前田健さんの至言「自分は赤毛のアンの生まれ変わりだと思ってる」(前編)
#インタビュー #対談 #サブカルチャー #小明 #大人よ教えて!
モテない、金ない、華もない……負け組アイドル小明が、各界の大人なゲストに、ぶしつけなお悩みを聞いていただく好評連載。第25回のゲストは、上映中の映画『それでも花は咲いていく』原作・脚本・監督の前田健さんです!
[今回のお悩み]
「青春っぽいデートがしたいです……」
──映画監督デビュー、おめでとうございます! 小説を先に読んでいたんですが、キャスティングがぴったりで、思わず「似てる!」って言っちゃいましたよ。ほんとそっくり!
前田 そっくり(笑)。じゃあ、みんなだいたい想像するのは同じだったんだな。僕が書いて僕が映像を撮ってるので、ほぼ世界観がブレることなく、「どっちを先に見てもいいぐらいだね」って言われます。
──小説も文庫になりましたし、絶好調ですね! 私も小説を書こうとチャレンジしてるんですけれど、難しくて……。前田さんはいつから、どうやって小説を書かれてるんですか?
前田 僕は演劇少年で、映画やドラマを見るのも好きだったので、言いたいことを物語を通して伝えるのが好きでした。だから、ストーリーを生み出すのに苦労したということがあんまりないです。「こんなふうになったらドラマチックだなぁ」って、すぐ浮かんじゃう。自分は赤毛のアンの生まれ変わりだと思ってる。
──……えっと、前田さんの小説はロリコン・老け専・アセクシャル・セックス依存症などの9つのセクシャルマイノリティーの恋愛を書かれたものでしたけど、やっぱりご自分の経験やエピソードを織り込まれたりしたんでしょうか?
前田 はい。僕自身のことをフィクションになぞらえて織り込んでいることもあります。特に同性愛者のボクサーの話と……。
――あ、あのボクサーの話はすごく好きです! 彼の「試合に勝って、人から注目されて拍手されて、やっとその人と同じ立場に上がれる」っていう自己評価の低さ、大変よく分かります!
前田 それはもう僕が本を書いたり、映画を作ったりするスタンスとまったく同じなんです。僕も自分自身が嫌いで、止まってる自分が嫌いで、動いて何かやっていればどうにかこうにか、「まぁ、頑張ってるね、かわいいやっちゃな」って自分のことを思える。だから、すごく下から、皆さんにプレゼントを献上するような気持ちで、物を作っています。あとは、気の強い女社長がセックスではMの話とか……これは、僕がテレビに出て顔バレするようになると意外とモテない! っていう経験談から来てるかも(笑)。
──えっ、意外と生々しい話を! いや、男性ってテレビに出ればモテるもんなんじゃないんですか?
前田 女の人って有名な人と仲良くなりたがるんだけど、男の人って、自分より稼ぐ人とか有名な人だと行きづらいんですよ。だから、テレビに出れば出るほどモテなくなっちゃったの……。愛されたくてテレビに出たのに、逆行しちゃったなって……。
──確かに、男の人はちょっと若くてバカな子の方が口説きやすいって聞きますね。
前田 あるある。「しょうがねぇな、オレが付いてなくちゃ」って人の方がモテる。
――あれ腹立ちますよね。そいつは絶対お前がいなくてもなんとかなるぞ! 甘やかすから甘えるんだろうが!
前田 本当にねぇ? 自分は自分の人生をまっとうしようと思って頑張ってるだけなのに、それが愛されない方向にいっちゃうって、本当に理不尽だなと思います!
――頑張れば頑張るだけ、「お前は大丈夫」的なポジションになっていくんですよね。
前田 そう! 「もう一人でやっていけるよ、マエケンは」ってよく言われる……。
――悲しいですね……。でもそういうところが創作につながるんですよ、多分! ちなみに、映画の中で、ロリコン中年が大好きな少女と観覧車デートをする、まさに至福の瞬間がありましたよね。前田さんにもそういう「時間よ、止まれ!」みたいな瞬間ってありましたか?
