動物愛護は金になる!? 動物福祉協会幹部が不正で辞任(前編)
#動物 #ペット
八百長騒動で日本相撲協会が公益法人の資質を問われている中、70年近い歴史を持つ別の法人団体が不明朗な会計で大揺れに揺れている。団体名は「(社)日本動物福祉協会」(本部:東京都品川区)。このほど、一部の幹部による協会資金の不正流用が発覚し、監督する神戸市が関係者に対して立ち入り調査をするなどの騒動が起こっているのだ。
協会資金を不正に着服していたのは、同協会前阪神支部長のN島氏。2008年には、同協会の推薦により環境大臣表彰を授章している。すでに支部長を辞任しているN島氏だが、0その理由は「一身上の理由」とされている。だが、事情を知る会員のAさんは次のように語る。
「N島さんは、顧問獣医師のK原氏らと共謀して協会資金を不正流用してきました。その事実を知った一部の会員が神戸市や環境省へ電話とメールで内部告発をし、これにより他の会員にも問題の存在が広がり、N島さんは会にいられなくなったのです」
日本動物福祉協会の歴史は古い。終戦直後の1946年、大学の実験動物の取り扱い改善を目的に創設。57年には社団法人の認可を受け、名誉会長には旧皇族の竹田恒徳氏が就任。以来、歴代の理事長には麻生元総理の母親・麻生和子氏や、中曽根康弘氏などそうそうたる顔ぶれが並ぶ。
現在は正仁親王妃華子さまが名誉総裁を務め、同協会が毎年作成するカレンダーには、麻生元総理の実妹・寛仁親王妃信子さまが撮影した写真が長年使われてきた。また、動物愛護法改正を検討する環境省中央審議会のメンバーにも、同協会の理事や顧問獣医師が名を連ねるなど、社会的な信用度はきわめて高い。
協会の主な活動のひとつが、野良猫の不妊去勢手術の推進である。地方の各支部が行う野良猫の捕獲活動や不妊手術費用を東京本部が支援・助成する一方、全国の都道府県から毎年2地域を選んで「捨て猫防止キャンペーン」なども行っている。本部から支部への資金の流れは、内部資料によれば以下の通りだ。
(1)各支部は年間に行う不妊手術件数の予測を立て、予算案を策定する。本部は各支部から提出された予算案に基づき、支部予算の不足分を送金する。
(2)支部は「不妊去勢手術助成金取り扱い規則」や支部独自の規定に基づき、手術の「申請者」に対して助成金を支払う。
(3)支部は、手術を実施した獣医師の証明書や領収書を添えて毎月本部に実績報告する。
上記(2)でいう「申請者」とは、「野良猫が保健所に殺処分されてはかわいそうだから」と、手術費用を自腹で支出する会員や一般住民を指す。助成金は、こうした善意の自己負担に対する補助行為ということになる。
阪神支部の規定によれば、申請者に支払われる助成額は手術費用に応じて一件2,000円~5,000円。2009年度の同支部の実績報告書によれば、1,757匹の不妊手術に対して452万4,000円の助成金が申請者に支払われ、本部から支部へは不足分として419万円が補てんされている。
理論上は、野良猫をたくさん捕獲して不妊手術をすればするほど、その実績に対して多くの補填が本部から支払われるという仕組み。当然ながら、手術費用が高いほど、支部から申請者へ支払われる助成額も高くなる。ちなみに、「阪神支部の助成金は、他の支部と比較して突出して高額化していた」(協会本部の内部資料より)という。
ここで話をAさんの証言に戻そう。
「阪神支部の前支部長のN島さんは、なぜか支部内に動物福祉協会とはまったく別の組織を立ち上げて、まるで商売のように不妊手術の”注文”を会員以外からも積極的にとっていました。組織の名前はN島さんと相棒のFさんの苗字をとって、漢字2文字で『NF会』と呼ばれていて、支部の中では大きな発言力を持っていました。このNF会と福祉協会阪神支部の活動がごっちゃになってしまい、それでお金の流れもよく分からなくなってしまったようです」
