ネット上の盗聴法? 共謀罪の再来? 可決成立の「コンピューター監視法」は大丈夫か
#ネット #神林広恵 #法律
伝説のスキャンダル雑誌「噂の真相」の元デスク神林広恵が、ギョーカイの内部情報を拾い上げ、磨きをかけた秘話&提言。
少し前のことになるが、大震災のドサクサにまぎれ、とんでもない事態が進行してしまったことについて、あらためてここに問題提起したい。「コンピューター監視法案」(情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案)が6月17日可決成立したのに、同法律に関する議論が、ネットの一部を除いては、ほとんどされていないのだ。
この法案は、
1、コンピューター・ウイルスを作成・取得で罪になることもある。
2、捜査機関が裁判所の令状なしで証拠が保全できる。
3、ゲームやアニメなどを含むわいせつ物基準の広範化につながる。
など、運用次第では人権や言論の自由を侵害し、権力乱用を許すなど、多くの問題を含んでいるのだ。
しかしマスコミ・世論の反応はあまりに鈍い。朝日新聞以外、ほとんどの新聞はベタ記事扱いだし、ネットでは先の3項目についても「過剰反応」「極端に解釈しすぎ」「そこまで恣意的な運用はしないはず」などの楽観論まで飛び出す始末。
「それは甘すぎますね。ネット上の盗聴法とも言えます。いや盗聴法より酷く、令状なしで通信の履歴やメールのやりとりを把握することも可能になる。しかも、令状なしで監視し、事件化されなければ、本人は監視されている事実さえ確認できない。法務省は成立要件について『正当な理由がない場合』などいくらでも解釈可能な言葉を使い、『保全された通信記録を捜査機関が手に入れるためには令状が必要』と説明していますが、恣意的に運用されないなどという保障はない。正当な目的で作成した場合は罪にならないなどと言っていますが、誰が『正当』か『不当』かを判断するのか」(ITに詳しいジャーナリスト)
この見解が過剰反応ではないことは、歴史を見ても明らかだ。”転び公妨”と言われる公安の手法、冤罪事件の別件逮捕、最近では埼玉深谷市議の公選法違反事件での虚偽供述強要、指定暴力団山口組弘道会幹部の詐欺逮捕(ゴルフ場で組長であることを隠しゴルフをしたことが、詐欺に当たると逮捕)など、枚挙に暇がない。
問題はそれだけでない。この法案の背後にはかつて大きな反発を受けた共謀罪の存在が控えていることだ。
「2005年、09年に廃案となった共謀罪ですが、財務省、法務省、そして警察は未だあきらめているわけではない。しかし、共謀罪は治安維持法の再来と言われるほど問題が多く、以前、大反対を受けて頓挫したトラウマもある。そのためウィキリークス問題や、ソニー個人情報流失などが問題化している現在、コンピューターだったら世論の反発も少ないと踏んだようです」(共謀罪にも詳しいジャーナリスト)
コンピューター監視法案は、これを突破口に共謀罪成立までを視野に入れたものだというのだ。
「サイバーテロのための法案ですから、現実のテロを取り締まる共謀罪も一緒でなければ成功とは言えない、というのが法務省の最終的な考えです。震災のドサクサにまぎれて、監視国家への道をひた走ろうとしているのです」(同)
その危険性のため民主党の中にも反対意見が多かったが、そのことが奇妙なねじれ現象を起こした。
「法務委員会では、民主党が提出したにもかかわらず、野党の自民党は反対しなかった。かつて共謀罪法案を推し進めた政党ですからね(笑)。しかし、自民は『共謀罪を反対したのに今回は何事だ。監視法案を通すなら共謀罪も賛成しないと矛盾するだろう』と攻め立てた。そのため、何人かの民主議員は退席してしまいました」(フリー記者)
思想・言論・通信の自由を侵す危険な法案がいとも簡単に成立してしまった。
「共謀罪の時は多くのジャーナリスト・言論人が声を上げ、大反対しました。しかし今回はメディアもほとんど報道していない。東日本大震災の後、復興、原発事故も収束しない中、多くの記者や国民も関心を持てないのは仕方がないのかもしれません。共謀罪を反対したフリージャーナリストの多くも被災地や原発の取材で、手が回らなかったのが現状のようです」(同)
法案成立にはなんとも都合のいい条件がそろってしまった結果だ。しかし、まだ議論はできる。コンピューター監視法の今後を注視していきたい。
(文=神林広恵)
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