「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター
#アジア・ポップカルチャーNOW!
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第15回
マルチ・クリエーター
Stephen Lau(ステファン・ラウ)
ステファン・ラウ(Stephen Lau)は、マレーシア生まれ。現在、クアラルンプールをベースに活動するマルチ・クリエーターだ。自らをビジュアル・グラフィック・デザイナーと称し、アーティスト・デザイナー・イラストレーターとして、インターナショナルなクライアントのコマーシャル作品を制作する傍ら、自身のファッションブランド Jam Divisionや、デザインスタジオMinor Playerのオーナー&クリエーティブ・ディレクターも務める。マレーシアでは彼の作品だけでなく、そのマルチな活動スタイルにあこがれるフォロワーが続出している。
(集英社)
ステファンの作風は多彩で、「一人の作家の作品なのか」と驚かされることが度々だ。彼の創作のインスピレーションは、どのように形成されてきたのだろう。
「子どものころは、日本のアニメとディズニーのアニメに夢中でした。だけど、より強い影響を受けたのは、日本のカルチャーです。宮崎駿(『となりのトトロ』『天空の城ラピュタ』『風の谷のナウシカ』……)、『ドラゴンボール』『ドラえもん』『鉄腕アトム』『仮面ライダー』『ウルトラマン』『鉄人28号』『ストリートファイター』『スーパーマリオブラザーズ』、大友克洋、手塚治虫、『マジンガーZ』に『ガイキング』……好きな作家や作品が、とにかくたくさんありすぎて言い切れません!」
「子どものころに見た、あるいはもっと古くからある日本のコミックやアニメのキャラクターは、すべて僕の作品の中に生きています。想像力・ストーリー・絵のテクニックとか、色使い、ロボットやおしゃれなキャラのデザインなど……。特に、かわいい女の子やかっこいい男の子をどう描くかを、日本のキャラクターから学びました」
マレーシアは、マレー系・中華系・インド系の民族が共存する多文化国家。そうした背景を、ステファン自身はどうとらえているのだろうか。
「マレーシアで生まれ育ちましたが、ローカルの文化にインスパイアされたとはあまり感じていません。ただ、何年か前に、中国のカルチャーにすごく感化されたことがあります。筆を使った創画の技術とか、中国的なモチーフとか」
最近の彼の作風からは、また別な印象を受ける。
「今、マイブームが、”西洋的ミニマリズム”なので。だけど、ちょっと暗い感じとか、エモーショナルな感じは、やっぱり自分の変わらない要素として時々顔を出します。僕には決まったスタイルがないんです。常に変化を求めて、その時の気持ちに一番合ったスタイルで表現したいと思っているから。だけど、”僕らしさ”を出すために、譲れないことがある。それは音楽やファッションの要素、それと、自分が好きな彩色の技術です」
年末に向けて、クアラルンプールにおける初の個展の計画が進行中だという。
「これまでの作品の集大成になると思います。地元の人たちが、自分の仕事をどのぐらい支援して、受け入れてくれているか、それを見てみたいという気持ちがすごく強い。それ以外にも、いくつかのコラボレーションプロジェクトが同時に動いていますが、本音では、数カ月後にリニューアルオープンするJam Divisionのコレクションに集中したいなと……」
自分を「複数の文化のバランスを取ることに長けているとは思わないし、そこに踏み出すには、もう少し時間が必要」というステファンだが、その実、見事にマルチな活動の舵取りを行っているようだ。
(取材・文=中西多香[ASHU])
■画像ギャラリー<画像をクリックすると拡大します/(c)Stephen Lau>
●ステファン・ラウ
ビジュアル・グラフィック・デザイナー、イラストレーター。マレーシア生まれ。10年前に出身高校から壁画を依頼されたことがきっかけで、アーティストとして目覚める。現在はクアラルンプールを拠点に活動。カシオ、ナイキ、タイガービール、UNIQLO、GAP、コンバース、コカコーラ、MTVなど、国際的クライアントのコマーシャル作品も多く手掛けてきた。ファッションブランドJam Division、デザインスタジオMinor Playerを主宰・運営。
<http://www.stephenlau.co>
<http://www.facebook.com/stephenLCO>
<http://www.facebook.com/thejamdivision>
(ウェブサイトは、鋭意制作中とのこと)
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
今こそ悟空の力が必要だよ。
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