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“バカ映画の巨匠”河崎実の逆襲!? 『新・巨人の星』のごとく復活せり

kawasakimonoru0325.jpg「才能のあるエド・ウッド」を自認する河崎実監督。
中野のバー「ルナベース」は、”ミニロフトプラスワン”として
賑わいを見せている。

 バカ映画を作り続けて四半世紀。『いかレスラー』(04)、『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(08)など一連のB級作品で知られる”バカ映画の巨匠”河崎実監督。80年代には”萌えカルチャー”を先取りしたSFコメディー『地球防衛少女イコちゃん』(87)シリーズで注目を集め、90年代には元祖人気フードル、可愛手翔をフューチャリングしたセクシー青春ドラマ『飛び出せ!全裸学園』(95)を大ヒットさせた。ゼロ年代に入ると、トルネード・フィルム率いる叶井俊太郎プロデューサーとのタッグで、『コアラ課長』『ヅラ刑事』(06)などの劇場公開作品を次々と発表する快進撃ぶり。『ギララの逆襲』はベネチア映画祭に正式出品され、松竹系で全国公開されている。河崎監督の半生は日本におけるインディペンデント映画の歴史であり、同時にメジャーの壁に果敢に挑む不屈の男の現在進行形のリアルドラマでもある。トルネード・フィルムが倒産した今、バカ映画の巨匠は何を考えているのか? 3Dソフト「ルナベース地球防衛軍女子部 飛び出せ!野球拳3D」を発売するとの知らせを聞き、2月某日、河崎監督が経営する中野のバー「ルナベース」を訪ねた。ハイボールを片手に気持ちよくなった河崎監督は、数々の業界裏話を語ってくれた。

──河崎監督、”実相寺昭雄監督のお宝開帳”以来ごぶさたしています。昨年オープンした『ルナベース』、中野ブロードウェイから近くて、ステキなお店ですね。

河崎 懐かしの特撮ドラマ『謎の円盤UFO』に登場する月面基地をイメージした内装ですよ。いつもなら、『謎の円盤――』のヒロイン、エリス中尉ばりのセクシーコスチュームを着た女性隊員がいるんだけど、まだ出勤前なんで来てないけどね。80インチの大型スクリーンがあるんで、DVDなどの上映ができるんです。イベントデイはけっこう賑わいます。毎週水曜日は中野貴雄監督の『大怪獣サロン』で、毎週木曜がボクがVJを務めている『河崎実ナイト』なんです。”ミニロフトプラスワン”っぽい感じで、楽しく過ごしてますよ。

──トルネード・フィルムが潰れた後、どうしているかと思えば、サブカルの聖地・中野でサバイバルされてたんですね。

runa02.jpg河崎実監督の最新作となるゲームソフト「地球防
衛軍女子部 飛び出せ!野球拳3D」。知的生
命体と人類を代表したセクシー女子隊員たちとの
激闘が繰り広げられる。

河崎 映画を作っているときも、毎晩のように酒を飲みながら打ち合わせしてたんでね、まぁ、自分専用の打ち合わせスペースを一般開放しているようなもんですよ。業界関係者、特撮ファン、間違えて入ってしまったOLたちを相手に、バカ映像を肴に盛り上がってます。このお店のテナント料ね、中野にしては激安なんです。内装もカウンターも全部手づくり。もともと自主映画やってたから、何でも自分で作っちゃうんです。『パラノーマル・アクティビティ』(07)なんて130万円程度で作ったらしいけど、このお店は敷金と内装費を合わせても同じくらいの金額だよ。まぁ、超低予算映画を一本撮る金額で、代わりにお店を開いたようなもんだね。ボクとしては、『ギララの逆襲』がベネチア映画祭に招待され、全国公開され、映画監督としてぐるっとひと回りして、また自主映画時代に戻ったわけですよ(笑)。

