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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第8回

エジプト反政府デモが世界の経済システムを揺るがす!? 民主化をめぐるアメリカの誤算とは

国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

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第8回テーマ
「アメリカの覇権、その正当性」

[今月の副読本]
『千のプラトー 資本主義と分裂症』上巻
ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ著/河出文庫(10年)/1260円
複雑に入り組んだ資本主義のダイナミズムをさまざまな手法で読み解いた著者らによる代表作のひとつ。抽象機械や戦争機械など、新たな概念を持ち込んだ、現代人のための倫理指針としても名高い一冊。


 2011年になって中東地域が一気に揺らぎ始めました。まずはチュニジアで大規模な反政府デモが勃発し、23年も続いたベンアリ政権が崩壊しました。次にエジプトでも反政府デモが全土に広がり、30年にわたって強権支配を続けてきたムバラク大統領は、次期大統領選には出馬しないことを表明しました(2月1日現在)。こうした反政府デモの動きは中東各地に飛び火し、この地域の長期独裁政権を次々と揺るがしています。例えばイエメンでも、南北イエメン統合後約20年にわたって大統領の地位に就いていたサレハ大統領が、任期が終わる13年で退陣することを表明しました(2月2日)。ヨルダンでも2月1日に、アブドラ国王が抗議デモを受けてリファイ首相を更迭しています。

 もしかしたらこれら一連の動きは、1989~91年に東欧の社会主義国が民主化した動きに匹敵するくらい、大きな歴史的転換をもたらすかもしれません。ただし民主化といっても、今回は、民意を受けたイスラム原理主義がこの地域で広く台頭してしまう可能性もなくはありません。かなり流動的な状況にあるわけですね。

 では、何がこうした流動的な状況を中東地域にもたらしたのでしょうか。もちろんそこには、政権の腐敗や失業率の上昇など、さまざまな要因があります。が、もう少し大きな歴史構造的視点から見ると、03年のイラク戦争がひとつの遠因になっていることがわかります。

 どういうことでしょうか。それを理解するために、まずはイラク戦争の原因について考えましょう。

 なぜブッシュ政権のアメリカがイラクを攻撃したのか、という問題については、いろいろな原因を考えることができます。当初、アメリカはイラクが大量破壊兵器を密かに保有していると主張し、自国の安全保障のためにイラクを攻撃しようとしました。しかし、国連による全面査察が行われても、アメリカが主張するような大量破壊兵器は何も出てこず、結局アメリカは理由が曖昧なままイラク戦争に踏み切りました。イラク戦争後のアメリカによる占領統治においても、大量破壊兵器は見つかっていません。

 このような経緯から、アメリカがイラクを攻撃したのは、イラクの石油利権を牛耳りたかったからだ、という説が多くの人から聞かれるようになりました。しかしこの説はそれほど正しくありません。というのも、70年代に産油国では資源ナショナリズムが勃興し、イラクを含めた中東産油国の油田資産はほとんど国有化されてしまったので、たとえアメリカのような覇権国であっても、戦争によって中東地域の石油利権を牛耳るなどということは、そもそも不可能だからです。事実、イラクでは03年4月のフセイン政権崩壊以降、新たな石油開発はほとんどなされず、09年になってようやく、外国の石油資本が油田開発権を獲得するための国際入札が行われました。そして、この入札によってイラク政府が外資と結んだ石油開発契約12件のうち、アメリカ資本は2件しかかかわっていないのです(アメリカ資本がオペレーター企業になれたのは、そのうちの1件だけです)。さらにいえば、アメリカの全石油消費量のうち、中東地域からの輸入原油の比率は1割台しかありません。約9割の日本とはまったく対照的です。中東産の原油に対するアメリカの依存度は驚くほど低いのです。アメリカにとって、イラクの石油利権を軍事力によって無理やり牛耳らなくてはならない必要性はどこにもなく、またそれができる可能性もないのです。

 イラク戦争と石油ということでいうならば、むしろ00年にフセインが、今後は石油輸出代金の決済をドルではなくユーロで行うと宣言したことのほうが重要です。なぜなら、それはドル基軸通貨体制の根幹に挑戦するものだったからです。

最終更新:2011/03/05 10:30
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