前田 僕はね、観覧車じゃなかったんですけどね、公園の池のボートでした。片思いですごい好きだった男の子と乗ったんですけど、向かい合ってるじゃないですか、ボートって。必然的に彼だけをまっすぐ見られる状態で座っていられるんだけど、水面がキラキラしてて、ちょっといい風とか吹いてるんだけど……「このまま止まれー!」って思ったね(照)。
──ロマンチストですね~! 私は十代のときに初めて好きな人の部屋に遊びにいって、幸せすぎてガスの元栓を緩めようとした時くらいです! ちなみに、そのボートの方には学生時代ずっと片思いしてたんですよね。
前田 そう! その人が結婚するまで、12年片思い。あは!
──12年も!?
前田 あ、でも、好きだったのがずっと続いてただけで、その途中途中でいいなって思って告白したりする人は別にいたんだよ。でも、ベースには彼がいるから、その人からフラれると、また彼に戻るって感じ。だから、これから誰かと結ばれて、同棲して結婚的な生活をしたとしても、その人がドーンって現れて、「お前が必要だからオレのとこ来てくれ」って言われたら、全部かなぐり捨ててそっちに行っちゃう! それくらい好きな人だから……。
──ロマンチストな上に情熱的! その彼を超える人を探すとなると、これからの恋愛のハードルも高いですね~。
前田 高い! そのせいで新しく恋ができないのかなって思っちゃいますね……。あと、映画が人からなんて言われるかで頭がいっぱいになってる部分もあるけど、やっぱり、フラれ続けて、負けデータが多すぎて、「勘違いでもいいから、次行こう!」って思えなくなってきてるっていうか……恋に臆病な大人になってしまってるのかもしれない……。
──また乙女なことを……! でも、私、前田さんのブログによく出てくる「やり残し症候群」にめちゃくちゃ共感してるんです。青春時代に青春をしそびれたまま大人になったので、あのころやり残したことにすごく固執してしまう!
前田 うんうん。中高生のころに、バカップルとか、デートらしいデートとかを経験してないから、今そういうことがしたい。普通に夕飯の買い物をスーパーで二人でするのが夢。
──ああ、やってみたいですね! 「夕飯どうする?」とか言いながら二人で食材をカゴに放り込みたい。
前田 彼が余計なものを入れて「ハイ、これは入れない」って言って戻したりするのをやりたい。
──やりたすぎる! 結婚とかって、そういう、なんでもないけど幸せな毎日がずっと続くってことですよね。最高ですよね。
前田 最高よ。
──そんな日がいつ来るのかと思うと途方に暮れます。
前田 気が遠くなるよね……。
――……えっと、ちなみに、小説から映画化された3作品はどのように選ばれたんですか? 男性が主役の話ばかりなのも、前田さんのこだわりですか?
前田 あ、はい。それは単に、小説から裸が出てこない話をピックアップしたら、自然と男性が主人公の話が多くて。
──なるほど、裸で規制がかかるのはもったいないですもんね。キャスティングも前田さんが?
