寄付をすれば世の中を変えられるって、本当ですか!?
#本 #インタビュー
社会的企業であるNPO法人フローレンスは、病児保育を行っている団体だ。病児保育とは、幼児が熱を出したり、風邪を引いたりしたとき、仕事のために看病ができない親や、そうしたニーズに対応できない保育園に代わって子どもたちを預かるサービス。同団体の代表理事を務める社会起業家の駒崎弘樹氏が、自らの団体の活動の様子や寄付によって世の中がどう変わるかなどを考察した著書『社会を変える お金の使い方』(英治出版)を昨年12月に出版した。今回、駒崎氏に日本で寄付を増やす方法や最近話題を集めた”タイガーマスク現象”について話を聞いた。
――本書を執筆した経緯を教えてください。
駒崎弘樹氏(以下、駒崎) ある講演会で我々の行っている病児保育について話す機会がありました。その講演が終わったあと、一人の女性が私のところに来て、「フローレンスの活動は素晴らしいが、私には(フローレンスを利用するための)月々の会費7,000円も払えない」というのです。よくよく話を聞くと、彼女は非正規雇用で一人で子どもを育てているので、そこまでお金に余裕がないということでした。
――母子家庭の多くは、非正規雇用で所得は低いと聞きます。
駒崎 そうなんです。そして、お金が教育にまで回せないので、子どもが高校や大学まで進学できない。そうすると子どもの代でも所得が低くなる傾向が高く、いわゆる貧困の世代間連鎖のようになってしまう。そんな中で、少しでもいい教育環境で子どもを育ててもらうには、親が働きやすくするための社会的なサポートが必須です。そこで、そんな家庭の方でも利用できるように、寄付に支えられた病児保育を作ろうと思いました。それまで僕は寄付について、よく知らなかったのですが、よく調べてみると奥が深い。単にお金をもらうという経済的行為に留まらず、人々の意識を変えるという効果があることを知り、多くの人に寄付について知ってもらいたいと思い、本を書きました。
――よく、アメリカには寄付文化が根づいているが、日本にはそれがないと言われます。その背景として、日本とアメリカを比べた場合、寄付に関する税制上の問題(寄付に関しては、日本の場合、公的に認められた寄付金だけ所得控除される。一方で、アメリカは寄付金が認められる範囲が広い上、税額控除される。つまり免除される税金が、アメリカのほうが多い)が大きいのでしょうか?
駒崎 税制の問題はかなり大きいと思います。むしろ税制ぐらいしか大きな違いはありません。僕はアメリカに留学していたことがありますが、アメリカ人の中にも寄付文化がある人もいれば、ない人もいます。寄付に関する社会のシステムが整っているかどうかだと思います。
――日米を比べた場合、個人の寄付に対する意識の違いはどうでしょうか?
駒崎 アメリカの場合は、建国当初からアソシエーショニズムという、みんなで助け合い、何かをしていこうというところがあります。一昔前の日本でも、ほとんどの神社仏閣は地域の人々の寄付でできています。そういう意味では、日本人だから寄付の文化がないとか、アメリカ人だからあるというのは、歴史的に見れば、根拠が希薄じゃないかと思います。
――本書にも出てきますが、世界的なコンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーが社会福祉団体やNPOに無償でコンサルティングを行っているように、外国の大企業の中には社会貢献活動に積極的なところが少なくありませんが、日本の企業の場合はどうでしょうか?
駒崎 かつての日本企業はメセナ(文化・芸術活動への支援)みたいな感じで、余ったお金を慰め程度に社会貢献に回す場合が多かったのですが、最近は、すごく戦略的になってきています。コーズ・リレイテッド・マーケティングといって、企業の社会問題や環境問題への取り組みをお客さんにアピールしつつ、利益の獲得を目指すマーケティング手法で、商売しながら寄付をするという形が知られざる流れとしてあります。今では有名企業でそういった活動をしていない企業はかなり少なくなってきました。
――コーズ・リレイテッド・マーケティングの具体的な例としては?
駒崎 有名なところでは、「Say Loveキャンペーン」といって、参加したさまざまな職種の企業が自社の店頭や職場に共通の募金箱を置いてくれたり、寄付付き商品を販売したりしたプロジェクトが挙げられます。また、「PASS THE BATON」というリサイクルショップで寄付付き商品を買うと、売り上げの一部が私たちの団体に入ってくる仕組みになっています。
――ズバリ日本で寄付を増やすにはどうすればよいでしょうか?
駒崎 四の五の言わず、僕らが寄付をする。そして、我々NPOが、コンビニに置かれている募金箱ぐらい気軽に寄付ができるような機会をもっと作れば、はっきり言って今のレベルじゃないほど募金は集まると思います。
――寄付と言えば、最近のタイガーマスク現象についてはどう思われますか?
駒崎 あれだけ多くの人が伊達直人とわざわざ書いて、日本全国でランドセルなどを寄付している。ということは、寄付文化の定着ということは容易に起こりえるということを示していると思います。これを機に”寄付をすることが当たり前だよね”っという風に一般化できればと思います。”日本には寄付文化がないから”で諦めていたら、何も変わらない。とにかく、自分がやり始めることじゃないかと思います。
――寄付をすると何がどう変わるかというのが、思い描けない人が多いと思います。寄付をすると何がどう変わるのでしょうか?
駒崎 今回のタイガーマスク現象で児童養護施設に国民の目線が集まりました。その結果、1月18日付の東京新聞によると、30年ぶりに厚生労働省が児童養護施設の職員数を増やすことを打ち出したそうです。実は、政府は国民の目線に弱いのです。養護施設に国民が寄付をするだけで、国を揺り動かすことができます。実際、国というのは本当に動きが鈍いので、ソーシャルメディアなどで”俺たちで勝手に支援しようぜ”って盛り上がれば、それを国や自治体が追いかけてきます。つまり、寄付をすれば世の中を変えることができるんです。
――出版後の反響はどうですか?
駒崎 僕のTwitterには、毎日のように感想が寄せられます。すごく売れているんじゃないかと錯覚するぐらいですよ(笑)。寄付をタイトルに入れると、本が売れないと出版社の方には言われたんですが、本書はサブタイトルに「投票としての寄付 投資としての寄付」と入れた。寄付の本を出さないと誰も寄付の力を理解してくれないし、このまま寄付後進国ではよくないと思います。
本書は、寄付について書かれた珍しい本である。寄付は社会を変える力を持っているという力強い駒崎さんの言葉が印象的だった。もし、寄付に興味をもったならば、まずは下記にあるフローレンスのホームページを一度のぞいてほしい。
(文=本多カツヒロ)
●こまざき・ひろき
1979年生まれ。慶応義塾大学卒業。NPO法人フローレンス代表理事(http://www.florence.or.jp/)。著書に『働き方革命』(ちくま新書)などがある。
自分が食べていくだけで精一杯ですが。
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