巨匠の新作はソフトSM!? 『ヒア アフター』の隠れた名場面
#映画 #洋画
西部劇や刑事アクションの主演でトップスターの座を確立、監督業を兼ねるようになってからは年を追うごとにヒューマンドラマへシフトしてきたクリント・イーストウッド。『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』でアカデミー賞に2度輝いた巨匠が、最新監督作『ヒア アフター(ワーナー・ブラザース映画配給、2月19日公開)で”死後の世界”にとらわれた人々を扱うと聞けば、意外に思うだろうか。だが本作は、オカルトホラーでも宗教モノでもなく、登場人物らが現実の世界で苦悩する姿を描く切実な人間劇だ。
パリでジャーナリストとして活躍するマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、休暇で訪れていたタイのビーチリゾートで津波に遭遇し、一時的に呼吸が停止する臨死状態に。その際に見た不思議なビジョンが帰国後も気になり、報道番組出演の仕事を休むことになったのを機に、臨死体験についての本を書き始める。
サンフランシスコ在住のジョージ(マット・デイモン)は元霊能者で、手を触れた相手の身近な故人と対話できる。だが、普通の人付き合いの妨げになることから自己の能力を忌み嫌い、過去を隠して工場で働いている。料理教室で知り合ったメラニー(ブライス・ダラス・ハワード)と親しくなりかけるものの、彼女に請われ能力を使ったことで関係は破局。自分を霊能者として復帰させ金儲けしようと企む兄から距離を置くため、ロンドンへ旅に出る。
一方ロンドンでは、小学生のマーカスが双子の兄を交通事故で亡くし、薬物依存の母親から離されて里親に預けられる。いつも支え合っていた兄とまた話したいと願い、霊能者を探し求めて徒労を重ねた末、ジョージの古いウェブサイトを見つける。
マリーは書き上げた本をPRするため、ロンドンのブックフェアに参加。ジョージもディケンズの朗読イベントを聴きに、またマーカスも里親に連れられて、それぞれブックフェアを訪れる。現実との折り合いに苦しむ3人の人生が交錯し、転機が訪れようとしていた。
本作の映像的な見どころはまず、冒頭のリゾート地を襲う津波のシーン。大波がビーチの行楽客を飲み込み、市街を襲う激流が建物を次々に破壊していく様を、押し流される者の視点でとらえた実写と、質の高いCGを巧みに組み合わせて描き出した。イーストウッド作品には珍しい派手なディザスター場面だが、製作総指揮がスティーブン・スピルバーグと聞けば納得だ。
もう1つ、特に男性にオススメの”隠れた名場面”は、料理教室でブライス・ダラス・ハワードが目隠しをされ、口に入れられる食材を言い当てる一連のシーン。香りをかぐ鼻、味わう舌や歯、唇が特大アップになり、これらのパーツが目隠しによって一層強調され、ソフトSMを思わせる倒錯した性的魅力さえ漂う。
実を言うと、物語の重点は死後の世界そのものよりも、主要人物3人がそれぞれ抱える悩み、周囲の無理解だとか、大切な人との別れといった、誰もが普通に経験する人生の問題に置かれている。だからこそ本作は、誰にも訪れ得る理不尽な暴力や死と隣り合わせの「生」が、たとえ孤独や苦悩を伴ってもやはり愛おしく貴重なものだと、静かな感動と共感とともに改めて思い出させてくれるのだろう。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
「ヒア アフター」作品情報
<http://eiga.com/movie/55325/>
まさかのこの価格!
【関連記事】
巨匠イーストウッド監督の異色作! ”あの世”はあるか?『ヒア アフター』
ビターな味わいが広がるスイーツムービー『洋菓子店コアンドル』
キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の”涙拳”が炸裂『KG』
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事