注目を集める復興支援策「キャッシュ・フォー・ワーク」とは?【前編】
──若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言
■今回の提言
「被災者自身の労働でお金を 回して災害からの復興を!」
ゲスト/金子良事[社会政策・労働問題研究者]
東日本大震災から3カ月が経過した。被災地でのボランティアの活躍が伝えられるが、そうした無償の支援とは異なる、復興支援の新たな枠組み「キャッシュ・フォー・ワーク」が動きだしている。原発事故をめぐる報道合戦が加熱する中で、復興に向かい始めた被災地を、いかにバックアップするか? これからの災害支援を考える。
荻上 東日本大震災は日本経済にも地元経済にも、甚大な被害をもたらしました。地域によっては震災直後、さまざまな市場そのものを喪失し、今なお雇用にも深刻な影響を残しています。そうした中、経済的な復興支援の枠組みとして、キャッシュ・フォー・ワーク(以下、CFW)の導入が注目を集めています。これまで、がれきの撤去や炊き出しなど、経済的な秩序が回復するまでの被災地での緊急避難的な活動は、行政や外部のボランティアによる無償の支援が是とされていました。それに対し、被災者自身を災害復興事業に雇用して金銭的な対価を支払い、経済的な自立を支援する仕組みを作ろうというのがCFWの概要です。
そこで今回は、災害経済学研究者の永松伸吾氏が立ち上げた、その導入のためのネットワーク「キャッシュ・フォー・ワーク・ジャパン(CFW-japan〈http://cfwjapan.com/〉)」に参加し、社会政策・労働問題研究の立場から独自の提言をされている金子良事さんをお招きいたしました。まだCFWは多くの人にとって聞き慣れない言葉ですから、まずはそれがどういう理念なのか、今回の震災の特徴に鑑みてどういう意義を持つのか、あらためてご説明いただけますでしょうか。
金子 狭義のCFWは比較的新しいもので、2004年のインドネシアの大津波や10年のハイチ地震などの復興支援から始まりました。簡単に言うと、被災前から厳しい貧困地帯だった地域で、食糧などを無償で提供するよりも、現金収入を伴う雇用の場を現地の方に提供するという支援の形です。この雇用にはもうひとつ重要な側面があります。それは、
現地の方が自らも復興に参加しているという意識を持てる点です。ただ、今度の震災ではまったく同じように適用はできません。日本では、貧困対策を兼ねる必要がないですから。
それから、CFWを実施する際に気を付けないといけないのは、あくまで本格的な経済活動が始まるまでの一時的支援として位置付けられなければならない、ということです。
ある程度経済が回りだした段階になって、それを阻害する動きになってはいけないんですね。これはボランティアにも当てはまることだと思います。
被災地の実際の支援ニーズにCFWはどう応えるか
荻上 無償労働のボランティアがいつまでも続いてしまうと、経済秩序の形成を遅らせてしまう。CFWもまた、同様の点に注意しながら、秩序が破壊された状態から暫定的な市場を作り、そこから回復へ向かうためのブースト機能を果たすというのが狙いですね。
途上国支援のあり方などを議論する開発経済学の分野でも、支援がニーズにかなわずに無駄に終わる、支援がむしろ現地の市場を破壊するという「傲慢な援助」を避けるにはどうすればいいのかが、重要な論議とされています。「感染症予防に」と蚊帳を送ったら漁師が漁網に使っていた、優秀な医療団を無償で派遣したら現地の医師たちを失職に追い込んだ、というようなケースと同様に、秩序回復しつつある被災地へ炊き出し支援に行ったら、近くの飲食店の収益を減らした、ということも起こり得る。ボランティアの方々が善意で行った行為でも、それが中長期的に実効的な善行になるかどうかは別。途上国支援のノウハウを意識し、「復興途上地域」への効果的な支援を、とうたうCFWの理念には賛成です。
ところで金子さんは、僕の盟友である経済学者の飯田泰之らと共に、岩手の被災地に入られていると伺っております。
金子 はい。印象深かったのは、岩手県大船渡市の「復興食堂」という炊き出しキャラバンを訪ねたときのことです。そこで伺ったのは「みんなが集まれる場所を作る」ことの重要さです。炊き出しというと、生きるための最低限の食糧確保として理解されがちなんですが、実際にはそれ以上の意味があって、社会的関係による精神的支えの比重が、外部で考えているよりもはるかに大きい。これは実は、「働くことを通して生きる歓びを回復していく」というCFWの理念にも通じます。復興食堂は単なる被災者の物質的支援ではなく、結果的に社会的存在としての人間の精神面でのケアに寄与していたんです。
荻上 僕も先月、東北に続いて3月12日に発生した大地震【註:長野県北部地震。単体では大きく報じられなかったが、M6・7、震度6強が観測されている】で被災地になった長野県栄村を取材してきました。栄村では現地の公民館が壊れてしまったことを多くの方が問題視し、再建基金を募っていました(募金詳細は「栄村ネットワーク被災情報ブログ」等を確認のこと)。栄村には31の集落があり、人口は2300人ほど。ほとんどの家が農業を営んでおり、そうしたコミュニティにおける「集いの場」である公民館の役割は、東京におけるそれとは比べものになりません。労働のための再生産やネットワーク作りの場であると同時に、心理的なよりどころでもありますから。
ところでCFWを行う場合、それが集落なのか大都市なのか、漁村なのか農村なのか、さまざまな要因によって当然事情は異なってくるでしょう。場所によって、CFWが対象とすべき事業のプライオリティも変わってくるかと思いますが、実際に今の被災地でCFWを進めていく上で、どういった課題があると感じられましたか?
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