6,000円で映画を作る方法を教えます!斬新な”純愛ゾンビ映画”『コリン』
#映画 #インタビュー
「以前使っていた旧型のキャノンは壊れてしまって、
今はロンドンの映像博物館に収蔵されているんだ」。
映画史を塗り替えた超低予算映画『コリン』、早くも殿堂入り。
手元に6,000円あったら、あなたならどーする? キャバクラに行けば、軽くビールを飲んだだけで、あっという間に消えてしまう金額ですよ。ところが、イギリスのマーク・プライス監督は、なんと45ポンド、日本円にして約5,800円で長編映画『コリン LOVE OF THE DEAD』を完成させたのだ。低予算映画と言えば、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)が製作費600万円、『パラノーマル・アクティビティ』(07)が同135万円なので、プライス監督の『コリン』がいかに激安プライスで作られているかが分かる。しかも、『ブレア』や『パラノーマル』がフェイクドキュメンタリー形式であるのに対して、『コリン』は正統派ゾンビ映画にして、泣ける純愛ドラマでもあるのだ。何といっても、ゾンビ化した青年を主人公に現代社会の空虚さを描くというアイデアが素晴らしい。
どーすれば、6,000円足らずで、感動作ができたのかと言うと、まずコリン役の主演俳優アラステア・カートンはプライス監督とは旧知の仲で、無償での友情出演。押し寄せるゾンビの大群は、Face BookやMySpaceでエキストラを募集。みんな汚れてもいい服で現場に集まり、白塗りメイクのゾンビ役を嬉々として楽しんだそうだ。カメラは自前の中古のデジカメ。編集や音入れも自前のパソコンで仕上げている。6,000円は撮影用の小道具として必要だった”カナテコ”と、監督が使い回しの撮影テープをうっかり忘れたために新規で購入したミニDVテープ数本。それとエキストラをもてなすための紅茶とビスケット代(英国人らしいなぁ)。では、プライス監督にいかにして6,000円で”泣けるゾンビ映画”を作ることができたのか、その極意を語ってもらおう。
――6,000円でよくこれだけ高品質な劇映画が作れましたね。6,000円と言えば、かわいい女の子がいる店でビールを数杯飲んだら消えちゃう金額ですよ。
をめぐる問題は起きてないか聞いてみ
ると、「みんな、喜んでくれているよ。
大ヒットしたわけではないんで、ボク
が得た報酬はまだわずか。新機材と
次回作に回しているんだ」とのこと。
プライス あはは、確かにそうだね。まぁ、人によってはその方が有意義と感じるかもしれないよね(笑)。
――プライス監督は商業映画のスタッフを経験することなく、市販のDVDの特典映像を教科書代わりにしてきたそうですね。しかも、ピーター・ジャクソン監督のデビュー作『バッド・テイスト』(87)にインスパイアされたと聞いています。一体、あのC級SF映画のどこが参考になったんでしょうか?
プライス 『バッド・テイスト』のどこかが具体的に参考になったというわけじゃないんだ。あの作品全体からインスピレーションを受けたんだ。まぁ、要するに、とにかく友達を掻き集めて、何でもいいから撮り始めれば、映画はできちゃうもんだということだね(笑)。映画製作には意気込みが大事だってことを、あの作品からは学んだよ。もともとボクは小さい頃から映画作りに興味があったんだけど、DVDの特典のメイキング映像を見ることで、映画製作には演出部や制作部があることなど、いろんな知識を身に付けたんだ。インディペンデント映画を作る人間にとっては、DVDの登場は画期的なことだったと思うよ。
――それにしても、ゾンビを主人公にするという『コリン』の独創的なアイデアはどのようにして生まれたんでしょうか?
プライス 昔からゾンビ映画が好きで、いろいろ見ていたんだ。ザック・スナイダー監督が、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(78)をリメイクした大作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)なんかも観たよ。もちろんお金があれば、あんな大作映画を作ってみたいけど、何しろ予算がなかったからねぇ(苦笑)。それで、今までになかったような独自のアイデア、独自の視点によるゾンビ映画を作ろうと考え、その中で『コリン』のアイデアが浮かんだんだ。それから、主演のアラステア・カートンも呼んで、2人で意見を出し合いながら作り上げていったんだ。
●夜勤バイトしながら、週3日ペースでの撮影
――運送会社で夜勤のアルバイトをしながら、勤務中に脚本を書き上げたそうですね。上司から怒られるなんてことは……?
