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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第42回

ウォール街の保安官を”ハメた”のは誰だ!?

──雪に隠れた岩山のように、正面からは見えてこない。でも、映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる。超大国の真の姿をお届け。

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『クライアント9/エリオット・スピッツァーの興亡』

 圧倒的な票差により、07年のニューヨーク州知事に就任したエリオット・スピッツァーをめぐる政治ドキュメンタリー。あまりの人気ぶりに、一時は「米国大統領に」との声も聞かれたスピッツァーだが、高級デートクラブの上客だったことがニューヨーク・タイムズで報じられた。州知事就任前の州司法長官時代、多くの売春組織を摘発したという彼の経歴が、件のスクープにつながったと見る向きもあるが……。
監督/アレックス・ギブニー 日本での公開は未定。


 2008年3月10日、ニューヨーク・タイムズ紙が、FBIによる高級デートクラブ摘発を報じた。裁判所に提出された書類によると、首都ワシントンのホテルでコールガールと会っていたクライアント(顧客)ナンバー9は、ニューヨーク州知事エリオット・スピッツァーだった。FBIは電話盗聴でその事実を確認した。

 スピッツァーはニューヨーク州の司法長官として徹底的に大企業と戦ったヒーローだった。株の違法捜査や独禁法違反を取り締まり、NYSE(ニューヨーク証券取引所)の会長すら収賄で起訴し、「ウォール街の保安官」とたたえられた。ソニーがラジオ局に払っていたペイオーラ(賄賂)を摘発して莫大な罰金を払わせたこともある。

 その勢いでスピッツァーは州知事に立候補し、史上最高の得票数で当選。腐敗しきった州政府の浄化を始め、州民の圧倒的支持を集めた。「ユダヤ系で初の大統領になるかも」とすら言われた。

 その英雄がコールガールにはまっていたとバレた。成人男女が同意の上で金銭を介在したセックスをすること自体を罰する法律はない。しかしスピッツァーは州司法長官時代にウォール街の高級コールガール組織を取り締まったことがある。「偽善者め」。州民の信頼は既に地に落ちた。スピッツァーは州知事辞任を表明した。記者会見では、スピッツァーの横に奥さんが般若の形相で立っていた。

 しかし、スピッツァーのウォール街取り締まりは正しかった。それは08年の金融崩壊で証明された。彼がその後も政治家として活躍していたら、世の中はプラスになっていたかもしれない。

「今回のスピッツァー追及は政治的陰謀だ」。クリントン大統領の選挙ブレーンだったジム・カーヴィルは、スピッツァーは敵を増やしすぎたから標的にされたのだ、と論評した。

 確かにおかしい。国家的犯罪を担当するFBIがなぜ、小さなデートクラブをわざわざ捜査したのか? 顧客の中で、なぜスピッツァーだけを盗聴し、特定したのか? そもそも誰がその書類をニューヨーク・タイムズにリークしたのか?

最終更新:2011/03/01 18:30
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