男子だって着せ替えしたいんです、プロテクターを! 「聖闘士聖衣大系」今昔物語
#サブカルチャー #聖闘士星矢 #バック・トゥ・ザ・80'S
アナログとデジタルの過渡期であった1980年代。WiiもPS3もなかったけれど、ジャンクでチープなおもちゃがあふれていた。足りない技術を想像力で補い、夢中になって集めた「キン消し」「ミニ四駆」「ビックリマンシール」……。なつかしいおもちゃたちの現在の姿を探る!
1980年代後半、日本の男子向け玩具の概念を一変させたホビーが存在した。その名は「聖闘士聖衣大系(セイントクロスシリーズ。以下、大系)」。後に多くのフォロワーを生み出し、いわゆる「クロス系フィギュア」ブームの火付け役となった画期的なフィギュアのシリーズである。今回の「バック・トゥ・ザ・80’s」は、「大系」、そして「クロス系フィギュア」を振り返ってみよう。
■男子向け玩具の歴史を変えた「聖闘士聖衣大系」
まずは「大系」について解説しよう。シリーズ名を見た時点で気づいた人も多いかもしれないが、これは1986年に原作漫画が「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載開始、同年テレビ朝日系列でアニメ放送がスタートした大ヒット作『聖闘士星矢(セイント・セイヤ)』の、バンダイから発売されたキャラクター・フィギュアのシリーズである。
女神アテナを守り、地上の平和を守るために戦うという少年たちのバトルを描いた本作は、主人公・星矢たちの熱い戦いぶりや多くの魅力的なキャラクター。そして、神話をモチーフとしたロマン溢れる設定が、男子から大きなお姉さんのハートをがっちりキャッチ! スタートと同時に大きな話題を呼んでいた。
聖衣。未装着状態だが、「神話」版との違い
は一目瞭然。
というわけで、まだアニメが子ども向け玩具の販促番組として成立していた時代ということもあり、主人公・星矢たちのフィギュアが発売されるのは当然の流れだと言える。しかし、「大系」が凡百のキャラクター・フィギュアと一線を画していたのは、「聖衣(クロス)」というプロテクターが着脱可能な上に、それが星座や神話上のキャラクターをモチーフにしたオブジェに変形するという点だろう。
さまざまな意匠のオブジェがバラバラのパーツに分割し、キャラクターに装着されるという、それまでにないギミックを搭載した「大系」は、当時の男子に空前のヒットを記録したのだ。
その勢いを物語るエピソードとして、主人公たちの敵キャラとして登場した「暗黒聖闘士」もすさまじい勢いで売れた、というものがある。
物語序盤に登場した「暗黒聖闘士」は、姿形は主人公達と同じではあるものの、聖衣は真っ黒というダーティなルックスの日陰者。発売元のバンダイも、「まさか売れるまい」と数量限定で発売したところ、これが飛ぶように売れたというから、どれだけ当時の子どもたちが「大系」を欲していたかが分かるだろう(ちなみに筆者が初めて買ってもらったのも「暗黒聖闘士」のペガサスだった)。
『鎧伝サムライトルーパー』の玩具。こちら
も多くのシリーズが発売された。
以降、白銀聖闘士、全身金ピカのド派手な黄金聖闘士、アニメオリジナルキャラの鋼鉄聖闘士や神闘士をはじめ、テレビシリーズ最後の敵となった海闘士と多くのキャラクターが商品化され、そのいずれも好調なセールスを記録。
87年には、黄金聖闘士の「サジタリアスクロス」が男子向け玩具最大のヒットという快挙を達成した。
「当時、『サジタリアスクロス』はすさまじい人気があり、何度も再生産されました。その度に少しずつパッケージなどのデザインが変更されています。また、生産を請け負っていた下町の工場によっても製品に微妙な違いがあったようですね」
そう語るのは、漫画から玩具、ゲームなどサブカルチャーに関するアイテムを数多く取り扱う「まんだらけ」の店員T氏だ。
そんな「大系」だが、「クロス系フィギュア」という新ジャンルを開拓すると同時に、男子向け玩具の常識を大きく覆す実績も残している。
「それまで男子向け玩具では、主人公は赤色というルールがあったのですが、『聖闘士星矢』の星矢は服こそ赤色ですが、聖衣は白色です。にも関わらず、ヒットを飛ばしました。そして金一色の黄金聖衣も、当時としては異色の玩具ですが、これも大ヒット。『暗黒聖衣が売れたことから、敵役でも魅力的なら売れる』と判断した当時のバンダイの先見の明の賜物ですね」(「大系」コレクターA氏)
ただ売れただけではなく、売れる玩具の常識すらも塗り替えた「大系」は、名実ともに時代を変えたホビーだったのだ。
人気キャラ・ヘッドロココがアンドロココの
クロスを装着して変身!
