「一人一人の言葉に耳を傾けて欲しい」 『FREAKOUT』知的障害者バンドの記録
#映画 #インタビュー #邦画
静岡県富士宮市・超教派弘願寺の二代目住職・角田大龍氏が、「頭脳警察」「裸のラリーズ」などの伝説のバンドを支えたミュージシャンたち、そして知的障害を持った3人の僧侶と結成したバンド「ギャーテーズ」。彼らを追ったドキュメンタリー映画『FREAKOUT』が3月5日から公開される。
世界共通語である”音楽”を軸に描かれた本作だが、僧侶たちが生活する寺の創設者である在日朝鮮人・和上が帰国したことをきっかけに、それぞれの歯車が狂い出す。苦境に喘ぐ寺の再建の過程で、和上とバンドのリーダーである大龍との確執が表面化していく。単なる考え方の違いではなく、日韓日朝問題という歴史的背景も複雑に絡み合い、双方の主張は平行線をたどる。はたして、この映画に込められたメッセージとは何なのか? 監督である矢口将樹氏にお話を伺った。
――監督がギャーテーズを知ったきっかけを教えてください。
「一緒に映画をやっていた友人から『面白そうな題材がある』と教えてもらったことがきっかけです。それで、当時(2002年頃)、病気で入院していたバンドのリーダー・大龍さんに会いに行きました。”障害者”であり”お坊さん”がバンドをやっていれば、ドキュメンタリーとして何かしら形になるんじゃないか、とりあえずやってみようという感じで撮影を始めました」
――実際に障害者たちが生活する環境に身を置いて、どのように感じられましたか?
「最初はかなりキツい場所をイメージしていたんですが、全然普通だったので驚かされました。みんな普通に会話することもできるし、魅力的な人ばかりです。僕たちが話すよりもまっとうでしたね」
――「まっとう」というのは?
「頭で考えたことが、ダイレクトに言葉として出てくるんです。それがすごいなと思いました。自分の言葉として、日本語をここまでちゃんと話せる人たちに、それまであまり接したことがなかったんです」
――フィルムが進むにつれて、障害者バンドから、だんだんと日本と韓国、朝鮮との関係も描かれるようになっていきますね。始めからそちらの問題も取り上げようと考えられていたんでしょうか?
「いえ、もともと朝鮮人住職はいなくて、そういう寺(在日朝鮮人のためのお寺)だということは全然知らなかったんです。撮り始めた当初は『ちょっと面白くないな』と思いながら撮影していたんですが、住職が帰ってきたあたりから、バンドよりもこの住職にシフトした方が面白いなと思ったんです」
――寺の再建をめぐって、この「和上」という朝鮮人住職と大龍さんとの確執が表面化していく過程で、和上はともするとヒールとして描かれてしまいそうですが、映画の中ではヒールとしてではなく、とても人間くさい人物として扱われているように思います。
「彼にとって日韓日朝問題は、多くの日本人のように『しょうがない』という一言で片付けることはできない問題なんです。それは、自分自身を否定してしまうことになってしまう。明確に提示しているわけではありませんが、日本と韓国、朝鮮のために尽くした人がいるということを少しでも分かってもらえれば」
――ただ、和上の姿を見ていると、やはり日本と韓国、朝鮮の埋まらない溝を感じてしまいます。
「当時は北朝鮮に対するネガティブな報道が多い時期だったんですが、和上という人物は、そんなマスコミが作るイメージそのものだったんです。韓国や北朝鮮の方は、日本が過去にいかにひどいことをしたかと問いつめる。けれども、戦争を知らない世代の日本人はどうすればいいのか分からない。実際、僕が和上からその質問を突きつけられたときも、結局、彼らがどうして欲しいのか分かりませんでした。和上という人間はとても日韓日朝問題に対して熱い人物ですが、同時に日本のことが好きで、ギャーテーズのことが好きで、みんなと楽しくやりたい人だったと思うんです。けれども、最終的には個人としてのスタンスよりも、国のスタンスを優先しなければならない。そういうジレンマは可哀想だなと思いましたね」
――完成から8年の歳月を経て無事公開の運びとなったわけですが、公開にあたっての心境は?
