石油エネルギー依存からの脱却で、アメリカの世界覇権も終焉へ!? 資本主義の歴史が証明する未来とは?
#萱野稔人 #プレミアサイゾー #超現代哲学講座
──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。
第12回テーマ「アメリカ・ヘゲモニーと資本主義」
今月の副読本
『長い20世紀──資本、権力、そして現代の系譜』
「アメリカ・ヘゲモニーと資本主義」ジョヴァンニ・アリギ著/作品社(09年)/5460円
「アメリカが覇権を握る経済システムの始めと終わり」20世紀をこう表した世界システム論の代表論者による分析論。アメリカ・ヘゲモニーが終焉を迎える今、新たな覇権は誰が握るのか、その視座を探る──。
前回は、日本の電力供給システムの問題点についてお話ししました。その中で見直されるべき点として取り上げたのは、垂直統合型といわれる電力供給の仕組みです。つまり、電力会社が発電と送電を一括して担うという仕組みですね。発電という生産の部分と、送電という流通の部分をひとつの会社が「垂直」に「統合」して電力を供給するので、「垂直統合型」と呼ばれます。
今回考えていきたいのは、この垂直統合型のシステムとアメリカのヘゲモニー(覇権)との関係です。もともと垂直統合型の生産システムが確立したのは、アメリカのフォード社による自動車の生産においてでした。フォード社は、自動車という大型の耐久消費財を効率良く生産し販売するために、設計から資材調達、組み立て、流通、販売まで、「垂直」に「統合」して自社で行うシステムを考案しました。こうした方式が耐久消費財を生産するスタンダードなシステムとして世界中に広がったのが20世紀です。第二次世界大戦後の世界的な高度成長は、この垂直統合型の生産方式の広がりによってもたらされました。日本はこの生産方式をより洗練させ効率化することで、世界第2位の経済大国にまでのし上がったのです。その典型がトヨタ自動車です。
イタリアの経済史家、ジョヴァンニ・アリギは名著『長い20世紀──資本、権力、そして現代の系譜』の中で、20世紀におけるアメリカの世界的なヘゲモニーを支えたのは、この垂直統合型の生産方式だと述べています。要するに、アメリカはこの生産方式によっていち早く生産力をアップさせ、それによって世界最強の軍事力を手にし、世界の覇権国になったということです。
もちろん軍事力だけでは、世界の覇権国になることはできません。これまでもこのコラムで述べてきたように、世界的覇権国になるためには、世界の政治的・経済的な枠組みを決定するためのルール策定能力が不可欠です。アメリカが民主主義と自由貿易のルールを普遍的なものとして世界に貫徹しようとするのは、そのためです。
2003年にアメリカはイラクを軍事攻撃し、イラク戦争が勃発しました。その背景には、フセインが00年に石油輸出代金の決済をユーロで行うと宣言し、石油の国際取引はドルで行うというドル基軸通貨制に挑戦してきたということがありました。ドル基軸通貨制は、現代の世界経済における最も基本的な枠組みのひとつです。その基本的な枠組みの防衛とイラク戦争は、決して無関係ではありません。またアメリカは、日本と違って中東産の原油に対する依存度が非常に低いにもかかわらず、中東で何かあればすぐに政治介入しようとするのも同じ理由からです。つまり、これまで国際石油市場はドルを基軸とし、ニューヨーク・マーカンタイル取引所の石油先物市場での価格をベンチマークとして成立してきたので、その国際石油市場に悪影響をもたらすような政治的攪乱要因をアメリカは産油国から取り除こうとするわけです。アメリカのヘゲモニーは、こうした世界資本主義の枠組みを決定し、それを世界最強の軍事力と政治力によって維持することで成り立ってきました。
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