「廃墟×鉄道」夢のコラボレーション 両マニア垂涎の一冊『廃線跡の記録』
#本 #サブカルチャー
廃墟ブームと言われて久しい。軍艦島が各メディアで紹介されるようになった頃から廃墟ブームは熱を帯び、現在も廃墟熱は加速し続けている。朽ちた壁、崩れた階段の趣が、RPGファンタジーの世界にいるかのような気分にさせてくれるのが廃墟の魅力ではないだろうか。
ブームの廃墟と鉄道、夢のコラボレーションと言えるのが廃線跡。『廃線跡の記録』(三才ブックス)は、今なお姿形をとどめる日本の廃線を紹介したムックだ。貨物線、モノレールも合わせて31もの廃線が収録されている。写真、文ともに多数掲載されており、長く楽しめる納得のボリュームだ。山中を走る廃線、海辺を臨む廃線、廃鉱を貫く廃線と、ひとくちに廃線と言っても使用された用途はいろいろ。役目を終え、今は朽ち果て、打ち捨てられているが、その重ねてきた年月はさながら人の一生を思わせる。きしんだ枕木の風味、錆びた鉄橋の雄大さ、すすけた隧道(ずいどう=トンネル)の迫力は圧巻の一言。
廃線は私たちが住んでいる街中にも存在する。たとえば都心にほど近い豊洲~晴海埠頭を通る東京都港湾局専用線・晴海線。これは、臨海工業地帯の貨物運搬のため建設された貨物線で、昭和5年(1930)から平成元年(1989)まで、59年にわたり運行されていた鉄道だ。最盛期の取扱貨物量は230万トンにも及んだという。昭和を駆け抜け、高度経済成長を支え続けた硬派な鉄道だ。その遺構は豊洲駅界隈から見ることが出来る。アーチを描く晴海橋を目印に探してみよう。
廃線はさまざまな理由から役目を終えた線路である。草むす鉄道遺構をじっと見つめていると、現役の鉄道にはない趣に気が付く。定年後の老サラリーマンの哀愁であったり、大往生を遂げた老人の満足であったり。そういった人間の生きた痕跡を見るような味わいに満ちている。現在の姿を見て楽しみ、また在りし日の現役時代の姿を想像して楽しむ。廃線巡りは金もかからず二層の楽しみ方が出来る、大変オトクな遊びなのだ。廃線ガイドとしてこの一冊、必携です。
(文=平野遼)
いと趣深し。
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