幸せに暮らしていたコリン(アラステア・カートン)
だが、親友に噛まれてゾンビ化。薄れゆく記憶
の中、廃墟となったロンドンをさまよい歩く。
(c)2008 NOWHER FAST FILM PRODUCTION
プライス 夜勤の電話番だったんだけど、基本的に夜間はお客さんから電話が掛かってくることはまずなくて、ボクともう一人いたスタッフはずっと暇だったんだ。上司からは「眠くなるだろうから、本とか持ってきて読んでいいよ」と言われたので、「本の代わりにパソコンを持ってきてもいいですか?」と聞いて「いいよ」ということだったので、深夜に脚本を書き上げることができたんだ。撮影は週3日の休みを利用して、じっくりと進めたんだよ。夜勤中は脚本だけでなく、撮影した映像の編集作業もやったよ。運送会社からお金をもらいながら、コツコツと自分の映画を作ることができたってわけさ。エンドクレジットには、スペシャルサンクスとして会社の名前をクレジットしているよ(笑)。
――創作活動に理解のある素晴らしい職場でしたね(笑)。『コリン』は完成までに18カ月要したそうですが、それだけの長期間、よくキャストやスタッフをキープできたものだと思います。
プライス スタッフといっても、ボクが撮影・演出・録音・照明・編集・音響……とほとんどひとりでやったんだ(笑)。なので、ボク以外に長期間拘束したスタッフはいないんだよ。キャストに関しては、コリン役のアラステアにはがっつりと働いてもらったけど、姉役のデイジー・エイトケンズや恋人役のタット・ウォーリーの撮影は3~5日程度で済んだからね。他のゾンビたちは撮影の度にweb上で募集して、集まってもらったんだ。なので、18カ月フルで働いたのは、ボクだけなんだよ。
――アイデアと情熱さえあれば、映画はできちゃうんですね。とは言え、撮影現場にトラブルは付き物。予算がない中で、どのようにクリアしたんでしょうか?
プライス 確かに撮影現場では、毎日のように予想外のトラブルが起きるもの。でも、その度にクリエイティブな方法で、問題を解決していったんだ。例えば、後半にコリンたちがゾンビ狩りの集団に襲われる乱闘シーンがあるけど、あのシーンでコロコロと転がる手作り爆弾が、どうも爆弾に見えないということで、火を点けようということになったんだ。でも、うまく火を点けることができなかった。そこで、最初に登場するゾンビ役のリー・クロコームは視覚効果と1人2役を請け負ってくれていたんだけれど、彼がトイレットペーパーの紙の芯を使うことで火の点く爆弾を考え出してくれたんだ。そのように、参加してくれたみんなが面白い作品を作るために、問題が起きる度にアイデアを出してくれた。ナイスなアイデアを出してくれたリー・クロコームには何かご褒美をあげようということになり、コリンが顔中血まみれになるシーンで、リー・クロコームは口いっぱいに血のりを含んで、コリンの顔にプハーッと吹きかけたんだ(笑)。
●シロップとバナナが生み出した惨劇シーン
――愉快な現場だなぁ! 作品内容についても教えてください。ゾンビになったコリンが実家で監禁され、窓の外で家族会議が行なわれているシーンは、無性に切なかったです。『コリン』には宗教の無力化、モラルや家族制度の崩壊といった現代社会の問題点が映し出されているように思います。監督にとって、ゾンビとは何かのメタファーなのでしょうか?
実家に監禁される。窓の外では家族が泣き悲しん
でいるが、コリンにはもう人間としての意識
はない。家族が壊れていく様を、コリンはただ
じっと見つめる。
プライス ヤァ、その通りだよ! 『コリン』で描いたものは、離散する一家、崩壊する家族のメタファーなんだ。そしてそれは、ボクの永遠のテーマでもあるんだ。今後もいろんな作品で、いろんな角度から、このテーマを追っていくつもりだよ。『コリン』のDVDの特典に付く短編『MIDNIGHT』も寓話的な家族を描いているんだ。現在、製作中の新作長編でも、どこか不健康で問題を抱えた家族が描かれることになるよ。
――『コリン』はフィクションドラマですが、その中には監督が現代社会に感じているリアリティーが投影されているようですね。
プライス そうなんだ、『コリン』で描かれている家族像はとても身近でリアルなものなんだ。自分の家族は幸いにも仲がよく、離散には至っていないけど、子どもの頃に友達の両親が次々と離婚して、家族がバラバラになっていく様子をすぐ近くで見てきたんだ。そのことから、自分の家族もいつかバラバラになってしまうのではないかという恐怖心を、幼いながらに抱えて育ったんだ。『コリン』にはボクの少年時代の心理が映し出されているのかもしれないね。
――では、監督にとって、映画づくりにいちばん大切なものは何か教えてください。
プライス とにかく、アイデアがいちばん! そして、しっかりとしたストーリーと豊かで奥の深いキャラクターが必要。どちらかが欠けても、いい映画にはならないんじゃないかな。いくらストーリーが面白くても、キャラクターがまるで共感できない、つまらない人間ばかりだったら、つまらない映画になってしまうからね。その逆もしかり。最終的に、その2つがそろった映画は、必ず面白い映画になるとボクは信じているよ。その2つさえクリアしていれば、どんなに安い機材でも、中古のカメラでも、まったく問題ないんじゃないかな。
――血のりは必需品じゃない?
