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中央政府と地方政府のイタチごっこ? 現地の生声で知る「中国電力不足ウラ事情」

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 福島第一原発事故の影響で節電ムードが状態化している日本だが、お隣の中国でも今年の夏は過去最大の電力不足が生じると地元紙が報じ、一部の企業では既に節電対応を迫られるなどの影響が出始めている。

 中国紙が4月に報じた「中国電力企業連合会」の報告書によると、中国国内の電力供給力は今夏のピーク時に最大で3,000万キロワット(原発約30基分)不足すると指摘。さらに5月には国有電力会社の「国家電網」が、過去最大の4,000万キロワットの電力不足を示唆した。これを受けて国家発展改革委員会では、一部の地域で計画停電を検討中と発表している。

 中国の電力不足の背景には、中東情勢の悪化による原油価格の上昇や、華南における大規模なかんばつによる水力発電の供給力低下、福島第一原発事故の影響で石炭価格が高騰しているなど複合的な事情があり、さらには電力卸し料金の政府買い取り価格をめぐる発電会社と中央政府とのイザコザで、発電会社側が意図的に送電抑制を行っているとの指摘もある。

 中国で事業を展開している企業の中には、既に当局からの指導を受けて具体的な節電対応を迫られている例もあるようだ。

 河南省の日系企業に勤務する日本人男性によれば、この6月1日に省内の各企業に省当局からフレックスタイム制の導入を促す文書が通知され、すでに生産活動を深夜帯に移行した企業も出始めている。

「節電の発令は3月末ごろから他の省にも出始めているようで、5月から6月にかけた今が発令ピークを迎えているようです。知人が働く杭州市では5月23日に同様の通知がきたらしく、電力供給が優先されているはずの上海でも、実は3月30日には発令されています」

 停電に備えて自家発電装置を調達した会社もあるといい、一部の時間帯で既に稼働を開始しているという。さらに同省では、ショッピングモールなどの公共施設では空調温度を26℃以下に設定することを禁止する旨の通知も発令され、節電ムードは一般住民にも浸透しつつあるようだ。先の男性が続ける。

「電力不足は中央政府が早い段階からつかんでいたようで、電力コストが高い業種を再編するために昨年から動き始めていたと聞いています」

 「電力コストが高い業種」とは、一般に粗鋼製鉄所、セメント製造、ガラス製造、アルミ製造などの高エネルギー消耗企業群のこと。既に一部では支社や関連施設を統廃合しながら効率化が進められている。

 また、こうした流れに地方政府が逆行した動きを見せているとの声もある。計画停電の実施がウワサされている重慶市で、日系IT関連企業に勤務する中国人男性は、「うちの市の話ではないが」と前置きした上で次のように説明する。

「地方政府にとっては企業が消滅してしまうと税収減で大打撃です。ただでさえ、中央の共産党幹部から押しつけられた不動産を大量に抱えている地方政府は、来るべき不動産バブルの崩壊におびえて青色吐息の財政状態ですから。このため、中央が進める統廃合を、地方がその場しのぎの対応で時間かせぎをしているというのが実態です」

 たとえば、中央からの命令に対して、大幅な節電と引き換えに事業所の存続を訴えたり、それも認められない場合は、一時的に自家発電装置を利用して表面上の電力消費を減らし、中央の目を盗みながら事業所の延命に走る例さえあるという。これに対し、中央政府はしばしば抜き打ち調査を敢行し、”闇営業”の摘発を活発化させている。

 一方で「統合は必ずしも地方にとってマイナスばかりではない」と言うのは、華南でコンサルティング業を営んでいる日本人男性(41歳)だ。

「企業がなくなれば税収は減りますが、その跡地を地方政府がデベロッパーのように整備し、売却益でかなりの利益をあげている例もあります。それに、廃止で企業がなくなる町もあれば、逆に統合して増える町もありますから。そういう町は中央政府のお達しを進んで受け入れています」

 こうした中、日系企業が配慮すべき点は何だろうか。マーケティング・コンサルティング会社「ブランド・コア」(東京都新宿区)代表取締役の福留憲治氏は次のように言う。

「中国では、2004年には3,500万キロワットの電力不足が生じるなど、インフラ不足のリスクは常に内在しています。これまでは外資系企業へ優先的に電力供給が図られるなどの優遇措置があって表面化してきませんでしたが、現在は国内企業の育成に中央政府が方針転換していますから、今後は便宜は期待できないでしょう。こうした状況下では、リスクと課題を把握して詳細なプランを策定することはもちろん、現地スタッフが迅速に意思決定できる体制を作ることが必須です。日系企業はそれができていないために問題が拡大しているケースが多いのです」

 これについては、前出の華南のコンサルタントが補足する。

「電力に限らない話なんですが、地方政府から何かと便宜を引き出すには政治的な”配慮”が必要です。たとえば、地方政府の幹部の親族が経営している会社に仕事を発注して便宜を図る。しかもこれは、地方政府が決断を下す前に迅速にやる必要がある。そのためには現地に決裁権が必要なんですが、日本の企業は何を決めるにも東京本社の会議室で時間をかけて、1カ月して答えが出たことろには中国支社は処分されてたりする。他の国と比べてやり方がヘタですよね」

 お国柄に応じた機動的な”政治力”は常にこの国では求められそうだが、最終的に電力不足が向かう先には何があるのか。中国事情に詳しい作家の宮崎正弘氏に、総括的な予測をしてもらった。

「計画停電と報道されていますけど、中国の場合は実際には計画的な停電というのは、ほとんどないんです。実質的な無計画停電です。予告もなく突然電気が切れてしまうから、困るのは工場を抱えるメーカーです。生産スケジュールが立てられませんからね。生産が滞れば輸出量が伸び悩みますから、その先に待っているのは外貨準備高の不足ということになります。結局は不況に突入せざるを得ないというのが一般的な見方ではないでしょうか」

 慢性的なインフレで国内消費が鈍化し、過剰生産が顕在化しつつある今の中国。マンション価格も「オフィスを更新したら4割引きになった」(上海の某企業)例もあるなど、不動産バブルは水面下で既にはじけているとの指摘も聞かれる。過去最悪の電力不足を目前に控え、中央政府はかつてない厳しい対応を迫られそうだ。
(文=浮島さとし)

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最終更新:2013/09/12 17:13
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