前田 はい、キャスティングだけは僕が一番こだわらせていただいて。今までご一緒した中で、僕が「すてきだなぁ」と思う演技をする人で、役柄のイメージにぴったりな人を選ばせていただきました。やっぱり、自分が本当にリスペクトしている俳優さんじゃないと撮れないですよね。「この人の素晴らしい演技を際立たせるために全部用意しましょう!」って気持ちになれる人たちを選びました。
――確かに映画でもなんでも「彼女を入れないとスポンサーが……」みたいな話はよく聞きますね……。屈さなかったのは素晴らしい! 前田さんもブログに、ちょいちょいコネだったり外見が良いだけでうまくいった人たちに対する複雑な感情が見られますね。
前田 そうだよ。醜かったから。
──キュートだと思いますよ! 目つきとか、異様に色っぽいですし。なんなんでしょう、そのじっとりとした視線は。
前田 それは、エッチがすごく好きだから。
――えっ。
前田 でも、こうやってグラビアアイドルやれるぐらいかわいいあなたもなんか不幸そうだから、醜いってことで勝手にうらやましがる側に回ってるけど、美しくても幸せとは限らないってことよね……。
──いえ、グラビアアイドルは結局全然やれなかったですし、私のすっぴんはもたいまさこさんからオーラと演技力を取ったようなかんじだし、さらにずっと美人で頭も良かった姉と比べられてきたので、コンプレックスはけっこうなものですよ。
(後編につづく/取材・文=小明)
●前田健(まえだ・けん)
1971年、東京都生まれ。高校卒業後にダンスと歌の修行のために渡米。94年にデビューし、松浦亜弥の完コピモノマネなどでブレイク。2005年にゲイであることをカミングアウトしている。初の原作・脚本・監督映画『それでも花は咲いていく』公開中。
●あかり
1985年栃木県生まれ。2002年史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)、DVD『小明の感じる仏像』(エースデュース)発売中。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
サイゾーテレビ<http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120>にて生トーク番組『小明の副作用』(隔週木曜)出演中
●『それでも花は咲いていく』
テアトル新宿、キネカ大森にて公開中、ほか全国順次ロードショー!
公式サイト:<http://www.soredemohanawasaiteiku.com>
芸人・前田健が贈る、心に響く渾身のヒューマンドラマ誕生!
ものまね芸人として、また最近では俳優として活躍する前田健。彼が2009年に初めて書き下ろした処女小説『それでも花は咲いていく』(幻冬舎)は、従来のタレント本とは違い、セクシャル・マイノリティーの人々をテーマに、本格的な小説として大きな話題を呼んだ。そして今度は、彼自身が初の脚本・監督として、自身の小説で描いた9つの短編の中から、人には言えない心の悩みを持つ3人の男たちの姿を描いた3編、「エーデルワイス」「ヒヤシンス」「パンジー」を映画化。原作者である前田健自らが監督したことで、原作が持つ世界観を壊すことなく、見事に映像化し、見る者の心に響き共感する、渾身のヒューマンドラマが誕生した。
過去に小学生の教え子にしてはいけないことを起こした罪を背負いながら、自分の許されない恋愛に悩む元有名進学塾の講師だった男(仁科貴)。容姿の醜さから人に拒絶されて以来、人を避けながら他人の部屋に侵入することに生きがいを感じる男(滝藤賢一)。そして最愛の母親を突然失い、呆然とした時間を過ごしながら過去の母親に思いをはせる男(平山浩行)。一見否定されそうな癖を持つ3人の男たちの、ナイーブでデリケートな問題を描きながらも、それが異常ではなく、誰にでもある心の中に隠されている悩みや問題として投影され、やがてそれが切ない気持ちにさせていく。まさに今を生きるあなたに問いかける、心の物語である。
