トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > その他 > サイゾーpremium  > 自殺は個人の問題ではない! 社会問題解決のため、我々がなすべきこと【前編】
荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第10回

自殺は個人の問題ではない! 社会問題解決のため、我々がなすべきこと【前編】

若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

■今回の提言
「社会からの『排除』解消に政権をもっと利用しよう!」

1103_renovation.jpg

ゲスト/清水康之[NPO法人ライフリンク代表]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から日本を変える提言をぶっ放す! 今回のゲストは、NPO法人「ライフリンク」代表として自殺問題に取り組む自殺問題に取り組む清水康之氏。13年連続で自殺者が3万人を超えるこの国で、その対策が待ったなしであることは一目瞭然。今為すべきことで、できることはなんなのだろう?



荻上 今回お招きしたのは、自殺対策支援センター「ライフリンク」の代表である清水康之さんです。先日、菅直人首相らが「一人ひとりを包摂する社会」特命チームを作り、「一人暮らし高齢者、児童虐待、不登校、DV、離婚、貧困、非正規雇用、孤独死、自殺」といった問題やその可能性を抱えた人たちが孤立しない社会を作るために邁進するという旨を発信しました。この特命チームのメンバーに、貧困問題の湯浅誠さんと並んで抜擢されたのが、清水さんでした。

 これまで、自殺の問題について国が本腰を入れて対策を考えるということはなかなか進まなかったわけですが、「無縁社会」「孤族」といったキーワードを大手メディアが積極的に報道しているように、今まで焦点が当たらなかった個人の悩みや問題行動を社会がケアすべきだという気運が高まっており、政府もようやく重い腰を上げたように映ります。排除型社会から包摂型社会へという流れは、菅直人がかねてから言っていた「最小不幸社会」という理念の延長線上にあるのでしょう。こうした動きを、清水さんはどう評価されていますか?

清水 今回の特命チームは、社会的排除に遭っている人たちへの直接的な支援をするということだけではなく、人が社会から排除されていくメカニズムをちゃんと解明して、その大元になっている問題に修正をかけていく、あるいは拡散のメカニズムを明らかにして、リスクの封じ込めを図れる社会にしていく、という問題意識で行われています。

 これまでは自殺の問題にしろ貧困の問題にしろ、虐待、高校中退、あるいは孤独死、介護疲れなど、さまざまな局面で出てきている問題がバラバラにとらえられていて、それぞれで手当てをしようというものでした。あるいは、せいぜいそこから少し踏み込んだ形の対策にしかなってなかった。それらの問題が全体としてどう重なり合っているのか、どういう因果関係を成しているのか、というところまでは分析してこなかったんですね。そもそもそれ以前に、分析できるようなデータがなかった。

 そこで特命チームでやりたいと思っているのは、まさにそうした社会問題の噴出の仕方を解明し、そこに踏み込むことです。これまではそうした時代的なニーズを市民の側が訴えてこなかったし、あるいはある程度やり過ごせるくらいの規模の問題だった。しかし、それが今はもうやり過ごせなくなっているし、メディアからの追い風もあるので、この際だからきっちりやろう、ここできっちりやらなければ、ということで、現場で活動してきた私や湯浅さんと官邸とが、一致結束して踏み出しました。水際の自殺対策だけではない、ある分野だけの解決策だけでもない、包括的な枠組みで進めていこうという特命チームの動きが可能になったのだと思います。

セクショナリズムを超える調査法の確立を

荻上 これまでの社会は、制度面でも関心面でも「社会問題のセクショナリズム」に陥っており、そのために効果的な施策に結びつかないという欠点がありました。自殺に限らず、無宿者、売春婦、非行少年など、社会が問題だと考える行為をする者の多くは、経済、家族、教育、病気など、複合的な要因の帰結としてあるわけですが、多くの場合はその表出面としての「社会問題行為」のみを取り締まるだけにとどまり、背景にある問題群に対する総合的なケアの議論は遅々として進まなかった。

 しかし気づかされるのは、別々の「社会問題行為」であっても、背景にある要因はかなり似通っているということです。そのため、「社会問題行為」を発見するためのワンストップ窓口と、関連する複数の対策組織のネットワークを作っていく。そうして「自殺対策」に限定されない、さまざまな問題に対しても、より大きな枠組みでの対策を築き上げていく必要がある。それは当然ながら、官僚組織のタテワリを打破しなくては実現しがたいことでもあるわけですね。

清水 そうです。これは行政の枠組みの中では、ある意味パンドラの箱を開けるような行為になるので、各省庁の合意を得てから進めるというのは難しい。だから官邸主導で進めていくしかない。もちろん、そこは単純に官僚を排除するのではなく、それぞれの省庁の枠にとらわれない、本当に国益のことを考えているスーパー官僚といえるような方々に協力していただきながらですが。

 我々が腹を決めているのは、「調査をやる」と決めさえすれば、おのずと調査の結果が語りだしてくれるはずだということ。今この社会で何が起きているのか、何が問題でどういう対策が必要なのかを、我々自身が訴えるんじゃなくて、徹底的に調査をして、その客観的なデータに語らせる。そうすればおのずとパンドラの箱は開いて、そこから対策は進めざるを得なくなるだろう。そういう覚悟で今やっています。

荻上 「近代看護の母」であるナイチンゲールは、統計学をふんだんに用いたことで有名です。今から約150年前、クリミア戦争の兵舎病院にて多くの死者を出す原因が、直接の傷にではなく感染症などにあることを突き止め、膨大なデータを政府に突きつけて衛生管理と予防医学の重要さを訴え、医療改革を要求しました。優れた調査は、社会問題を可視化し、早急な応答を要求する力を助けます。しかしこれまで日本では、
本当のニーズを掘り起こすための統計という力を過小評価し、必要なデータが取られずにきました。

 反貧困運動のひとつの成果に、民主党政権下における貧困率調査を復活したことが挙げられます。社会の不幸の数というのは、そのまま国政の失点にカウントすべきものですから、「これだけの不幸を放置したままでいるのか」と訴えるためのデータは最大の武器になります。清水さんが携わっておられる自殺統計もその最たる例ですね。まずはデータを取りそろえて国に直談判をし、より大きなデータを取らせて対策を迫っています。今後、清水さんはどういった活動を展開していくのでしょうか?

最終更新:2011/03/01 10:30
ページ上部へ戻る

配給映画