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「ランドセルを背負ったリアル”のび太”」金子良a.k.a.のびアニキって一体どんなアーティスト!?

IMG_3373_.jpgリアル”のび太”、渋谷に現る!

 「ド〜ラ〜え〜も〜ん! なんか出して〜」といつも泣きながらドラちゃんの未来道具を頼りにするさえない少年、それはみなさんよくご存じの野比のび太。一方でこの写真に写っている大きな男、丸眼鏡に黄色いトレーナー、黒いランドセル、小学生しかはかないような短パンに水色の運動靴(実は風呂用のビニール靴だったが)、その名を「のびアニキ」という。身長185センチのデカイのびアニキは、もちろん小学生ではなく職業はアーティスト。現在、トーキョーワンダーサイト本郷でTWS Emerging「金子良/のびアニキ[のびアニキのザッツエンターテイメント!]」が開催中だ。この男、話を聞いたり作品を見たりしてみると、勉強嫌いののび太の皮をかぶってはいるがどこかクレバーな工学系男子のにおいがする。しかも、岡本太郎現代芸術賞を受賞している期待の若手作家だ。しかし、どうやらドジっ子なのはのび太と共通しているらしい。うーむ、なにやら得体の知れないアーティスト・金子良a.k.a.のびアニキとは一体どんな人物なのだろうか。ざっくばらんに話を聞いてみた。

──えーっと(笑)。その格好で渋谷駅から編集部まで歩いて来たんですか? 絡まれたりしませんでした?

のびアニキ(以下、のび) はい。もう慣れてますから、別に大丈夫ですね。たまに職質されることもありますが、おまわりさんも結構笑ってくれます。

──まあ、そうですよね。今回はのびアニキさんのことを知らない読者に向けて、まずはのびアニキって誰なんだ? そして、どんなアート作品を作っている人なのかということをお話しいただければと。

のび はい、分かりました。あの、まず、その雑誌(「月刊サイゾー」本誌)を伏せてもらっていいですか? ちょっとそういうの……苦手で……。

──ああ、お姉さんの表紙が刺激的過ぎましたかね(笑)。失礼しました。では始めましょうか。まずは、いつのびアニキが誕生したんですか?

IMG_3472_.jpg

のび え、えー、まず、なんとなく話していて分かると思いますが、僕はそもそもすごく不器用な人間なんです。不器用なので人と話していると、ちょっとうまくコミュニケーションが取れないんです。急におしゃべりになったりとか、もごもごしたりとか。それで、工学系の大学を卒業した後にIMI(グローバル映像大学/旧彩都IMI大学院スクール)という専門学校に入ったんです。(現代美術作家の)ヤノベケンジさんが好きだったので。在学中から卒業して少したつまでの間は、ヤノベさんのスタジオでスタッフをしていました。でも、僕はすごくドジで、作品を倒しちゃったり、モノを壊しちゃったりして毎日のようにヤノベさんに怒鳴られていて。でも、いくらやってもドジが直らないから、最終的には掃除係になっちゃいまして。みんなが「ジャイアント・トらやん」(http://www.yanobe.com/aw/aw_g_torayan.html)とかを一緒になって作っている時に、僕は一人で棚をふいたり掃除機をかけたりして、みんなの作業を遠くから見てました。すると、自然とヤノベさんともみんなとも距離が離れていくんですよね。で、そろそろ実家に帰るべきかな、とも考えてたり。

──確かに。せっかくアトリエで働いていても作品制作にかかわれないとつまらないですよね。それで?

のび ある日、ドジな自分に嫌気が差して、この格好でアトリエに行ったんです。最初はみんなから嫌われるかなと思ったんですが、みんなが笑ってくれたんですよ。いつもの仕事をしているのに、みんな笑うんです。その日を境に、僕はドジをしても笑って許してもらえるようになったんです。

──おお、ずいぶん唐突な(笑)。のび太の格好をすることで、単なるドジっ子が愛されドジっ子キャラになったんですね。

のび 僕自身がやっていることは、いつもと変わらないんです。この格好をしていても、モノを倒すし壊すし。それでも、「あいつだからしょうがない」ということで許してもらえるようになって、ヤノベさんも「面白い」って言ってくれて。この格好をしていると得だし、周りの人とコミュニケーションを取れるようになる、ということに気が付いたんです。

──具体的に作品の中ではのび太、じゃなくて「のびアニキ」はどんなことをやるんでしょうか?

のび 作品台の上に僕が布団を敷いて寝ていて、お客さんが呼び鈴を鳴らすと僕が起きる。のび太も寝るのが得意ですが、僕もすごく得意で。特に引きこもりをしていた時は、本当に寝てばっかりいたので、それをそのまま人前に出したという。あとは、お客さんに僕のプロマイドを渡したり、ツアーガイドをしたり。それと、壁にたくさんのインターホンが付いていて、お客さんが押したところに僕が行って話をする作品もあります。

taro_tennji.jpg枕元には呼び鈴が置いてあり、鑑賞者がベルを鳴らすことで、
のびアニキは起き上がり、ブロマイドにサインをし
プレゼントをするなど鑑賞者とコミュニケーションを取る。

──壁一面を隔てて裏側の構造がすごく入り組んでいて、簡単にインターホンにはたどり着けない。だから変な顔でインターホン越しに話をすることになる。面白いですね(笑)。のび太にしてもそうですが、何かフィルターをかませて人とコミュニケーションを取る、その方法が笑えます。人とコミュニケーションを取りたいけどなかなかうまくとれない、そのネジ曲がって屈折した感じが伝わってきますね。メディアアートというか工学部っぽい印象も受けます。

