「やせた犬、ノイローゼの馬……」震災1カ月 原発5km圏内で見た被災動物の悲劇
#東日本大震災
3月11日に発生した東日本大震災の巨大津波によって、日本は未曾有の危機を迎えている。人間社会の便利さを支える電力。それを生み出す発電所の事故によって、交通・産業・環境などにさまざまな被害がもたらされた。その陰に、見過ごすことのできない別の被害者がいる。それは福島第一原発周辺のエリアに取り残された動物たちだ。
震災から約1カ月後の被ばく被災地を歩いたフリージャーナリストの丸山ゴンザレス氏に、5km圏内に残された動物たちの現状を聞いた。
――被災地、それも福島原発の5km圏内に入ることは可能だったんですか?
丸山ゴンザレス(以下、丸山) 4月3日(日)の時点では、意外なほどあっさりたどり着くことができました。最初は出身地の宮城にいる母に持病の薬を届けにいったのですが、流れで福島入りして「ここまで来たら福島原発の近くまで行ってみよう。どうせ近くまで行ったら検問があるだろうし、そこで引き返そう」と思ったわけです。
――具体的にはどのようなルートを取ったのですか?
丸山 宮城の南部エリアから国道6号線をひたすら南下しました。途中で津波や地震のダメージで寸断されている道路がありましたけど、そこを迂回して再び6号に合流するってだけで、基本は同じ道を進みましたね。
――5km圏内に入ったとのことですが、原発周辺の様子はどうだったんですか?
丸山 5km圏内には、簡単に入ることができました。検問があったり、立ち入り禁止になっていたら引き返そうと思っていたんです。ところが、道路は封鎖されていないどころか、人が居ないんですよね。警備している警官にも一度しか会いませんでした。その警察官は「気をつけてね。危ないから」と言っただけで、強制的にオレを戻すわけでもなく、そのまま立ち去って行きました。道路事情が本当に悪く、道が崩落している個所も多くて、それを回避しながら進んでいたら「双葉町」の看板が出てきて「入っちゃったんだ……」というのが正直な感想でした。
――噂では聞いていましたが、それほど簡単に入れるものなんですね。実際、どの辺りまで行かれたんでしょうか。
丸山 避難指示の出ている20km圏内にある双葉町内と福島第一原発の作業員通用口、裏門ですね。そこから少し迂回して第二原発横を抜けて行きました。そこも警備は皆無でしたよ。あまりに安易に近づけたんで、いくら非常時とはいえ、セキュリティー面での問題はあるんじゃないかとも思いました。双葉町は完全なゴーストタウンでした。6号沿いにはお店などもあるんですが、それも人が居ないだけで、割ときれいなまま。それで、町の中を車で回っていたら、何か動く物が見えたんで近づいてみると、犬の群れだったんですよ。
「原子力明るい未来のエネルギー」の文字が空しい
――双葉町には動物たちが取り残されていたと?
丸山 そうなんです、明らかに飼い犬でした。首輪から数センチほど鎖がぶら下がっている犬が結構多いんですよ。おそらく現地に取り残された飼い犬たちを、消防か警察の人間が、少しでも生きられるように断ち切ったんでしょうね。住人たちがいかに緊急的な避難をさせられたのかうかがい知れました。
印象的だったのは、犬たちの反応です。オレのように突然現れた人間に擦り寄ってくることもあれば、警戒して距離を取ったり、ひたすら不信感をあらわにするように吠えてくるなど、同じ群れでも反応はさまざまでした。いずれも人間にどう接していいのか分からなくなっているんでしょうね。犬種からしても、もともとの群れではなくて自然発生的に集まっているんでしょう。犬たちも寂しいんじゃないでしょうか。
――犬たちは自分たちで餌を確保しているんですか。それとも飼い主が餌を持ってきているんでしょうか。
丸山 餌は食べていない感じでした。見た目でやせているのが分かります。それでも何カ所かに、誰かが置いていった餌がありました。冷蔵庫の残り物っぽい感じで、ミートボールとか魚の切り身、スナック菓子なんかです。飲み水は、おそらく雨水なんかがたまった水たまりでなんとかしのいでいるんじゃないでしょうか。
――ほかにも取り残されていた動物たちはいましたか。
丸山 犬のほかに目立ったのは猫の死骸です。餓死したのか、車にはねられたのか、それとも両方なのかは分かりませんが、道路沿いに死骸が多かった。この地域では牛も放牧されていましたが、これは小屋から解き放たれて街中を歩き回っていました。
衝撃的だったのは馬小屋です。ここには死骸が何頭分かあったのですが、生き残っている馬も10頭以上は居ました。その馬たちがノイローゼになっているようで、悲惨でしたね。小屋につながれたままの馬たちは最低限の身動きしかできずに、首が伸びる範囲にある餌は食い尽くして、餌の置いてあった床を何度も鼻でこすっていたんです。食べ物を探しているのかもしれないですね。飢えとストレスから狭い小屋の中で暴れた馬も居たようで、首や足にケガをしているようでした。ほかにも、ひたすら首を上下に振り続けているだけの馬も居ました。
この状況は、避難エリアである以上、この先取り上げられることはないのかもしれないと思い、立ち去ることがためらわれました。しかし、私自身も放射能の影響が気になりますので、長居できなかったのが正直なところです。
だから、住人に「戻ってきて何とかしろ」なんてとても言えません。でもペットや家畜や競走馬は、人間と一緒にしか生きられない命です。ほかにもっと方法はなかったのか、そのことを考えてしまうばかりですね。
いまだ収束の見通しが付かない原発問題の陰で、置き去りにされた動物たちも犠牲者と言えるだろう。そして、その悲惨な状況もまた、現在進行形なのである。
見過ごせない。
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