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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第52回

アメリカに担がれたTPPへの参加と”低い”日本の関税率【前編】

──ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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 菅直人政権による目玉政策のひとつが、「平成の開国」である。これを実現するためにTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を掲げている同政権だが、決定リミットである6月はもうすぐそこに迫っている。こうした中、大手マスメディアは、参加しない場合、「鎖国状態に戻る」「世界経済に取り残されてしまう」と警鐘を鳴らしているが、京都大学大学院助教の中野剛志氏は、これらの指摘は「冗談としか思えないほど、デタラメだ」と一蹴する。中野氏の言は、一体何を意味しているのだろうか? 数字のトリックに見るTPPの危険性について考えてみたい──。

今月のゲスト
中野剛志[京都大学大学院助教]



神保 今回は、菅直人政権が年頭に掲げた3本柱のひとつ「平成の開国」──その具体的な政策として浮き上がってきたTPP問題を取り上げます。自由貿易や保護貿易について、まず僕たちは、やや先入観で考えてしまっている面があるのではないでしょうか?

宮台 僕は2010年からTPPについて「やむなし」という立場を取ってきました。しかし、データを読み解いていくうちに、考え方を変えなければいけないと思うようになりました。

 ひとつのきっかけは、韓国のデータです。確かに韓国は、ダイナミックラム、液晶パネル、携帯電話、リチウムイオン電池でも世界でトップクラスのシェアを獲得しています。こうした韓国企業の躍進は、97年の通貨危機以降、積極的なFTA(自由貿易協定)戦略が行われた結果だとされています。「日本の11カ国と比較して韓国は20カ国と倍規模でFTAを結んでおり、だから日本もFTA戦略を取らないと国際的な市場で韓国に負ける」という経団連的な論調に僕も加担してしまったんです。ところがデータをよく見ると、そういう加担がまずいことがわかってきます。日本は外需依存度が17%ですが、韓国は5割を超え、外需依存度がまったく違います。また韓国のGDPのうち2割弱はサムスン関連で一極集中が起こっています。さらに韓国はFTAに引きずられて唐辛子とニンニク以外の農産物関税を撤廃しましたが、結果、中山間地域にほとんど人が住まなくなってしまった。そもそもTPPにはEUも中国も加盟していない。韓国と機能的に等価なFTA戦略の代わりになりません。TPP参加国の中で、日本にとって重要な貿易相手国はアメリカだけ。こうした材料を並べてみると、TPP加盟のエクスキューズとして使われている「韓国」の持つ意味は変わってくるのではないでしょうか。そのほかにも、10月下旬に北海道新聞を除く全新聞が揃ってTPP賛成の社説を書くなど、官邸や経産省のブリーフィングをリピートしている気配があり、変だと思ううちに、あることを思い出したんです。第二次竹下内閣に起こった、日米構造協議につながる流れのことです。日米構造協議の愚昧を訴えてきた僕が、TPPやむなしというのはあり得ない。TPPに対する立場を一貫することより、日米構造協議的なものに対する立場を一貫することを優先せざるを得ません。
 
 各社の社説が揃う背後にはスポンサーシップを握る経済団体があり、他方に経済団体の所属企業の社員を主要メンバーとする労働組合の支持母体を持つ民主党政権がある。とすると、2009年夏にアメリカが突然TPP参加を表明した意味も浮かび上がってきます。アメリカはたぶん「いけるぞ」と思ったんです。

神保 ゲストは『経済はナショナリズムで動く』(PHP研究所)の著者で、経済産業省から現在京都大学大学院に出向中の中野剛志さんです。今回は中野さんが積極的に発信されている「自由貿易のワナ」について議論したいと考えています。

 TPPの正式名称は「Trans-Pacific Partnership」。日本では「環太平洋戦略的経済連携協定」と訳されています。現状では、チリ、ブルネイ、ペルー、ニュージーランドの小さな4カ国だけの自由貿易協定ですが、アメリカが加盟の意思を表明したことによって、日本でも交渉に加わるかが議論されるようになりました。菅政権は「平成の開国」の目玉政策として、これを挙げています。この協定に加盟すると、工業品、農業品、金融サービスなどすべての品目の関税を、原則としてすべて撤廃することになる。また、労働など人の移動についても協議するとのことで、「カネと物と人の移動を自由にする自由貿易協定を多国間で結ぶもの」と説明されています。

 日本のライバルである韓国はTPPとは別に、アメリカやEUと個別に自由貿易協定を進めている。それらの国と協定を結んでいない日本は韓国の後塵を拝することになり、これは貿易立国としては由々しき事態だと、マスメディアではこんなふうに説明されていますが、TPP推進論のどこがおかしいのか、説明をお願いします。
 
中野 10年末以降、各新聞社はTPPのメリットを訴え、また「参加しなければ鎖国状態になる」「世界の孤児になる」と極めて激しい言い方をしていますが、冗談を言っているのかと思うくらいデタラメな話ばかりです。

 一例を挙げれば、「TPPに参加することで、日本にアジアの成長を取り込むことができる」という意見。TPPに韓国は入らないし、もちろん中国も入らない。T PPの本質は、参加国のGDP規模を見れば一目瞭然です。アメリカが参加国全体のGDPの69.7%、日本が21.8%──つまり、TPP参加国のGDPの91%を日米が占めており、他国は誤差程度の数字。日本にとって輸出先はアメリカしかなく、アメリカにとっても輸出先は日本しかない。アジアなど、まったく関係ないんです。

神保 要するにTPPは、実質日米二国間のFTAと変わらないということですね。ただ、韓国もアメリカとFTAを結んでいるのだから、日本にとっては日米間のFTAでも意味があるじゃないか……という見方もあるでしょう。

最終更新:2011/03/26 10:30
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