本家もビックリ!? 風変わりなキャラたちが繰り広げる『バカ昔ばなし』
#アニメ #DVD #サブカルチャー
「むかし、むかし、あるところに、人生に疲れたじいさんが、尖ったナイフみたいな気分で、街を歩いておった」
4月29日発売のアニメーションDVD『バカ昔ばなし』内、「鬼しかいないスナック」の冒頭部分だ。昔話の主人公といえば、気のいいおじいさんだったり、イジワルながらも憎めないおばあさんだったり、基本的には善人の巣窟、と相場は決まっている。人生に疲れたじいさんにスポットライトが当たったことなど、いまだかつてない。ましてや”尖ったナイフ”とな、どこぞの中二だ。
ほかにも、掃除をしても洗濯をしても自分の触ったものすべてを生臭くしてしまう心優しい”おたまじゃくし姫”や、体中から出た垢を使って工作をし、果ては垢でできたガンダム(=アカンダム)を製作してしまうおじいさんとおばあさんなど、徹底的に風変わりなキャラクターたちが繰り広げるのが、『バカ昔ばなし』である。
収録されているのは、「鬼しかいないスナック」、「テング殺人事件」、「アカンダム」、「8個の金玉」、「桃太郎の部屋」、「やまんばのパーティ」、「たぬきの葉っぱ」、「キャプテン地蔵」、「おたまじゃくし姫」の全9話。どの話も、もれなく心温まらない昔話であることは保証する。
中でも、キングオブ昔話である「桃太郎」で、誰もが疑問に思っていた謎に迫ってくれた問題作が「桃太郎の部屋」だ。大きな桃から子どもが生まれ、成長後にきびだんごを懐に忍ばせて、猿・キジ・犬と鬼が島へ出掛けるところまでは同じ。このあたりは周知のストーリーであるとして、えらくサラッとスピード展開で描かれる。
問題はその後。桃太郎が鬼退治に出発した後、おじいさんとおばあさんの頭には、ひとつの疑問が浮かぶ。「桃太郎が入っていた大きな桃の中身は、一体どうなっているのじゃ? 見てみたい」と。この話では、桃太郎が入っていた桃は、桃太郎の秘密の部屋として使われていたことになっている。おじいさん、おばあさんが、良心の呵責との葛藤の末、こっそり中をのぞいたところ、なんと、ジャグジー付きの風呂・ビリヤード台・テレビゲームなど、実に快適な5LDKの空間が広がっていた。
床に転がっていた日記帳には、桃から生まれただけで桃太郎と言われ続けること、じじばばの口が臭いこと、動物しか味方じゃないのに鬼退治に行かされそうなこと、といった悩みが切々とつづられていた。部屋にはタバコの吸い殻も残されていたところからも、桃太郎は大きなストレスを抱えながら鬼退治に出掛けたことがうかがえる。「桃太郎=純粋無垢な熱血漢」という、かねてよりの幻想を華麗に粉砕してくれる物語である。めでたくなし、めでたくなし。
そして、タイトルからして危険な香りが漂ってくる「8個の金玉」。文字通り、8個のソレを持つ人間の話だ。昔、人間が生まれたとき、お祝いに神様がソレを8個くれたそうな。8個だから、それはもう、すごい。主人公の名もなき人間は、下半身に、まるでブドウのようにワサッと実らせている。「困ったときに使いなさい」との神様の言いつけをロクに聞かず、主人公は、ゴルフボールを飛ばして無くしてしまった人に1つ差し出し、建物のちょっとしたスキマ風を防ぐために使い、ジャグリングをして落とし、嫌がる相手に無理にあげて、と惜しみなくおすそ分けを繰り返した。あっという間に残り1つになってしまった主人公は、偶然出くわしたもう一人の人間(同様に玉が残り1つ)と、あることをした結果、片方は2つ持ち、もう片方は一つも持たない人間となった。「こうして、男には金玉が2個、女には金玉がないのじゃ」と、まことしやかな口調で締めくくられているが……、人類の始まりがこんなのだったとしたら、泣きたい。めでたくなし、めでたくなし。
作画をイラストレーターの五月女ケイ子が担当、脚本は細川徹、女の子からおじいさんまですべての声優に温水洋一、と豪華メンバーのタッグで、全力で”おバカ”を追求。オープニングでは、本家の「ぼうや~よいこだ♪」とよく似たメロディーで歌う「おりこ~うさんは~出てこない~♪ バ~カが出てくるものがたり~♪」に、空飛ぶ龍の映像。オープニングの”伝統的昔ばなしらしさ”に安心しきっていざ見始めたが最後、心の深い部分をかみ付かれること必至だ。
(文=朝井麻由美)
●公式サイト
<http://www.bakabana.net/>
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