中田監督の新作『チャットルーム』はネット社会を彷徨う若者たちの心理劇
#映画 #インタビュー
『女優霊』(96)で劇場デビューを果たし、『リング』(98)の大ヒットで”Jホラー”の旗手となった中田秀夫監督。ハリウッドで製作した『ザ・リング2』(05)は全米チャート1位を記録。その後もハリウッドの内情を監督自身がレポーターとなって掘り下げたドキュメンタリー『ハリウッド監督学入門』(09)、非ホラー系心理サスペンス『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』(10)など、1作品ごとにその動向が注目されていた。そんな中、2010年のカンヌ映画祭・ある視点部門に出品された新作『CHATROOM/チャットルーム』が、3月19日(土)から急遽日本公開されている。イギリス映画となる本作は、中田監督が08年~09年ロンドンに渡り、アイルランド出身エンダ・ウォルシュの戯曲を『キック・アス』(10)に主演した若手人気男優アーロン・ジョンソンらを起用して映画化したもの。ネット上の”チャットルーム”を舞台に、イギリスの若者たちが抱える孤独感や心の闇が描かれる。可視化された”チャットルーム”のデザインは、中田監督がロンドンに持ち込んだ日本の廃墟やラブホテルの写真集が参考にされ、欧州っぽいアートな雰囲気に仕上がっており、新鮮な印象を与える。イギリスは、日本、ハリウッドに続く、中田監督の新しい拠点となるのか。岡山に滞在中の中田監督へのメールインタビューを行なった。
秀夫監督。夕方7時までの撮影ながら、セット
4週間、ロケ3週間で撮影を終えた。
──『チャットルーム』、とても新鮮な印象を受けました。名前がクレジットされていなければ、「気鋭の新人監督がイギリスから現われた!」と思ったかもしれません。製作環境が変わることで、演出スタイルなど変わった点はありますか?
中田 これは、ハリウッドでも経験したことなので、すぐに対応できましたが、一場面をいろんなサイズ、いろんな角度から何十テイクも撮るところは、日本での私のカットごとに細切れに撮っていくやり方と異なるので、少し戸惑いはありました。しかし、撮影監督のブノワー・デロームや美術のジョン・ヘンソンと息もよく合って、楽しく撮影は進みました。編集はダニー・ボイルと組んでいた、日本出身のマサヒロ・ヒラクボさんだったので、これもとても楽しかった。メーンスタッフたちとは感性的にとてもウマが合い、バーチャル空間と現実世界との視覚的違い、編集、音響の緩急など、私のセンスを見事に汲み取ってくれたことがすごくうれしかったです。ただ、製作者側との意見のすり合わせは大変でした。
──日本、イギリス、ハリウッドでは、それぞれ撮影の進め方は違います?
する形で、キャスティングが進んだ。『28週
間後…』(07)のイモージェン・プーツ(中央)
ら才能ある若手俳優が選ばれた。
中田 イギリスでは、撮影時間が朝8時から夕方7時までと決められていて、基本的にこれをオーバーできないことが大変でした。ハリウッドにも定時制は厳格にありますが、予算規模が大きいので、夜間手当を払えば残業が可能です。また、日本では基本的にその日与えられたスケジュールをこなしていくので、このイギリス流は初体験で、緊張もしましたが、制約があるのが映画撮影なので、日々気合いを入れて撮っていきました。現場の雰囲気は、クルーの数が数十名と日本と同じ規模なので、撮影を通してそれぞれが親しくなり、和気あいあいとしていたと思います。ハリウッドではどうしても巨大産業の歯車的に感じさせられることもあったのですが、少なくとも撮影中のイギリスでは、日本と同じように監督として現場をほぼ完全に掌握できました。
──主人公のウィリアム(アーロン・ジョンソン)がネット上で配信するクレイアニメーションは、欧州風のダークな雰囲気で非常にユニーク。アニメーターはイギリスの方ですか? また、中田監督からはどのようなディレクションを?
中田 そうです、イギリスの新進気鋭のアニメーターです。彼の持つ「世界に対する悲観的な目」が気に入り、参加していただきました。彼への指示というか、相談したことは、それぞれのアニメーションの、皮肉さ、孤独さをどう前面に出すかという全体像についてでした。
■ヒッチコックを意識した英国産スリラー!?
──本作はホラーではありませんが、”チャットルーム”の一室は、貞子のビデオの世界、『仄暗い水の底から』(02)の水槽にも繋がっているかのような気がしました。舞台用の戯曲が原作ですが、やはり中田ワールドと繋がりがあると思ってよいでしょうか?
