昭和の割腹事件を再現した『MISHIMA』 問題作の封印を解いた鹿砦社の”蛮勇”
#映画 #山本又一朗
1970年11月25日に自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた作家・三島由紀夫。性倒錯をテーマにした自伝的小説『仮面の告白』、大ベストセラーとなった実録犯罪小説『金閣寺』、純文学の中に宇宙人やUFOを登場させた『美しい星』など実に多彩な作品を45年の生涯の中に残した。三島の同名戯曲を原作にした美輪明宏主演映画『黒蜥蜴』(68)の劇中では蝋人形に扮し、美輪と濃厚なキスを交えている。三島が監督・主演した『憂国』(66)の切腹シーンは、4年後の三島事件を予告していたかのような衝撃がある。
スキャンダルに満ちた三島の生涯を再検証したのが、鹿砦社から出版された『三島由紀夫と一九七〇』だ。三島事件がきっかけで「一水会」を結成した鈴木邦男氏と『極説 三島由紀夫』(夏目書房)などの著書があるフラメンコ舞踏家である板坂剛氏が対談形式でタブーレスに三島について語り明かしている。ホモ疑惑のあった三島の交際相手、三島が結成した「楯の会」の選考基準はビジュアル重視、師匠にあたる川端康成のノーベル文学賞受賞作『山の音』は実は三島が書いていた……などのワクワクするエピソードが満載。そして、とりわけ注目したいのが巻末参考資料映像。”日本未公開映画”として知られる緒形拳主演の日米合作映画『MISHIMA』(85)が付録DVDとして封入されているのだ。
『タクシードライバー』(76)の脚本家であるポール・シュレイダーが監督した三島由紀夫の伝記映画『MISHIMA』は、85年のカンヌ国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞しながら、日本では劇場公開されなかった”封印映画”として有名だ。製作総指揮は『ゴッドファーザー』(72)のフランシス・F・コッポラ、『スター・ウォーズ』(77)のジョージ・ルーカス。日本側のプロデューサーに『太陽を盗んだ男』(79)の山本又一朗。キャストは三島役を緒形拳が演じている他、坂東八十助、佐藤浩市、沢田研二、倉田保昭、永島敏行、池部良、三上博史、横尾忠則……とうっとりするような豪華な配役となっている。
海外での公開タイトルは『MISHIMA A Life in Four Chapters』。厳格な祖母に育てられた虚弱な少年期から始まり、「楯の会」のメンバーと共に市ヶ谷駐屯地に乗り込み、割腹するまでの三島本人の伝記パートを軸に、三島の代表作である『金閣寺』『鏡子の家』『奔馬』の3作品が劇中劇として挿入されている。完璧なる美と自死への恍惚感に取り憑かれた男たちの3つの物語が次第に収斂していき、現実世界の主人公である三島本人を自決へと向かわせる構成が秀逸だ。製作当時はミスキャストとも言われた三島役の緒形だが、「楯の会」の制服に身を包み、総監室に立て篭るクライマックスシーンには異様な迫力が漂っている。
カンヌ国際映画祭での受賞後、同年よりスタートした第1回東京国際映画祭でも特別上映される予定となっていたが、一部の右翼による妨害活動があり、東京国際映画祭側が上映を取り止め。海外では一般上映され、ビデオ化、DVD化もされていたが、肝心の日本ではその後も一切上映されず、パッケージ化もされなかった。海外で販売されているDVDを取り寄せるしか視聴することができない”幻の映画”となっていた。
『MISHIMA』が日本で公開されなかった原因を探っていくと、同作を試写で観た三島由紀夫の未亡人である瑤子夫人が劇中の切腹シーンなどを嫌い、「肉親として気持ちいいものではない」と週刊誌に感想を述べたことが発端となったようだ。この記事を読んだ一部の右翼が上映反対のビラを街頭で蒔いたことから騒ぎに発展した。作品を観ることなく、週刊誌の記事を読んだ右翼が上映反対運動を起こしたドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』(07)のケースとよく似ている。
瑤子夫人がやはり切腹シーンを嫌ったことから短編映画『憂国』も三島の死後は上映の機会を失っていたが、瑤子夫人の死後、ようやく2006年にDVD化されるに至った。しかし、『MISHIMA』は依然”お蔵入り”したまま。『三島由紀夫と一九七〇』のあとがきによると、鹿砦社の社長・松岡利康社氏は「世界的名作がこのまま埋もれてしまっていいのだろうか」という心情から、三島の40回忌に合わせて発売された同書に『MISHIMA』をDVDとして封入する”蛮勇”を決意したとのことだ。『MISHIMA』は本当に封印されるべき作品だったのか。世界的作家・三島由紀夫の業績と封印映画の悲劇を改めて検証する上でも、絶好の機会だろう。一度手にしてみてほしい。
あの封印映画がついに!
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