──河崎監督、相変わらずC調で明るいなぁ(笑)。新作ソフト「ルナベース地球防衛軍女子部 飛び出せ!野球拳3D」は、ブームの3Dをしっかり取り入れてますね。

河崎 これはね、SF作家フレデリック・ブラウンの短編小説『闘技場』をモチーフにしたゲームソフト。エイリアンと戦う地球防衛軍の美人隊員たちが野球拳に負けると、一枚ずつコスチュームを脱いでいくという男子なら釘付けなるゲームソフトですよ。特殊ステレオビューアーを輪ゴムを使って、PSPに装着するというところが、ボクらしくて笑えるでしょう? この3D映像はね、パナソニックが開発した業務用一体型3Dカメラを日本で初めて使用したゲームソフトなんです。まぁ、ひとつ楽しんでくださいよ。

■バカ映画に隠された驚愕の事実!

──おぉ、女子隊員がどこまでコスチュームを脱ぐのか気になるじゃないですか! いや、野球拳ゲームは後でじっくり楽しませていただきますが、今日は酒を飲んだ河崎監督がこれまでのバカ映画伝説を無礼講で語るという趣旨なんです。

runa03.jpgルナベースで行なわれた「飛び出せ!野球拳3D」
の発表会見。女子隊員たちがコスチュームを脱
ぎ捨てる姿は、知的生命体ならずとも必見だ。

河崎 ボク自身は過去を振り返らない男なんだけど、日刊サイゾーさんの頼みなら、いいでしょう。まず『地球防衛少女イコちゃん』? ボク自身はオタクじゃないんで”萌え”にはそれほど興味ないんだけど、『イコちゃん』で美少女+コスプレという企画を実写で真っ先にやったわけだよね。前回の取材で、実相寺監督は大変な熟女マニアということを話したけど、ボクはロリコン趣味じゃないからね。美少女よりも、美少女が着た特撮コスチュームが好きなんです(笑)。真性ロリコンの映画監督もいるけど、ボクは違うからね!

──どうりで「ルナベース」に勤務する女子隊員たちのコスチュームも凝ってるんですね。ヒット作『飛び出せ!全裸学園』はフードルの先駆者・可愛手翔を、河崎監督がみずからスカウトしたそうですね?

河崎 「ビデオ安売王」が1億円で100本のビデオ作品を作るというプロジェクトの一環だったんです。テリー伊藤さんの紹介でボクもそのプロジェクトに参加し、『全裸学園』をプレゼンしたところ、いちばんウケたんですよ。高橋がなりさんがSODで『全裸』シリーズをヒットさせましたが、あのシリーズはボクの作品からインスパイアされたものなんです(笑)。ヒロインを演じた可愛手翔はね、あの頃は今みたいに風俗情報誌がなかったんで、見つけるのが大変でした。高田馬場に行列のできるファッションヘルスがあると聞き、ボクも行列に並んだ末に彼女に会って、「Vシネ、出ない?」と直接交渉しましたね。今考えると、人気風俗嬢に直接話を持ちかけるなんて、ボクも無謀でした(苦笑)。バックに怖い人がいなくて良かった!

──面白い作品を作るために、後先を考えないところが素晴らしいです。そして、フジテレビの月9『東京ラブシネマ』(03)のモデルとなった映画界の名物男・叶井俊太郎プロデューサーとタッグ結成。

河崎 叶井はその頃、イギリス映画『えびボクサー』(02)を日本でヒットさせていて、「えびがボクシングするなら、いかがプロレスしてもいいじゃないか」とボクから『いかレスラー』の企画を売り込みに行ったんです。叶井とは4年間の間に合計6本も劇場作品を公開することができました。6本のバカ映画は、どれもボクからの企画でしたが、彼はあの気取った顔で「いいっすね。やりましょう」といつも2秒で即答してくれたんです(笑)。ボクにとっては、実にいいプロデューサーでしたよ。

──叶井俊太郎プロデューサーが2005年に設立したトルネード・フィルムは、3億円の負債を抱えて2010年に倒産。一部では『ギララの逆襲』を調子に乗って全国公開したのが原因だと言われましたが……。

