雀鬼・桜井章一が語る、「直感力」を取り戻すための生き方『カンの正体』
#本
かつて20年間無敗という伝説を築き上げた男・桜井章一。裏プロとして数々の修羅場を生き抜き、「雀鬼」の異名で恐れられた彼による最新刊が『カンの正体』(イーストプレス)だ。
勝負の世界で実力や運とともに必要とされる「直感」。しかし、現代人はその「直感力」が鈍っていると桜井は嘆く。彼が、かの阿佐田哲也をして「本物のプロ」と言わしめた勝負師だからではない。それは特別な才能などではなく、誰にでも備わっているはずの能力であると桜井は語る。
そもそも、桜井にとっては麻雀との出会いすらも「直感」のなせる技であった。大学時代に友人に連れられて初めて雀荘に足を運んだ桜井。友人のプレーする姿をその後ろで観察しているうちに、麻雀というゲームの本質を「直感」で見抜いてしまい、ついにはその夜に大勝ちしてしまったというのだ。豊かな自然に囲まれながら育った桜井にとって、麻雀の本質を理解するために必要なのは「知識」ではなかった。川の流れの代わりに勝負の流れを見、鳥のさえずりの代わりに牌の音に囲まれながら、ただ直感だけを頼りに、独自の嗅覚で麻雀の地図を組み上げてしまった。
それから月日を経て、ヤクザなどの代わりに麻雀の勝負を行う「代打ち師」として一晩で数億というカネを動かすまでになった桜井。修羅場と化した卓では一瞬のうちに状況は激変し、その「割れ目」に飲まれてしまったが最後、命すらも「ポン」と消えてしまう(実際に行方知れずになってしまう代打ち師は多かった)。そのように常に死と隣り合わせの状況を過ごしてきた雀鬼にとって、直感力とは日々磨き続けるべき金棒であった。
麻雀は、牌をツモしたら(取ったら)必ず捨てなければならない。状況に応じて、瞬時に「何を捨てるか」の選択を迫られるゲームだ。厳しい勝負の現場で培った「直感力」とは、”捨てる技術”を身に付けることに等しい。そのために、桜井は常識を捨て、自然と戯れ、子どもと遊び、他人に「譲る」力を持つことの必要を説く。現代社会の常識から距離を置き、手持ちの13枚が生み出す「自然」に従い、「直感」を信じて捨てるべきなのだ、と。人間の本性がむき出しになる勝負の現場で生み出されたそのような桜井の思想は、ビジネスの現場や日々の生活においてもまた当てはまることは言うまでもない。
現在は「雀鬼会」という団体を設立し、若者たちとともに麻雀を楽しんでいる桜井章一。もはや雀鬼として掛け金数億円の雀卓を囲むことはないものの、書籍の上で、牌の代わりに言葉を打ちながら、そのアウトローな人生で培った経験を語っている。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
●さくらい・しょういち
1943年、東京都生まれ。大学時代に麻雀をはじめ、裏プロとして頭角を現す。以来「代打ち」として20年間無敗の強さを誇り、引退後は「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、「雀鬼会」会長を務める。主な著書に『人を見抜く技術』『負けない技術』『手離す技術』(以上、講談社)など。
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