“原発特攻隊”に誰がなる? 問われる日本の「正義」
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
第1位
「玄葉国家戦略担当相 復興を裏切る大スキャンダル」(「週刊文春」4月28日号)
第2位
「菅官邸が隠した『被曝データ6500枚』」(「週刊ポスト」5月6・13日合併号)
第3位
「新連載 辛坊治郎の甘辛ジャーナル」(「週刊朝日」5月6・13日合併号)
4月25日、3月に亡くなった日本テレビ元会長・氏家齊一郎氏の「お別れ会」へ行ってきた。遺影の写真は最近のものなのだろう。やや頬が膨らんではいるが、メガネからこちらを見つめる眼光は、カミソリのように鋭い。だが読売新聞主筆・渡邉恒雄氏が「お別れの会」のパンフで書いているように「心こまやかな配慮をする男」であった。
日テレの社長の時、私にこう言ったことがある。「おまえさんをテレビに出そうと思うんだが、しゃべり方がこもるからな」。要は滑舌が悪いというのだが、顔がテレビ向きじゃないと言わないところが、氏家さんの優しさだった。
帰りに東西線大手町駅のキオスクをのぞくと、「現代」が売れているようだった。キオスクのおばさんが、「原発の記事が多いからね」と言いながら、奥から10冊ばかり引っ張り出して平台に並べていた。
原発の危機を声高に叫び続ける「現代」のやり方は、週刊誌を売るための常道だから、それ自体批判されることではない。だが、気をつけなくてはいけないのは、恐怖感も時間がたつとだんだん麻痺してくることだ。
原発危機をクローズアップすることで、地震と津波の被災者たちへの支援が、ほとんどと言っていいほど進んでいないことへの憤りを薄れさせてはいないか。
非日常が長くなると、それさえも日常化していく。「朝日」の「東電が公表しない衝撃の『放射線量詳細データ』」では、福島第一原発敷地内に書き込まれた放射線量地図に4月21日、原発3号機の近くで「毎時900ミリシーベルトのガラ(水素爆発で出たガレキのこと=筆者注)あり」とあったという。
確かにゾッとする数字だが、以前より驚かなくなっている自分がいることに気付く。そのことが怖い。広瀬隆氏の言うように「マグニチュード8クラスの東海地震がごく近い将来起こることは、百パーセント間違いない事実」だとすれば、全国にある原発を早急に総点検するか停止しなくてはいけないはずなのに、そうした声は大きくならない。
これだけの大事故を起こした原発を、現状のままでいいと肯定する人たちが半分以上いることの不思議。世界から見てもそうだろうが、同じ日本人としても理解し難いものである。
今週の第3位は、ジャーナリスト辛坊氏の連載コラム。彼は原発事故以来考えていることがあるという。チェルノブイリ原発事故では約30人の消防士の命が失われた。彼らが命を投げ出して核燃料の制圧に当たったためである。
では、福島原発で、震災のためにすべての冷却システムが停止して燃料棒が溶融を始め、格納容器の弁を開けることで惨事が食い止められる(実際には爆発してしまったのだが)としたとき、誰がそれを行うのが適当と考えるかと、辛坊氏は読者に問う。
何やらサンデル氏の「正義とは何か」のようだが、消防士や自衛隊にそれを命じることができるか? 原発を安全だと言い続けてきた学者や政治家、役人から選抜する? または組織のトップである東電社長・原子力委員長・保安院長・経産大臣・総理大臣はどうか? 死刑囚のなかで、最後に人類の役に立ちたいと志願してきた人物に弁を開かせるのは正義だろうか? 考えてほしいと読者に投げ掛け、最後に「しかしその一方で、何が不正義かははっきりしている。それは、国の原子力政策に一切の発言権を持たず、長年東京電力の正社員よりも低賃金で働いてきた地元の下請け企業の作業員に、その命懸けの仕事を押し付けること」だが、今の福島原発では、その不正義が罷り通っているのではないかと問い掛ける。
辛坊さん、来週号で自分の考えを書いてくれるんでしょうね。
「現代」でも同様の企画をやっている。「平成の特攻隊『フクシマ50』に突入命令を出せますか」がそれだ。誰かがやらなければならないのなら、まだ進んでいるわけではないがと言いながら、政府関係者が、「最後には特攻隊を政治の責任で結成するという案が出ています。メンバーの対象は65歳以上で、1日の報酬は10万円、一回の作業は30分程度。これを月に2~3回やってもらうというものです」。