河崎 いやいや、『ギララの逆襲』はね、トルネードと共同配給した松竹の重役が「これは当たる!」と言い出して、宣伝費に数千万円も掛けちゃったんですよ。そうなると、もう誰も止められないわけです。それまでボクの劇場作品は単館公開だったのに、いきなり全国公開になっちゃった(笑)。若大将じゃないけど、「いやぁ、参ったなぁ」ですよ。その重役、もう松竹にいませんけどね(苦笑)。それにトルネード・フィルムが潰れたのは、『ギララの逆襲』だけのせいじゃないから。『いかレスラー』『日本以外全部沈没』『ヅラ刑事』は当たったんで、ボクの作品は勝率としては五分五分。それに『ギララ』は最近になって欧米で売れて、iTunesで配信されています。トルネードはねぇ、ボク以外の作品がこけたのが大きかったんですよ。そこは誤解なきよう、頼みますよ。

■『あしたのジョー』より『新・巨人の星』

 ルナベースの美人女子隊員が到着して、酒の量が増す河崎監督の取材スタッフ。お店は、図らずしも貸し切り状態。ここから、いよいよ蔵出しトークが始まった。

河崎 『日本以外全部沈没』はね、原作者の筒井康隆先生からOKもらっただけじゃなくて、樋口真嗣監督がリメイクした『日本沈没』(06)の原作者・小松左京先生からもちゃんとOKをもらった上で製作したんです。それでボクが映画化権をもっていることが業界で広まり、イケメンアイドルを多数抱えるあの大手芸能事務所から、『日本以外全部沈没』に出資したい、国民的アイドルグループから誰か出してもいいという電話が掛かってきたんです。この話、ほんとうはNGなんだけど、まぁ、どうせバカ映画ばかり撮ってる監督の発言は誰も信じないから、話しましょう(笑)。確かに国民的アイドルが出演すれば、もっと話題になったし、大ヒットしたでしょう。でも、ボクはこの話を断りました。いろいろと規制が多くなり、ボクが撮りたいような作品にならないわけです。『日本以外全部沈没』では金日成のそっくりさんを出演させましたが、そーゆーアブないネタ、バカなネタは全部できなくなっちゃう。それじゃ、ボクが撮る意味がありません。メジャーに魂は売りたくないんですよ。

──河崎作品はC調に見えますが、実は体を張って映画を作ってきたんですねぇ。今、そのインディペンデントシーンは厳しい状況です。

河崎 厳しいね。映画界はテレビ局が出資する10億円規模の映画と、若い監督に100万円程度で撮らせる激安インディペンデント映画に二極化してるよね。ボクみたいな中間層がなくなっちゃったね。ボクの作品を上映してくれていた「シネセゾン渋谷」も2月で閉館しちゃったしね。

──最近では、園子温監督や井口昇監督のようなエッジを効かせたバイオレンス映画が人気を呼んでいます。そのへんは、どう見てますか?

河崎 井口監督の『片腕マシンガール』(07)、当たったらしいね。いいと思いますよ。でも、ボク自身は残酷映画を撮ろうとは思わない。河崎作品は、ゆるい世界なんでね。そこは曲げるつもりはありません。まぁ、学生時代の8ミリフィルムに始まって、オリジナルビデオ、テレビドラマ、劇場映画、それにゲームと、河崎作品はフォーマットにはこだわってません。DVDが売れなくなったことから、製作費を回収できず映画業界は苦しくなったわけだけど、その問題をクリアする秘策の目処はついています。いろいろ企画を準備しているところですよ。実は実写版『タイガーマスク』の企画も進めていたんです。ボクは特撮マニアと思われているけど、梶原一騎作品の大ファンでもあるんです。でも、これは出資者が集まらなくてね。今、公開してれば、ブームに便乗できたのにさ(笑)。

