新聞・テレビが伝えない 週刊誌”震災特集”の底力
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スクープ大賞
「大震災関連特集」(「週刊文春」3月31日号)
日本テレビ会長の氏家齊一郎さんが3月28日、多臓器不全のため亡くなった。享年84歳。
氏家さんとはずいぶん長くお付き合いさせてもらった。読売新聞の経済部長、広告局長などを歴任し、「カミソリ氏家」とうたわれるほどの切れ者で、務臺光雄会長(当時)の後継者だと言われていた。
しかし、自分の座を脅かす存在になってきた氏家さんに、務臺会長はおびえ、日本テレビの副社長に降格させ、さらに、そこからも追い出してしまう。
務臺氏が亡くなり、1992年に日本テレビの社長に返り咲くまで、氏家さんは長い浪人生活が続いた。そのころに取材で知り合い、私のことを気に入ったのか、「おい、モッちゃん、呑まないか」とよく声が掛かり、一緒に呑んだものだった。
不遇の時に知り合ったためか、社長になってからも数カ月に一度は杯を交わし、「ナベツネ(渡邉恒雄・読売新聞主筆)は表の顔、政界の裏工作は俺がやってるんだ」と、政界の裏話を聞かせてくれた。
フジテレビを抜いて視聴率三冠王を奪い取った時、好調の秘訣はと聞くと、「オレは何も分かんねぇから、口を出さないことだ」と言ってニヤッと笑った。
だいぶ前に、氏家さんから「政界秘話」を本にする了解をもらっていたのに、約束を果たすことができなかったのが心残りである。いくつになっても背筋のピンとした格好いい人だった。
さて、福島原発の危機が日を追うごとに深刻になっている。いくら枝野官房長官が「ただちに健康への重大な影響はない」とバカのひとつ覚えのように繰り返しても、国民の大多数は、聞けば聞くほど、不信感と不安感が深まるばかりである。このままでは、日本人総うつ状態になってしまう。
先週号「ポスト」の「日本を信じよう」というコピーは共感を呼んだが、原発危機については何を信じればいいのだろうか。
「朝日」で始まった広瀬隆氏の緊急連載「原発破局を阻止せよ!」を読むと、「体内被曝」の恐ろしさに震え、すぐにでも海外逃亡したくなる。
そうした危機をあおる記事の多い中で、「ポスト」は「新聞・テレビも間違いだらけ『放射能と人体』本当の話」で、「甲状腺がんを誘発するというヨウ素131は、40歳以上は心配しなくていい」「セシウム137は数カ月もすれば体外に排出される」「チェルノブイリ原発事故では、放射性物質や核燃料で死亡した住民はいなかった。汚染された食料を子どもたちが食べてしまったために、甲状腺がんの発生率が激増したが、この病気は治癒できるため2006年時点で死亡したのは15人だった」「被曝者から生まれた子どもの死亡率、染色体異常の発生率、身長・体重などの異常は『全く認められない』という結論が出ている」「今回の事故処理に従事した東電社員より宇宙飛行士のほうが多く被曝している」などと書いている。
確かに生半可な知識で恐怖心をあおるべきではないが、これでは、放射能なんて心配することはないといわんばかりで、政府と東電の記事広告かと見紛うばかりである。「ポスト」さんどうしたの?
「ポスト」の記事はまれで、政府と東電と原子力安全・保安院の大本営発表と、テレビに出ている御用学者の真実から目をそらすコメントがけしからんという週刊誌が圧倒的である。
ならば、御用学者たち(NHKの山崎淑行科学文化部記者か水野倫之解説委員でもいい)と、それを痛烈に批判している広瀬氏やフォトジャーナリスト・広河隆一氏、元原子炉設計者で科学ライター・田中三彦氏らとの「激論対談」を誌上でやってほしいね。
福島原発の現状はどこまで深刻で、これからどう推移するのか。本当に5年後10年後に、健康被害は心配ないのか。原発がなければ日本の電力は賄えないのか否かを、雑誌の全ページ使ってやれば、みんな競って買うと思う。
「現代」の「外国人記者が見た『この国のメンタリティ』『優しすぎる日本人へ』」は好企画である。被災地を取材した外国メディアの記者たちは、多くの日本人があきらめではない、ピンチの時こそ一つになろうという意味で「仕方ない」という言葉を使って、必死で耐えていることに感銘を受けたとある。
そう、この世は仕方ないことばかりなのだ。現状を受け入れる潔さ、諦観こそ日本人の美徳ではある。
だが、その内向的な性向は、原発問題について、「日本政府の対応には問題があるし、日本政府の情報は信用できない。それなのに、日本人は政府を非難しようともしない」し、無責任な対応をする東電に対しても、「不思議と日本のメディアや国民の多くは、東電の責任追及を行う気がないようにも見えます」(「ニューヨーク・タイムズ」東京支局長マーティン・ファクラー氏)。こうした国難の時、優しすぎるのは美徳ではない。
今週のスクープ大賞は、「文春」の大震災関連特集にあげたい。質量ともに他誌を圧している。
巻頭の「御用メディアが絶対に報じない 東京電力の『大罪』」には、「自殺説も流れた清水東電社長」「『津波で原発の8割がダメになる』放置された致命的な欠陥」「佐藤栄佐久・前福島県知事決定的証言『東電が副知事を脅迫した!』」「首相を無視して直接米軍に支援を要請」「内部告発もモミ消す経産省、原子力保安院との黒い癒着」や青沼陽一郎氏のルポ「原発20キロ圏『見捨てられた町』を行く」もいい。
石原慎太郎氏の直言「菅総理はさかんに現地視察に行きたがっているが、市民運動家というのは、やはり御用聞きなんですな。『何かお困りのことはありませんか』と町内を回るだけで、大所高所からのリーダーシップや構想力を持ち合わせていない」は、言い得て妙である。
また一本一本が短いのが残念だが、「震災で消えた『16の事件簿』」もいい。「みずほ銀行ATM停止」「大相撲夏場所」「7月地デジ」「NZ地震」「千葉・鳥インフルエンザ」など、忘れてはいけないことがある。
こういう新聞、テレビがものを言えないときこそ、週刊誌の出番である。有事に強い週刊誌の底力を発揮して、国民の疑問に答えてくれ。
(文=元木昌彦)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
今こそ。
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