主演の3人の男たちには、『アキレスと亀』の仁科貴、『クライマーズ・ハイ』の滝藤賢一、『ROOKIES -卒業-』の平山浩行といった映画・テレビドラマで活躍するバイプレーヤーの面々が初主演を果たし、心の中に悩みを持ち葛藤する男たちを見事に演じている。また彼らを支える助演陣には、南野陽子、麻生祐未、小木茂光、酒井敏也、佐藤二朗、カンニング竹山、ダンカンといった、演技に定評のある面々が顔をそろえている。
<監督コメント>
この映画は2009年に私、前田健が発表した同名の小説『それでも花は咲いていく』を私自らが脚本、監督をした作品です。私は「ゲイであること」をカミングアウトしたタレントでもあります。その「セクシャルマイノリティー」が今作のテーマになっています。人と変わった愛の形を抱えたまま、誰に打ち明けることも叶わず、生きづらいこの世界を健気に、必死に生きていこうとする人たちの姿を3編のオムニバスで描いている。監督・前田健の視点と、そこから見える今のこの世界。そして「それでも生きていかなくてはいけない」という、人の弱さと強さ、幸せと不幸せ、といった相反するものを同時に感じることができる、他に類を見ない作品と言えるものができたと思います。3編の物語の細やかな心情を見事に演じ切った俳優陣(仁科貴、滝藤賢一、平山浩之、他)にもぜひ注目していただきたいです。日陰であろうと、崖であろうと、一生懸命に咲こうとする花のような、みっともなくも美しい人間の姿を、あなたもぜひ、映画館で体感していただきたいと思います。
前田健
原作・脚本・監督:前田健『それでも花は咲いていく』(幻冬舎刊)
出演:仁科貴、滝藤賢一、平山浩行
南野陽子、冨家規政、カンニング竹山、佐藤二朗、ダンカン、酒井敏也、小木茂光、麻生祐未
配給:ケイダッシュ ステージ、リンクライツ
(c)2011「それでも花は咲いていく」フィルムパートナーズ
咲いていく。
●小明の「大人よ、教えて!」”逆”人生相談バックナンバー
【第24回】 叶井俊太郎さんの至言「結婚したければ高2で100人斬りの男を探しなさい!」
【第23回】 須藤元気さんの至言「僕の本なんて、ギャグみたいなものですよ」
【第22回】 オアシズ大久保佳代子さんの至言「本当はOLを辞めたくなかったんだよなぁ……」
【第21回】 Kダブシャインさんの至言「宇多丸は、Kダブをシャインさせない」
【第20回】 楳図かずおさんの至言「世界を相手にやっている人は、友達作っちゃうと危ない!」
【第19回】 キングオブコメディさんの至言「いつ辞めてもいいから、続けられるんです」
【第18回】 バカリズムさんの至言「モヤモヤは、そのまま持ち帰って立ち向かいます」
【第17回】 島田秀平さんの至言「小明さんの手相にはアブノーマル線があるんです」
【第16回】 小森純さんの至言「写真のチェックとか、自分では一切しないんです」
【第15回】 堀江貴文さんの至言「もうメジャー路線っていうものは存在しないかもしれない」
【第14回】 稲川淳二さんの至言「自分の子どもを殺そうか、と思った自分が一番怖かった」
【第13回】 蝶野正洋さんの至言「自分の役割の中で、最大限に光らなきゃならない」
【第12回】 有野晋哉さんの至言「アイドルは『育ちがええねんなー』っていうのが大事です」
【第11回】 鳥居みゆきさんの至言「やりたくないこと、やらないだろうな、ってことをやるの」
【第10回】 宇多丸さんの至言「人にはだいたい『ちょうどいい』ところがあるんです」
【第9回】 桜木ピロコさんの至言「あたしいつもだいたいいやらしいことしてるもん!」
【第8回】 伊集院光さんの至言「結局、うんこを食うしかない状況になるんです」
【第7回】 ルー大柴さんの至言「ライフっていうのはマウンテンありバレーありです」
【第6回】 大堀恵さんの至言「私、いつも『アンチ上等』って思ってるんです」
【第5回】 品川祐さんの至言「なったらいいなと思ってることは、だいたい実現する」
【第4回】 福本伸行さんの至言「俺は『面白いものを作ろう』じゃなくて、作れちゃう」
【第3回】 大根仁さんの至言「ネットの書き込みなんて、バカにしていいんじゃない?」
【第2回】 杉作J太郎さんの至言「そんなことより『ファフナー』見ろ、『ファフナー』を」
【第1回】 河原雅彦さんの至言「もう無理やりヤラれちゃえばいいんじゃない?」
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事