プライス あはは、血のりもあれば、越したことはないよね(笑)。でも『コリン』は見た人が感じているほど、大量の血のりは使ってないんだよ。血みどろのグロテスクなシーンが多いように感じるかもしれないけど、音響効果でうまくごまかしているんだ(笑)。血のりも、すべて手づくりだよ。血のりの主成分は、合成着色料やシロップ。血にもっとトロトロした質感を出したいときは、血のりの中に剥いたバナナをぐちゃぐちゃにして混ぜて、思いっきり壁にぶつければOK。うまく血や内蔵が飛び出したシーンを撮ることができたんだ(笑)。
――血の惨劇シーンは、シロップとバナナで作られたんですねぇ。『コリン』に触発されて、「自分も映画を」と思うユーザーは少なくないと思います。最後にひと言、メッセージを。
プライス ボクの映画を見て「自分も何か作りたい」と思ってもらえることが、サイコーにうれしいことだね。ぜひ、日本の若者にも『コリン』を見て、刺激を受けてほしいな。テクノロジーに関しては、今の時代は最も恵まれた環境にあると思うよ。それこそ、今は携帯電話でHDのハイデフニション映像が撮れる時代。友達を呼び出せば、すぐにでも映画を撮ることができるってわけ。ボクの次回作は『THUNDER CHILD』という第二次世界大戦を舞台にしたホラー映画なんだけど、予算を集めるために時間が少しばかり掛かっているところ。でも、ただ待っているだけではつまらないので、『コリン』の配給報酬で購入したキヤノンの7Dで別の新作を作っているんだ。機材が高かった昔と違って、今はもう言い訳はできない時代。映画を作りたい人は、今すぐ始めましょう!
(取材・文=長野辰次)
『コリン LOVE OF THE DEAD』
製作・監督・脚本・撮影・編集・録音/マーク・プライス
特殊メイクアップ効果/ミシェル・ウェッブ
視覚効果/リー・クロコーム、ジャスティン・ヘイルズ
出演/アラステア・カートン、デイジー・エイトケンズ、タット・ウォーリー、リアンヌ・ペイメン、ケイト・エルダーマン、ケリー・オーウェン、リー・クロコーム、ジャスティン・ミッチェルーデイヴィ
配給/エデン
3月5日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開 2月26日(土)~3月4日(金)には〈東京国際ゾンビ映画祭2011〉も開催
<http://www.colinmovie.jp>
●マーク・プライス監督
1979年イギリスのサウス・ウェールズ生まれ。9歳の夏にスティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(75)を観て、夏休み中ずっとビデオを見続けて、すべての映像・台詞・効果音を丸暗記した。90年代前半、ピーター・ジャクソン監督のデビュー作『バッド・テイスト』(87)のメイキング映像『グッド・テイスト~メイド・バッド・テイスト』を観て、映画製作の決意を固める。2001年にスォンジー大学に入学し、CD-ROMのオーサリング、ウェブ・デザイン、3Dアニメーション、映像や音楽制作に関する基礎を学ぶ。04年にロンドンで上演された舞台『BASH』の舞台用映像を手掛け、俳優アラステア・カートンと出会う。マークが監督した短編『MIDNIGHT』(05)にアラステアは主演。さらにマークが運送会社の夜勤中に脚本を書き上げた『コリン』にも無償で主演した。その後、短編『THE END…』(10)を発表。現在は『コリン』同様に夜勤中に脚本を書き進めた、第二次世界大戦を舞台にしたホラー『THUNDER CHILD』を製作中。こちらにもアラステは主要な役で出演。ハリウッドほか海外から作品のオファーが殺到している。
怖かったな。
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