別の会員のBさんが言う。
「N島さんはいつも、阪神支部の顧問獣医師であるK原さんに8,000円で手術を依頼していたようなのですが、一方で申請者には1頭1万数千円や2万円、高いときは3万円くらいを請求していました。額は相手の懐具合を見て決めていたようです。なぜいつも3万円という高額な請求をしているのかと不審に思っていた会員は少なくなかったのですが、本人がいろいろな場で『3万円なんてもらえるのは全体の3分の1くらい。いつもではない』と自ら”白状”していますので、逆に言えば3分の1程度は3万円以上の高額請求をしていたということでしょう」
さらに、N島前支部長はK原獣医師に8,000円で手術を依頼しておきながら、実際の金額より高い1万円で虚偽の領収書を書くように要請。これにより助成金を不正に多く受け取っていたことが、後述するその後の本部による調査で判明している。3万円で受託した手術を8,000円でK原獣医師に”下請け”に出していたとしたら、その差額は一体どこへ消えたのだろうか。
かねてよりN島氏の行動に強い不信感を抱いていた一部の会員らにより、昨年5月26日に開かれた阪神支部総会は激しく紛糾した。不明瞭な助成金の行方や「NF会」の存在理由、さらにはN島氏が自宅で常時40~50匹の猫を管理していたことが動物取扱業にあたらないかなどについて、会員から厳しい質問が飛び交ったという。N島氏はこれを受けて翌6月に辞任したが、その後も告発を受けた神戸市保健福祉局が、昨年8月18日にN島氏の自宅を立ち入り調査し、事態を重く見た環境省も協会事務局本部に対して事情説明を求めるなど、監督官庁らを巻き込みながら騒動は次第に広がりを見せはじめたのである。
こうした中、協会は12月13日付で調査書をまとめ、環境省に対して概要を以下の通り報告している。
・N島氏とF氏らが立ち上げた「NF会」が高額の手術代金を受領していたのは事実。
・K原獣医師が、N島氏の「ボランティアの労苦を慮って、好意的に実費より高額の領収書(実費8,000円→領収書1万円)を発行していた」(原文ママ)のは事実。
先のAさんが憤る。
「ニセの領収書を書いた理由が『日ごろの苦労を慮って』とか『あくまで好意で』なんていう理由が通用すなら、税務署は入りませんよ。実際、K原医師は税務署へどう申告していたのでしょうか」
Bさんも言う。
「K原獣医師にとっては、N島さんが営業担当者のように”仕事”を取ってきてくれるんだから、いい取引先なんでしょう」
さらに協会はこうした不正の事実を会員に対しては長らく報告してこなかったとBさんは言う。
「環境省からは事実報告をすべての会員に対しても行うように指導されているはずです。ところが、不正の事実を認めた12月13日の報告書のわずか2日後、12月15日付の会報(『jaws』65号)を見ると、『本部の調査で、助成金支給に関して不正等は存在しなかったことは確認されております』なんて書いてある。唖然としましたよ。内容が環境省に提出した報告書と、まるっきり逆じゃないですか」
また、取材を進めるうちにさらなる信じがたい証言も飛び出してきた。「NF会に猫を預けると二度と帰ってこない。いったいどこへ始末しているのか」との声が、協会本部や自治体に数多く寄せられていたのである。
協会はようやく騒動の事実をHP上で会員へ報告。ただし、損害額は合計数万円程度で
「巨額の不正等は存在しない」と結論付けた。サイゾーが金額の根拠を問いただすと
「あくまで自己申告」「われわれは捜査機関ではないから」(事務局長)と回答。
これに対し環境省は「徹底した調査が求められる」と懸念を示している。
(後編に続く/文=浮島さとし)
ペットブームの陰で……。
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