ットルームの一室に、悩みを持つ若者たちが集
まる。現実世界と色調を変えた仮想現実の描写が
ユニーク。
中田 エンダ・ウォルシュの戯曲は、ハリウッドの型にハマったシナリオと違い、戯曲ならでは、またアイルランド出身のエンダならではのイギリスの社会、若者たちを捉える視線が新鮮でした。映画化に当たっては、プロデューサーの意向もあり、ヒッチコック的なスリラー的要素を取り入れて、ダークなものになるようエンダと議論しました。それほど強く、『リング』や『仄暗い水の底から』などの自作を意識したわけではありませんが、3作品に共通して言えるのは、閉じた世界、室内空間をどう見せていくかということでしょうか。無意識に共通したものが、どこかあるのかも知れません。
──”チャットルーム”の別室で、サラリーマン風の日本人がちらりと映りますが、あの男性は中田監督ですか? イギリス出身のヒッチコック監督へのオマージュ?
中田 そうです、私です。エキストラ代の節約および、実は出たがり気質もあります(笑)。ヒッチコックももちろん、ちらりと意識しましたが、むしろ現場にいるスタッフ、キャストに笑ってもらいたくてやったという感じでしょうか。
の姿が次第に明らかになっていく。仮想現実は
人間の心の闇を増長させるのか、それとも救
済しうるのか?
──セルフドキュメンタリー『ハリウッド監督学入門』(09)の中でハリウッドでは脚本にGOサインが出て撮影に入るまでに気が遠くなるほど時間がかかることに言及されていました。ハリウッドに比べると、本作はスムーズに企画が動き、作品が完成したのではないでしょうか? 今後の創作活動の場を、日本、ハリウッド、イギリス……と、どのような位置づけをイメージされているのでしょうか?
中田 08年3月に私のオリジナル作品を香港映画祭映画企画マーケットに持って行ったときに『チャットルーム』のエグゼクティブプロデューサーと出会い、イギリスの製作会社とチャンネル4に私を監督として推薦してくれ、同年5月に渡英したというのが今回の参加の経緯です。しかし、この作品も私が参加する前におそらく半年以上の企画開発の時間があり、参加後もクランクインまで脚本の直しやキャスティングなどで1年ほど掛かりました。ですから、”監督が指名されるときは原則的に企画としてGOがかかっている”という日本映画の状況とは違います。やはり、日本をベースにしていくのが、”心地よい”環境だとは思っています(笑)。
イギリスからの逆輸入映画『チャットルーム』は、中田監督のナイーブな演出とイギリスの実力派スタッフ&若手俳優たちの尖ったセンスとの化学反応がうまく働いたと言えそうだ。何よりロンドンのどんよりした空模様は、中田ワールドにかなりハマっている。東京での取材が難しいことから今回はメールでのインタビューとなったが、世界を股に掛けて活躍する中田監督の日刊サイゾーへのご登場、お待ちしております。
(文=長野辰次)
●『CHATROOM/チャットルーム』
監督/中田秀夫 音楽/川井憲次 出演/アーロン・ジョンソン、イモージェン・プーツ、マシュー・ビアード、ハンナ・マレー、ダニエル・カルーヤ 配給/アルシネテラン PG12 3月19日(土)よりシネマート新宿、シネマート六本木ほか全国順次公開中
http://www.facebook.com/chatroommoviejpp
(C) 2010 RUBY FILMS (CHATROOM) LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, UK FILM COUNCIL & NOTTING HILL FILMS LIMITED
●なかた・ひでお
1961年岡山県出身。92年に文化庁芸術家在外研修員として渡英し、95年に帰国。古い撮影所で起きる異変を描いた『女優霊』(96)が劇場公開され、話題に。『リング』(98)、『リング2』(99)は大ヒットし、世界的なブームを巻き起こした。セルフリメイクとなる『ザ・リング2』(05)でハリウッドデビュー。黒木瞳をヒロインに迎えたドラマ性の高いホラー『仄暗い水の底から』(02)、『怪談』(07)や、非ホラー系の作品『ガラスの脳』(00)、『ラストシーン』(02)、『L change the warLd』(08)、『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』(10)などがある。また、赤狩りでハリウッドから英国に亡命したジョセフ・ロージー監督の評伝『ジョセフ・ロージー 四つの名を持つ男』(98)の他、『サディスティック&マゾヒスティック』(00)、『ハリウッド監督学入門』(09)など映画業界、映画監督を題材にしたドキュメンタリー作品も手掛けている。デビュー作『女優霊』が、ハリウッドリメイク作『THE JOYUREI 女優霊』として今年日本公開されたことも話題。
Jホラーの金字塔。
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