「マンホールからの汚水流出も」被災地を襲う深刻な”下水道クライシス”
#東日本大震災
被災地にボランティアや観光客が訪れることを現地の人たちは、おおむね歓迎している。
だが、注意してもらいたいこともあるという。それは「下水の節水」だ。岩手・宮城・福島の三県では下水道が許容量の限界を迎えており、危機的な状況に陥っているというのだ。
仙台市内に住む50代の主婦Aさんは、震災からおよそ2カ月たった現在も自主的に下水の節水を続けている。
「私の家は高台なのでトイレや台所から出る下水は流れていきますが、低い場所に住んでいる人たちは大変ですよ。仙台は西側の標高が高く東に行くほど低くなっていくので、東側のエリアでは下水があふれるって言われているんです。同じ仙台市に住んでいる人を困らせたくないから、なるべく下水を出さないようにしています」
国土交通省が発表した「下水道施設の被害及び応急復旧状況」によると、岩手・宮城・福島県および茨城県の沿岸部にある19カ所の下水処理場が稼働停止しており、このうち11カ所では汚水が流れだす危険がある。先ほどの主婦Aさんが言うように、家庭などから排出された汚水は高い所から低い方へと管を通って処理場まで流されていく。シンプルな仕組みだが理にかなっている。
ところが、この管が破損したり十分な水がなく流れなかったり、流れ着く先で処理しきれずにたまって逆流するといったことが震災発生当初から懸念されてきた。
宮城県土木部下水道課が発表した「平成23年3月11日(金)に発生した『東日本大震災』(東北地方太平洋沖地震)への対応状況について」によると、汚水を処理するための沈殿池から電気設備まで、浄水施設が軒並み破壊されているとある。さらに国交省によると、汚水を通す下水管にいたっては被災地全域で946kmにもわたってダメージを受けた。
また3月には、懸念されてきた宮城県内のマンホールから汚水が流出する被害も発生した。急場をしのぐために宮城県は、仮設の汚水槽で汚物を沈澱させ、塩素消毒といった簡易処理を施して河川に放出し続けるという手段に出た。
県の発表では、被害を受けた下水処理施設は完全に復旧するまで2年はかかるとしている。これを受けて宮城県では異例とも言える「排水の縮減」を呼び掛けた。「食器を洗う水を減らす」、「小便は一回ずつ流さずにまとめて流す」、「トイレットペーパーは流さないで燃えるゴミに出す」といった具合だ。
筆者が避難所を取材したときも、上下水道が止まっており、施設全体に異臭が立ち込めていたため大きな問題になっていた。
震災から2カ月近くたち、必死の復旧作業でインフラ状況が改善してきたといっても、予断は許さない。そのため、先ほどの主婦Aさんのように危機感を共有してきた被災地の人たちは、今もまだ下水を減らす努力を続けているのだ。
ところが、こうした努力が無になる可能性が出てきた。県外の人間が数多く入り始めたのだ。それが冒頭で紹介したボランティアなどの人たちだ。こうした事態を受けて石巻市に住む30代の男性Bさんは、被災地に人が集まることに感謝の気持ちとは別の懸念があるという。
「全国から大勢のボランティアの方が集まってきています。被災した町を見てほしいという気持ちはあるのですが、あの人たちだってみんな食事してトイレに行くわけで、もしかしたら本当に下水があふれちゃうかもと考えると恐ろしいね。彼らは善意で来てくれているし、ありがたいのですが、複雑な気持ちもあります」
処理前の下水のにおいは相当なもので、避難所でそのにおいを経験してきた被災者たちの懸念も理解できる。
同じくトイレ問題が起きたのが1995年の阪神淡路大震災だった。当時、被災者は屋外に穴を掘って用を足したり袋に便をためてゴミに出すなどの工夫をしていたという。
同じように今回の震災でも工夫をして乗り切ろうとしている人もいるが、老人や女性たちの中には、トイレに行く頻度を落とすために水分を控える人もいる。そのため脱水症状やエコノミークラス症候群を起こすおそれもある。
節水を続ける主婦Aさんは「私は便秘だから大丈夫。トイレに行かないで済んでありがたいと思うのは、こんなときだけよ」と語っていた。強がりとも本気ともとれる言葉だ。
ゴールデンウィークに限らず、今後もボランティアをはじめとして被災地に入る人は増加していくだろう。被災地に観光客を呼び込み経済を活性化させることも、被災者が遠方に住む家族や親戚、友人たちと会うことももちろん大切だ。一概に否定はできない。
だが、生活に密接に絡んだ下水問題だからこそ、インフラが復旧しつつあるいま被災地入りするときは、できる限り下水の節水をお願いしたい。
(取材・文=丸山ゴンザレス/http://ameblo.jp/maruyamagonzaresu/)
深刻です。
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