マンガ最大のタブー『ワンピース』──誰も語らないヒットの真相【前編】
#マンガ #プレミアサイゾー
──いまや、単行本の累計発行部数が2億部を突破したという『ワンピース』。その圧倒的な認知度や支持率の高さから批判的なコメントはもちろん、まともな批評すら許されがたい状況になっている。いったい何がファンを妄信的にとりこにしているのか。
2011年1月31日、集英社は「週刊少年ジャンプ」で連載中の尾田栄一郎『ONE PIECE(以下、ワンピース)』【1】の単行本60巻までの累計発行部数が2億部を突破したことを発表。2月末までに発売される同社全33誌の表紙を『ワンピース』にちなんだものにする「表紙ジャックキャンペーン」を展開。「non-no」4月号や「週刊プレイボーイ」8号などで、タレントがキャラのコスプレをして表紙を飾るなどしている。
こんな例を引くまでもなく、ここ数年の『ワンピース』人気の過熱ぶりには目を見張るものがある。ゲームやフィギュアなど、サブカルチャーのニオイのするコンテンツやプロダクトについて、浅い知識を自慢げに開陳し、一家言ある風を装いたがる矢口真里はご多分に漏れず、多くのタレント、芸人、ミュージシャンらがファンであることを公言。明石家さんままでもが、サンジが恩人のもとを離れ、麦わらの一味に加入するシーンで泣いたと発言している。
また、集英社の雑誌のほか、10年7月には「日経エンタテインメント!」(日経BP社)8月号の表紙にもルフィは登場し、この2月には『クローズアップ現代』(NHK総合)も同作のヒットの理由を探る特集を企画。本誌でも10年11月号で『ワンピース』バブルの過熱ぶりについて報じた。そして、09年末公開の映画『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』は興行収入48億円を記録し、1月にはアニメ版の制作や版権管理などを手掛ける東映アニメーションが、10年度の『ワンピース』の国内版権売り上げが第3四半期までに前年度通年の4倍近くとなる24億4900万円に上ると推計するなど、メディアミックス事業の成績も上々だ。
『ワンピース』批評はタブー化してる?
かようにメガヒットコンテンツと化した『ワンピース』ではあるが、その半面、ベストセラーにはつきものの本格的な批評、評論にはなぜかめったに出くわさない。
前出「non-no」において専属モデル・佐藤ありさが「感動できるエピソードが続々と出てきてハマっちゃう」と語るように、ファンを公言するタレントの『ワンピース』評は「泣ける」「燃える」「熱い友情に感動」など、読後感を表すものばかり。「日経エンタテインメント!」が同作の魅力を「夢を抱き、仲間との友情を信じる熱いメッセージ性」「各キャラクターがそれぞれ人生の物語を持っている」「壮大な世界観」とするなど、メディアでの扱いもそう変わらない。
「それだけに、なぜ『ワンピース』が突出した人気を獲得しているのか。理由がよくわからないんですよ」
そう語るのは、『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)などの著書を持つ紙屋高雪氏だ。紙屋氏は10年6月、自身のブログに「なぜ『ワンピース』はつまらないのか?」というエントリを投稿。『ワンピース』は、続々と登場する強大な敵やライバルに打ち勝つスポーツマンガのように物語が進む作品と見受けられるものの、その割にルフィには敵を倒すための努力や勝つための戦略があるようには見えない。しかし、強い信念や決意を表明するための”名言”をことあるごとに絶叫してみせる。そのロジカルではない精神論は苦手だ、としたところ、はてなブックマークに400ものブックマークが寄せられた。
「あの一件では『読者は努力や理屈なんて求めていないのでは』『あのテンポの良さが魅力』『友情と離別の物語が面白いんだ』という指摘を数多く頂きました。それだけに、ロジックを求めた僕が野暮だったのかなぁ、とも思ったものの、じゃあ、なぜ別のマンガじゃダメなんだろう? という疑問も浮かんでしまった。たとえば『SLAM DUNK』【2】だって同じように友情や仲間との絆を描いた作品ですよね。もちろん『SLAM DUNK』もベストセラーですが、なぜ『ワンピース』はそれすらも飛び越えて、日本一売れているマンガたり得ているのか。はてなブックマークはもちろん、マンガ評論家の書評や雑誌の『ワンピース』特集などもマジメに追いかけてみたんですけど、作中に描かれた絆やバトルの素晴らしさを明確に語ることに成功している言説には、残念ながら出会えませんでした」(紙屋氏)
前出『クローズアップ現代』によると、その読者層の9割は19歳以上が占め、全読者の1割以上は50代以上だという。あまりにも多くの大人をそこまで魅了するワケが明確に説明されないのは不思議な話だが、紙屋氏は、その理由のひとつにファン層があるのではないか、と見る。
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