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アジア・ポップカルチャーNOW!【vol.16】

怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界

yan01.jpg「Untitled」(c) Yan Wei

 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。

第16回
アーティスト/イラストレーター

Yan Wei(ヤン・ウェイ)

 中国の北西部で生まれ、12歳の時に両親とともに北京に移ってきたYan Wei(ヤン・ウェイ)にとって、絵を描くことは当たり前のことだった。程なくして、自分の感じたことや考えを、絵を通して周りに「話し掛ける」のが、自分のやり方なのだと気がついたという。彼女の作品からは乾いた妖気が漂い、子どもの姿を借りた怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回るさまからは、どことなくユーモアさえ感じさせる。そんな自分の作品に、日本のマンガの影響が大きく存在することを、彼女は隠さない。

tedukahinotori.jpg『火の鳥<オリジナル版>
復刻大全集 黎明編』

 「日本のアニメやマンガはとても好きでした。一番好きなのは手塚治虫さん。1980〜90年代には、日本の人気マンガの最新版が簡単に手に入るようになったこともあり、マンガ三昧でした。有名な作家の作品もいくつか読みました。楳図かずおさんや伊藤潤二さんの作品、『ゴン』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『ベルセルク』……。アニメも好きで、『ちびまる子ちゃん』は今でも時々見ています」

 日本画も好きで、中でも怪物や妖怪を題材にしたものに、強く惹かれたというヤン・ウェイ。

「伝統的な構図から、強いインスピレーションを受けました。また、ディテールにこだわり、小さな部分にも多くの労力を注いで仕上げる手法は素晴らしいと思います。かなり前に日本を訪れたことがあるのですが、そのときには日本独自のデザインセンスに夢中になりました。日本の人たちは、自分たちの伝統と文化を維持するための優れた仕事をたくさんしていると思います」

 自分の作品のどこに、実際の「日本文化」の影響が映り込んでいるか、特定するのは難しいというが、日本の「ものづくり」の手法は、確実に彼女にインパクトを与えているようだ。

yancycles-s.jpg<画像をクリックすると拡大します>
「Cycles」(c) Yan Wei

 中国で生まれ育ち、教育を受けたヤン・ウェイにとって、自国の文化は、もちろん、最も興味深いものだという。

「中国の文化もとても好きです。研究対象としても面白いテーマがたくさんあるので、できれば掘り下げてエキスパートになりたいぐらい。でも、いろんなことに好奇心を持ちすぎていて、一つのことに没頭するのは恐らく無理でしょうね。アートに関しては別ですが」

 中国の伝統技術である水墨画的な手法は、最近の彼女の作品に見られる特徴でもあるが、単なる「中国風」な印象を与えるものや、分かりやすいアイコンをただ置くようなことはしたくないのだという。

Untitled-3s.jpg 
pinapple-faces.jpg kamas.jpg<画像をクリックすると拡大します>
左から「Untitled」「Pineapple Face」「烟雾」(c) Yan Wei

「墨と筆による表現手法は、私のアーティストとしてのキャリアを作るひとつのステップに過ぎません。私にとっては使いやすい道具だし、複雑で繊細なディテールを表現するのに適しているということなんです。ちょうど『自画像』という、墨で描いたモノクロのシリーズを完成させたところなので、これから油絵も試してみようと思っています。”色”をどう扱おうかと、ちょっとわくわくしています。油絵というメディアが、自分をどこに連れて行ってくれるか、とても楽しみなんです」。

 この6月には、友人たちと立ち上げたシルクスクリーンのプロジェクト「紙星人(Paper Terrestrials)」のサイトがオープン予定だ。中国の若手アーティストの作品をプロモートする、世界中どこからでも購入可能なオンラインショップでもあるという。もちろん、ヤン・ウェイのシルクスクリーンの新作も発表される。

 多様なメディアの力を得て、ヤン・ウェイの妖魔的異界はどこまでも広がっていく。
(取材・文=中西多香[ASHU])

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●ヤン・ウェイ
1981年中国生まれ。現在は北京をベースに活動するアーティスト、イラストレーター。中国のTsinghua Academy of Art and Design(清華大学)でアートとデザインを学び、2003年BFA(ファイン・アート学士号)を取得。卒業後は、個展やグループ展を中心に作品を発表している。リーバイス、シーメンスなど、グローバル・クライアントのコマーシャルワークも多く手掛ける。
<http://kokomoo.blogbus.com>

なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>

火の鳥≪オリジナル版≫復刻大全集 黎明編

日本マンガ史上不滅の最高傑作。

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最終更新:2012/04/08 23:19
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