runa04.jpgルナベースを拠点に、新企画を進行させている
河崎監督。『新・巨人の星』の星飛雄馬のよう
なミラクル復活劇を果たすに違いない。

──梶原一騎といえば、『あしたのジョー』が実写化されました。原作ファンとしては複雑な気分です。

河崎 うん、やっぱり『あしたのジョー』は梶原作品の中で、いちばん人気あるからね。とりわけ、全共闘世代の人たちに人気なんですよ。『タイガーマスク』のラストはすごく格好悪いし、『巨人の星』の星飛雄馬は肩を壊して、その後も栄光を引きずって生きながらえていく。ボクにすれば、そこがいいんですけどね。それに比べて『あしたのジョー』の矢吹丈は真っ白い灰になって幕を閉じるという美しい終わり方なんで、全共闘世代の人たちはそういう死に様に憧れたんですよ。その点、今のボクは『新・巨人の星』の星飛雄馬の心境ですね。『ギララの逆襲』でベネチア映画祭に呼ばれ、全国公開され、映画監督としてほんの一瞬でしたが、栄光に触れることができたわけですよ(笑)。『新・巨人の星』の飛雄馬が左投手ではなく、右投手として巨人軍にカムバックしたように、ボクも奇想天外なアイデアで復活してみせますよ。まぁ、大リーグボールのようなユニークな企画をいろいろと進めているところなんで、野球拳ゲームしながら楽しみに待っててください。

 夜も更け、さらにぶっちゃけトークは続いた。ベネチア映画祭で日本からの招待枠を『ギララの逆襲』と争ったのが『おくりびと』(08)で、映画祭ディレクターの”『ギララ』の方が明るい”という判断から河崎監督がベネチアに呼ばれたそうだ。その結果、『おくりびと』はモントリオール映画祭に回り、北米の人たちの目に触れ、さらにはアカデミー賞外国語映画賞受賞の快挙につながったという不思議な巡り合わせがあったのだった。「映画というのは、大勢の人の想いが結実して形になるものだから、ときどき不思議な力を発揮するんですよ」と河崎監督はこのときだけは真顔で語るのだった。新しく注がれたハイボールの炭酸の泡が弾ける音の狭間に、バカ映画に情熱を賭ける男の情念がほとばしった。
(取材・文=長野辰次)

●Barルナベース
住所/東京都中野区新井1-14-16 ライオンズマンション中野第5B-101
営業時間/夜8:00~12:00 電話/03-5318-9980 貸し切りパーティーや1日カフェ&バーのオーナーとしての利用も可能。http://luna-base.net

●かわさき・みのる
1958年東京都出身。『フウト』『エスパレイザー』などの特撮映画を自主製作して名を馳せ、オリジナルビデオ『地球防衛少女イコちゃん』(87)で商業監督デビュー。青春ドラマとエロスを融合させた『飛び出せ!全裸学園』(95)は「ビデオ安売王」の大ヒット商品に。叶井俊太郎とのタッグで『いかレスラー』(04)を劇場公開。以後、『コアラ課長』『日本以外全部沈没』『ヅラ刑事』(いずれも06)、『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(08)と叶井とのタッグが続いた。中でも欧州で人気の高い北野武監督をキャラクター&ボイスキャストとして起用した『ギララの逆襲』は、”インディペンデント映画として、最大限のメジャー的展開を成し遂げた作品”と河崎監督は位置づけ、同じことの繰り返しはやりたくないと語っている。『ヅラ刑事 頭上最大の作戦』(07)がフジテレビ系で放映されるなど、TVドラマでもすちゃらかぶりを発揮。その他、永井豪原作の人気キャラクターを対決させた『まぼろしパンティVSへんちんポコイダー』(04)、中川翔子をヒロインに迎えた『兜王ビートル』(05)、河崎監督自身が主演するライフワーク的作品『電エース』シリーズなどがある。『ウルトラマンはなぜシュワッチ!と叫ぶのか?』(角川書店)、『「巨人の星」の謎』(宝島社)、『タイガーマスクに土下座しろ!』(風塵社)など著書も多い。現在は新作の企画を練る傍ら、中野のバー「ルナベース」を経営。
http://www.ponycanyon.co.jp/ikochan

ルナベース 地球防衛軍女子部 飛び出せ!野球拳3D
出演/水澤ケイシー、たかさきゆこ、中村愛ほか 発売/リバートップ 販売/レインエンターテイメント 3月25日(金)より3,990円で発売(3Dビューアーは別売、ただし初回出荷には無償添付)
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最終更新:2013/09/24 16:02
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