のび ドラえもんの道具のできそこないみたいな作品もあります。『ドラえもん』って、のび太がいかにドラえもんの力なしで成長していくかっていう話なんです。僕もできるだけ一人でドラえもんの道具を作ってみようと思って考えたのがこれです。秘密道具を、身の回りのモノを使って作りました。

doradogu.jpg「タイムマシーン」(左)と「どこでもドア」(右)。

──こういうの、子どものころやりましたね(笑)。工学部ご出身なら、ドラえもんの道具をまじめに作ろうっていう方向には行かなかったんですか。いわゆるメディアアート系の方や研究者の方で、そういう作品に取り組んでいる方もいると思いますが。

のび 工学部ではプログラミングを勉強してたんです。でもイスにずっと座っているのが嫌になって、体を動かしたくなったっていうのがあるので、コンピューターの中で起こっていることだけよりも実際に手を動かしてモノを作るのがいいですね。キーボードを打っていてもあんまりアイデアが浮かばないなと。あと、ああいう研究は、何年もかけて一つのことをやってたりするんですが、それだと僕には遅いのだと思います。

──だからこういう日用品を使った、子どもの工作がダイナミックになったような、そんな作品が多いんですね。ちょっと話は変わりますが、以前ネット上に「渋谷にのび太がいた!」みたいな情報が流れたのを見たんですが。それも作品の一環なのでしょうか?

14tarosyo_small.jpg「アラウンド運動 マウンテン運転」(岡本太郎賞展バージョン)。
釣りざおの先に取り付けたのびアニキのミニチュアが
展示空間内を冒険するインスタレーション。

のび Twitterでのび太の目撃情報があったのは岡本太郎美術館で展示をしている時で、あの時は、街中で目撃した人がたくさんツイートしてくれて、それでいろんなところでウワサが立ったんです。展示期間中は、閉館後に作品作りに夜の街に繰り出して映像を作ったり、展示に関係あることをするために街に出たりしていて。その話題をTwitter上で広めて、美術館に人が集約されるように考えました。美術館では釣りざおの先に吊るした小さな僕が、会場内を冒険するという展示をしていたので、実際の僕も街に出て冒険をしたんです。で、その目撃情報だけを集めてTogetter(例:「2月17日のびアニキ目撃談 渋谷編」http://togetter.com/li/102250)に集めたんです。なので、それはネットも含めてそのシステム自体が作品というか。「耳にピアスを開けた若い兄ちゃん」だとか、「身長が2メートル」っていうツイートがあったり。そういうのを見た人が、僕のHPだとか美術館で僕に話し掛けてくれるのが面白かったですね。

──ネットワークとか人のウワサも含めて作品にしているってことですよね。それもコミュニケーションですよね。ウワサからコミュニティーを広げて、実際の展示にフィードバックさせる。のびアニキさんの作品を見ていると、すごく構造的な作品が多いように思います。一見ぐちゃぐちゃしているように見えるけれど、ちゃんと一つのルールに基づいて動いている、やっぱり理系っぽい。現在開催されているワンダーサイトの展示では、どんな作品が見られるんですか?

のび インターホンの作品を少し形を変えて展示する予定です。壁の両面に呼び掛けるタイプとそれに答えるタイプが両方あって、それをケーブルでつなぎます。空間の中はケーブルだらけなので、すごく動きづらくて、いくつものケーブルを乗り越えてインターホンにたどり着くような作品を考えています。

wonder03big.jpg壁の対面にインターホンを設置、ケーブルを渡している。

──楽しみです。では最後に今後やりたいことを教えてください。例えば、”のびアニキ”を脱ぐ……ということはありますか?

のび 僕は岩手県盛岡市出身なんですが、3週間程度ボランティアに行っていたんです。盛岡では被災者がホールなどに避難していて、そこでこの格好で子どもの遊び相手をしたんです。子どもたちが「のび太のおじちゃんだー」って(笑)、すごい喜んでくれて。宿題を一緒にやったり、インターホンを使って子どもと会話をしたりしました。結局遊んじゃって勉強できなかったんですけどね。最後には感動的な別れがあったり。質問の答えにはなっていませんね(笑)。んー、でも今のところ、のびアニキに飽きる予定はありません。今までもずっと、のび太を演じていたわけじゃなくて、僕(金子良)自身としてのび太の格好をしているので。それと、またボランティアに行きたいですね。

***

 ぐうたらのび太のイメージとは少々違うが、まじめ(多分ものすごく)で不器用(ものすごく)だけど、人一倍サービス精神旺盛なのびアニキ。ぜひ、気持ち悪がらないで積極的にのびアニキと会話してみよう! トーキョーワンダーサイト本郷の展示は6月26日まで。
(取材・文=上條桂子)

●かねこ・りょう/のびあにき
1980年、岩手県生まれ。美術作家。何をしてもドジ、他者とのコミュニケーションが上手く取れないという自らのコンプレックスから生まれたキャラクター。街へ繰り出し、新しい出会い、発見を求めて作品を制作する。また、展覧会やイベントに出没し、制作した作品をもとに、出会う人々とコミュニケーションを取ろうと図る。黄色いトレーナー、白いシャツ襟、紺の短パン姿という日本の代表的なマンガ/アニメの中のドジなキャラクターを自らと重ね合わせている。
<http://nobi-aniki.com/>

●TWS Emerging 156金子良/のびアニキ[のびアニキのザッツエンターテイメント!]
会 期: 2011年06月04日(土) ~26日(日)
休館日: 6/20
時 間: 11:00〜19:00
入場料: 無料
主 催: 公益財団法人東京都歴史文化財団トーキョーワンダーサイト
会 場: トーキョーワンダーサイト本郷
<http://www.tokyo-ws.org/hongo>

「のび太」という生きかた

実例。

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最終更新:2013/09/12 21:04
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