上等じゃねーか。福島原発をジジ捨て山にしようとするならば、まずは65歳以上の政治家(菅首相は64歳だが当然行ってもらう)、元官僚、東電のたんまり退職金をもらった旧役員たちに行ってもらおう。その次なら、笑って行ってやってもいい。
「ポスト」は、先週はSEX特集、今週は、国友やすゆきの濡れ場ばっかりマンガ「時男」を始めた。そんなに焦らなくてもいいのに。
第2位はその「ポスト」の記事。前段は、先週号で電力供給量は足りているとスクープしたために、慌てて東電が供給量の水増しを発表したと自画自賛。
それに続けて、原発事故発生直後に「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(通称SPEEDI)」が稼働し、「試算図」6,500枚が原子力安全委員会などに送られているのに、一度も「放射能情報」が発せられることはなく、公表されたのはそのうちの2枚だけなのはなぜかと菅政府を追及している。
「ポスト」は、3月23日に公表された試算図を見ると、放射性物質が30キロ圏の外側にもせり出していて、圏外でも拡散していたことが分かるのに、1カ月もたってから「計画的避難地域」などという訳の分からない名をつけて、その地域の住民に「避難して」と方向転換したのは「政治犯罪」だと非難する。
その上、その試算図を送られた周辺市町村には、「原子力安全委が公表するので、県が勝手に公表してはならないと釘を刺されました」(福島県災害対策本部原子力班)というのだ。これではチェルノブイリ事故を隠して大量の被曝者を出した旧ソビエト政府とまったく同じ歴史的大罪であると断じる。
そのほかにも、菅首相が設立した「東日本大震災復興構想会議」が、復興よりも増税ありきで、それに大新聞が無批判に乗っかっているのは、会議のメンバーに朝日と読売が取り込まれているからだとする。
「この利権にまみれた『政・官・報トライアングル』の利害が、国民の利害と決定的に相反することである」
被災地の復興支援が遅々として進まないのに、増税の話が独り歩きしているおかしさに、田原総一朗氏も愛想を尽かしたようで、「朝日」のコラム「そこが聞きたい! ギロン堂」で「この国を救うため、菅首相抜きの連立政権を作るべきである」とおっしゃっておる。
震災報道の中で気を吐いているのは「文春」だと思うが、今週も第1位は「文春」の巻頭スクープ。
現在、菅政権の中枢で国家戦略担当大臣をしている玄葉光一郎氏が、我利我欲のために、地位を”悪用”して選挙区に大量のガソリンを送ったというのだ。
それが起きたのは地震からまだ5日後の3月16日。原発から30キロ圏内の福島県田村市に、緊急支援という名目で大量のガソリンが運ばれてきたのだ。
その当時、福島県民の多くが、避難したくても、病院に行きたくても、ガソリンがないために車を動かせず困っていた。
このとき配布されたガソリン・スタンドは、田村市11店、いわき市7店、南相馬市2店だった。
いわき市の人口は田村市の8倍もあるのに、4店も少ない。その上30キロ圏内に含まれるのは、飯舘村、浪江町、双葉町などほかにも多くある。なぜ田村市へ大量のガソリンが運ばれたのか。
玄葉大臣の地元選挙区だからだ。
当然のことながら玄葉氏は、「文春」の取材に答えて、資源エネルギー庁に選定を任せたので、田村市を優先してくれと指示したことはないと弁明する。
しかし、資源エネルギー庁の資源・燃料部政策課はこう言っている。
「緊急供給する前日の15日の夜、玄葉先生がわが庁の上の方に電話を入れ、『田村市、いわき市、南相馬市にガソリンを配給してくれ』と要請なさいました」
車が動かせないために病院へ行けず、死亡した人もいると聞く。政治家失格はもちろん、これはタチが悪い。「今回の疑惑は、政治家としてのみならず、人間の根幹に関わる重要問題」(文春)。菅内閣の命運が尽きようとしているのは間違いないようだ。
(文=元木昌彦)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
教えてください。
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