掲載された100枚の中編である。がん検診の場面から始まり、大学時代の友人の自殺、写真家に誘われて関西旅行へと続いていく。読み終わって、全体的にやや暗いトーンが気にはなったが、芥川賞に十分値する力作である。朗報を待ちたい。
このところ原発関係の本ばかり読んでいるせいか、「ポスト」のように楽観的にはなれない(今週もポストは放射能に関する特集はゼロ)。
「現代」で、広島での被爆体験があり、以来、放射能が人体に及ぼす研究を続けてきた肥田舜太郎医師がこう語っている。
「先日、福島の5歳の子どもに紫斑が出たという相談を受けました。(中略)この子どもさんも被曝の初期症状であることは間違いない」
同じ「現代」で、つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス駅」前の側溝で、毎時1.68マイクロシーベルトを計測したとある。早期に対策を求める住民の声が高まっているが、柏市は動いていない。
「AERA」が、その柏市で子どもを育てている母親3人に、現状と不安を語らせている。こうした普通の人たちの声に耳を傾けるのは、意外にどこもやらない。私は好企画だと思う。
彼女たちは毎日、外出時に線量計でチェックし、子どもには通学時にマスクをさせ、休みの日も家の中で過ごさせているという。
食材は西日本や輸入品で、水はミネラルウォーター。
それでも、学校給食が心配だという。学校から産地を出してもらったところ、千葉県産、それも柏産のものが多いという。
国の「安全だ、安全だ」という報道はウソだと感じているが、結局、判断はすべて母親に委ねられていることに戸惑いを隠せない。
柏市の幼稚園や学校によっては独自に砂を入れ替えたり、校庭の表土を削ったりするところも出てきた。しかし、市は「安全だ」というスタンスだから、表沙汰にしたくないため、こっそりとやらざるを得ないそうだ。
もちろん、彼女たちのような意識的な母親ばかりではない。政府の安全だという大本営発表で刷り込みをされている母親たちとは、放射能の話題すらできないため、井戸端会議がめっきり減ったという。
彼女たちと同じように危機感を持っていても、周囲に話せないで孤立してしまっている母親も多くいるそうである。
いくら訴えても動かない市や、放射能への恐怖から、一人の母親は、被災者向けの雇用促進住宅を申し込んだが、仕事は辞められないという夫と殴り合いのケンカになったそうだ。
また、夫が大分に単身赴任している母親は避難したいと思ったが、両方の実家がいわき市にあるため、そのことを話したらわだかまりができ、父親から「もう、うちには娘も孫もいないことにする」とまで言われてしまったそうだ。
福島第一原発事故による放射能の被害は、平凡な普通の家庭の幸せさえも崩壊させてしまうのである。
このところ、工程表通りに原発事故の収束などできないことが明らかになってきた。しかし、それよりも恐ろしい再爆発があるかもしれないから備えろと、全米で最も著名な理論物理学者ミチオ・カク ニューヨーク市立大学教授が「現代」で、ガンガン警鐘を鳴らしている。
ちなみにこのインタビューをしたのは、私の講談社時代の同僚・松村保孝である。彼は定年後、ニューヨークに住んでいる。
カク教授は、福島第一原発は、いつ状態が悪化してもおかしくない時限爆弾だというのだ。教授が考える最悪のシナリオはこうだ。
「仮に巨大余震に襲われて敷地内のパイプやタンクが壊れたとしましょう。その時点で大量の高濃度汚染水が溢れ出し、放射能レベルは一気に上がる。作業員は全員避難せざるを得ない。そこから原発事故は悪化の一途をたどるのです。原子炉内には水が絶えず注入されていないと、すぐ干上がってしまう。しかし、原子炉の破損がよりいっそうひどくなれば、壊れたカップに水を注ぐようなもので、いくら注いでも水はさっと流れ出す。そうなると炉心溶融が再開し、再び爆発が起こる」
カク教授は、福島第一原発が最悪の事態にまでいかなかったのは、東電の吉田昌郎所長が海水注入を決断したためで、奇跡だったという。
だが、彼のコンピュータによる分析で、日本政府や東電の発表した情報は、早くから正確ではないことが分かっていた。このような間違った情報を出し続けたことで、日本政府の威信は地に落ちたという。
原発からの撤退を段階的にしていくのはもちろん、東海大地震の予想震源域に建つ浜岡原発は一刻も早く運転を永久停止するべきだと言い切る。
カク教授がCNNに出たとき、この原発事故によって東北地方全域で人が住めなくなる可能性があると発言した。このインタビューでも、少なくとも、避難している福島の人たちが、もと住んでいた家に帰れることはないと断言する。
「日本政府は『いつかは正常に戻る』という根拠のない話をしていますが、問題は、福島に正常化などはないということです。本当のことを伝えなくてはいけない。さもなければ今後、現実を知らされたとき、人々はパニックに陥る」
チェルノブイリでさえ、25年経った今でも収束していない。福島の事故も、収束までにおそらく50年から100年はかかるだろうと語っている。
永田町の権力亡者どもや無責任な官僚たちは、こうした「極論」を読んでみた方がいい。あんたらの安全宣言は、日本のほとんどの国民に信用されず、アメリカを始めとした世界中で物笑いの種になっているのだから。
さて今週のスクープ大賞は、文春の「オフィス48」芝幸太郎社長の大スキャンダルである。
「AKB48」の名称の由来は、総合プロデューサーの秋元康、運営会社「AKS」の窪田康志、そして芝の3人の名前から取ったと言われている。
「オフィス48」はAKB劇場の管理を担当し、宮澤佐江、秋元才加が所属している。その芝社長の過去はドス黒く汚れ、彼の背中には緋鯉の彫り物まであるというのだから驚く。
高校卒業後、後に”臓器を売ってカネ返せ”と脅して話題になる「商工ファンド」に勤務し、営業マンとしてめきめき頭角を現し、22歳で山口支店長に抜てきされた。
その後も、ヤミ金業、それも振り込め詐欺のようなことをやっていたと、ヤミ金業者が話している。
その手口は、数百万円の融資をにおわせ、客に3万円程度振り込ませる。その後、週に1万円ずつ5回振り込んでくれといって、その後は、1日遅れたなどと難癖をつけ、いつまでも絞り取るやり方だそうである。
ヤミ金業のかたわら、裏カジノの経営にも手を出す。さらに違法なパチンコの裏ロム(大当たりが出やすくなる不正制御基板)まで販売していたというのだ。
「文春」によれば「AKS」の窪田社長とは、裏カジノで知り合ったようだ。そこから秋元とも知り合い、「AKB48」を作り上げていく。
先日、多くのマスコミが挙ってバカ騒ぎした第3回AKB48総選挙なるものがあった。投票するためにはCDを買わなくてはならない。こうやってCDを大量に売りさばく商法は、私にはあくどく見えて仕方なかったが、そこを批判するメディアはほとんどなかった。
こうしたファン心理につけ込む商法は、芝社長の過去の経歴から生み出されたのかもしれない。「AKB48」結成以来の大スキャンダルが勃発したが、私が知る限り、これを後追いしたマスコミは無いようだ。おかしいと思わないか?
(文=元木昌彦)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
家族は自分で守る。
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