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災害時の携帯電話との接し方について「利用者ができること」を専門家に聞いてみた

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※日刊サイゾーは省エネ運転中です。

 国内観測史上最大の地震となった「東北地方太平洋沖地震」。地震発生直後から携帯電話は各キャリアとも利用不能となり、「被災地の家族と連絡が取りたい」という血の叫びにも似た書き込みで、Twitter上は一時埋め尽くされた。もちろん、連絡が取れずに一番辛い思いをしているのが現地の被災者であることは言うまでもない。過去の大きな災害時では、瓦礫の狭間で生き延びながら、救援を求めてつながらない携帯電話を必死でかけ続けていたという被災者も少なくない。

 こうした際に必ず出るのが「いくらなんでも、いざというときにケータイ使えなさ過ぎ!」「不便は覚悟するが、もうちょっとなんとかならんのか!」といった悲痛な叫び。あるSNSでは「国民全員が一斉に電話してもビクともしない体制は作れないものなのでしょうか」という、素朴とも無茶ともとれる直球な疑問も見受けられた。

 実際、災害時でも過不足なく携帯電話を使えるようにすることは不可能なのだろうか。携帯電話の業界動向に詳しい武蔵野学院大学准教授の木暮祐一氏は、「各キャリアがとんでもなく莫大な設備投資をすれば理論上は可能ですが」とした上で、「現実的には難しい」という理由を次のように説明する。

「莫大な設備投資をすれば、当然ながら料金にも跳ね返ってきます。現行サービスはあくまで、平常時で過不足なく使えることを前提に設備投資し、そのうえで料金を設定しています。仮にピーク時のスペックで巨額のインフラ整備するとなると、その設備能力は平時ではまったく無駄になってしまいます。それ以外にも、総務省から割り当てられている周波帯の問題もありますが、今回それを考慮から外したとしても現実的には難しいでしょう」

 あるシステム開発者もこれに同意する。

「もしJRや私鉄が今の100倍、200倍の輸送量を、365日24時間体制で実現しようとすれば、極端に言えば線路そのものを何本も新たに敷設したり、車両を2階建て、3階建てにするなどして、キャパも100倍にしないと無理です。工事費はもちろん、維持費や安全対策費、人件費も莫大に膨らみますが、一年のほとんどは電車がガラガラという状態になるでしょう。それでも『一年中その状態で走らせろ』という声に応えようとすれば、料金を一区間5,000円とか1万円とかにしないと維持できません。それと似たような話です」

 物理的には可能だが事実上無理というのが、現時点での答えのようだ。また、前出の木暮氏はNTTが電電公社だった時代を振り返りながら、電話の社会的な位置づけの変化を指摘する。

「昔は電話も、電気やガスと同じ公共インフラとしての認識が今以上に強く、本当に必要なときだけ電話で話すべきだという風潮がありました。ところが民営化してNTTになると、トレンディドラマをスポンサードするなどして、電話を現代人のコミュニケーションツールとして前面に打ち出し始めました。同時に、さまざまな手段で利用者の意識を煽りながら利用料金の拡大に務めてきたわけです。ブームになった『帰るコール』なんて、いわば無駄な電話の典型です。民間会社としては必然という部分もありますが、実際に緊急事態で電話を使えずに命の危険にさらされている人がいるわけですから、公共インフラとしての認識を、サービス会社も利用者も双方があらためて持つ必要はあるでしょうね」

 一方、一連の不満の声で多く見られたのが、「災害用伝言ダイヤル(171)が通じない」というもの。これは「地震、噴火などの災害の発生により、被災地への通信が増加し、つながりにくい状況になった場合に」(NTT東日本のHPより)利用できる緊急ダイヤルで、2005年8月の宮城県沖地震での調査では、回答者の9割がその存在を認知していたというほど定着が進んでいる。今回の地震でも、一部の全国紙ではこの171を「固定電話からも携帯電話からも使えるサービス」と紹介している。ところが実際には「171が全然通じない!」という声がTwitterやSNSで氾濫した。

 これについて木暮氏は、171そのものへの誤解があると説明する。

「たとえば、auからdocomoへというように、他のキャリアへ電話をかけるときは『ゲートウェイ』と呼ばれる電話会社同士が接続する関門局を通過するのですが、混雑時はこのポイントでどうしてもつながりにくくなります。『171』のサービスはauでもdocomoでもなく、NTT東日本という別の電話会社が運営しているわけですから、どの携帯電話からも混雑時には基本的につながりにくくなります。混雑が収まれば携帯からももちろんつながりますが、緊急時では固定電話で使うサービスだと基本的に認識しておいたほうがいいでしょう」

 たしかに、NTT東日本のHPでは、「171」を利用できるのは固定電話や公衆電話、ひかり電話などが基本とした上で、「携帯電話、PHSからも利用できますが、詳しくはお客様がご契約されている通信事業者へご確認を」と説明している。携帯電話からの利用は、各キャリアが推奨しているウェブサービス「災害用伝言板」を利用するのが正しいようだ。

 以上をまとめると、災害時での携帯電話については

1.災害時につながらない状況は今後も大幅に改善される見通しはない。

2.したがって混雑時は当事者以外は携帯の利用を控える。

3.各キャリアの災害用伝言板サービスを活用する。

 という、極めてシンプルな点の再認識が必要となりそうだ。

 「そんなことはあたりまえだろ!」と言うことなかれ。災害直後のネット上では「会社に何回もかけまくってんだけど、全然つながらない」「さっきからバイト先に20回くらいかけてる」そんなカキコミが散乱していたのも現実。これについて木暮氏が言う。

「普段あまり意識されていませんが、電波というのは限られた枠をみんなで分け合って使っているという現実があります。災害時のような緊急時には不要な電話は控え、本当に必要としている人たちのために譲る考え方を周知する必要があるでしょう。たとえば、公衆電話は実は固定電話よりもつながりやすく設定されていますので、移動中に会社へ連絡するときは、公衆電話から会社の固定電話へかければ携帯の周波帯は使わなくて済みます。被災地の大変な状況はまだ続きますので、今後もしばらくは配慮が必要でしょう」
(文=浮島さとし)

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最終更新:2011/04/11 17:15
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