「ちょうど02年、03年の頃は拉致被害者が帰国し、日朝問題が注目されていたので、そのようなタイムリーな時期に公開できればよかったとは思います。完成から2、3年は毎日のように、何とか公開できないかと悶々としていましたね。ただ、そういった感情すらなくなった頃に劇場公開の話が具体化したので、『ラッキー』という感じです。実はこの作品は、大学生の頃に初めて撮ったものなんです。公開が決まって、だいぶ直さなきゃならないんだろうなと思いながら見直したんですが、結局1カット削っただけでした。撮影は下手ですが、編集に関してはこれはこれでいいかな、と」
――障害者と日朝問題のどちらが、メッセージとしてより残ってほしいですか?
「別にどちらも打ち出したくないし、テーマにしているわけでもありません。登場人物のバックグラウンドが障害者や在日っていうだけで、あまり難しく考えてほしくないんです。それよりも、一人一人の言葉をしっかりと聞いてほしいなと思います。みんな本当に言葉に魅力がある人たちなんです」
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン]/撮影=佐久間ナオヒト)
●やぐち・まさき
1978年長野県生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒。鬼才・故石井輝男監督に師事し、遺作となった「盲獣VS一寸法師」(04年公開)にスタッフとして参加。05年石井監督の急逝後、同作の撮影風景を収めた「石井輝男FAN CLUB」(撮影・熊切和嘉)を監督。石井監督の最晩年の姿、演出風景が一挙に映るこの貴重なドキュメンタリーは06年に短期公開されたが、 今や幻の作品となっている。本作「FREAKOUT」が監督第二作目。新進気鋭の若手監督である。映像制作チームTRICKSTERFILM所属。現在は映画だけでなく、テレビや舞台、ライブなど、さまざまなジャンルの映像制作に携わっている。
●『FREAKOUT』
監督・撮影・編集/矢口 将樹 撮影/菅原 養史、松本 真樹 出演:ギャーテーズ
角田 大龍(Syn Key)、小山 大僑(Vo)、大久保 弘順(Vo)、荒川 大愚(Cl)、高橋 ヨーカイ(Bass ex.裸のラリーズ)、棟居 イズミ(G)、石塚 俊明(Ds from 頭脳警察)、寺田 佳之(Per)、松本 ケンゴ(G from フリーキーマシーン)、釋 弘元
宣伝・配給/ふーてんき 製作/TRICKSTER FILM 公式サイト<http://www.freakout-movie.com>
3/5より新宿K’s cinema、渋谷アップリンクにて公開
公開記念イベント開催決定!!
●『FREAKOUT』公開記念!! トーク&ライブ
ギャーテーズの角田大龍氏が参戦し、ギャーテーズ秘蔵ライブ映像とともにその軌跡を語ります。また、松江哲明監督と山下敦弘監督のトークや、スペシャルゲストによるミニライブもあり。
※登壇者は諸事情により当日変更となる場合も御座います。予め御了承ください。
【日時】3月6日(日)OPEN12:00 //START13:00
【場所】ネイキッドロフト(新宿)<http://www.loft-prj.co.jp/naked/>
【出演】角田大龍(ギャーテーズ)、松谷健(CAPTAIN TRIP RECORD 代表)、小林健二(アーティスト)、山下敦弘監督(『リンダリンダリンダ』『天然コケッコー』他)松江哲明監督(『童貞。をプロデュース』『ライブテープ:他)、松本章(ふーてんき音楽・ライター)、ほかスペシャルゲスト来場予定。
【チケット】前売1,300円/当日1,500円(共に飲食代別)
前売りはローソンチケット【L:36779】&ネイキッドロフトHP にて発売中!!
●『FREAKOUT』公開記念ライブ
映画の公開を記念して、ギャーテーズ出演のライブイベント決定! 詳細は近日発表。
【日時】3月23日(水)
【場所】下北沢ガーデン <http://www.gar-den.in/pc/index.php>
異色のキャストです。
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