■続々誕生したクロス系フィギュア
空前の大ブームが起こると、二匹目のどじょうを狙うフォロワーが次々と誕生するのが世の常である。
もちろん『聖闘士星矢』に続けとばかりに、「聖衣」っぽいプロテクターを着けたヒーローが80年代末から90年代初頭にかけて大量に生まれた。
戦国武将チックなプロテクターを装着する和風アクション『鎧伝サムライトルーパー』、SFチックな洗練されたデザインがクールな『超音戦士ボーグマン』、インド神話をモチーフにしたプロテクターがミニ四駆のように走る『天空戦記シュラト』など、雨後の筍のように「クロス系」アニメが誕生。それに伴い、クロス系フィギュアも続々と発売された。
また、「大系」を世に放ったバンダイも、「中の人」にプロテクターを装着させる仮面ライダーのフィギュアや、アムロやカミーユといった『ガンダム』のキャラクターにプロテクターを装着させてSDガンダムにしてしまう「ガンダムクロス」という異形のフィギュアを発売。
さらにはゲームでおなじみのエニックス(現スクウェア・エニックス)からも、『ドラゴンクエスト』の主人公にロトの鎧などの装備を装着させる「伝説の鎧」シリーズなる玩具も発売され、80年代末から90年代序盤は「クロス系フィギュア」百花繚乱の時代であった(ちなみに、リアルタイプのガンダムにクロスを装着させる「リアルガンダムクロス」なんてブツも存在している)。
黄金聖衣が勢揃い。当時の玩具業界を代表
するヒット商品となった。
しかし、やはり「クロス」の魅力はプロテクターとして装着したときのカッコよさと、オブジェ形態の美しさであり、それらが両立するところにこそある、と筆者は言いたい。
確かにフォロワーの「クロス系フィギュア」は、技術の向上などもありプロテクター形態の完成度は眼を見張る物も多くあるが、一方のオブジェ形態については二の次のような印象を受けてしまう。中には、オブジェ形態そのものが存在しないアイテムもあったりして、やはり両者のクオリティを保っていた元祖「クロス系フィギュア」である「大系」の完成度は群を抜いていたと再認識させられるばかりだ。
「多くのフォロワー的作品が生まれて、クロス系フィギュアも数多く誕生しましたが、やはり『大系』以上の美しさと完成度、そして人気を得た商品はありませんでした。さすが元祖といったところでしょうか」
先述のまんだらけ店員T氏もこのように語る。
『特捜エクシードラフト』の「トライジャケッ
ト」シリーズ。思い切りコストダウンされた
構成になっており、全体的に残念な感じ。
また、日本と同じくらい『聖闘士聖衣』の人気が高い海外では、なんと04年まで「大系」の新作が作られ続けていたというから驚きだ。
「日本国内で、『聖闘士星矢』に関する新作商品の発表会などがあれば、今でも海外から多くのファンが訪れています」(まんだらけ店員T氏)
かつて庶民の娯楽に過ぎなかった浮世絵が海外に紹介された際に西洋の芸術へ多大な影響を与えたように、今やクロス系フィギュアもまた世界中の玩具コレクターやアニメファンに影響を与える世界的なアイテムとして定着した……というのは言い過ぎだろうか。
■そして神話へ……
さて、その後の「大系」についても追いかけてみよう。90年代に入り、テレビアニメの放送終了に伴い「大系」は一旦終了。それから時を置かずに一世を風靡した「クロス系フィギュア」ブームも沈静化する。
しかし、そのクオリティの高さから「大系」は、オークションなどにおいて高額で取引させる人気アイテムとして流通し続けることとなる。
そして、01年にはバンダイから12体の黄金聖衣が復刻販売。その反響の大きさからアニメの復活、そして新たな「クロス系フィギュア」シリーズとして「聖闘士聖衣神話(セイントクロスマイス)」が03年よりスタートすることとなった。
10年以上の時を経て復活した新シリーズは、当時ファンだった若い世代のスタッフが多く参加し、ファン心理をビシビシとついてくる痒いところに手の届くアイテムを続々リリース。現在も新作が発売される人気シリーズとなっている。
ちなみにもっとも売れたのは、「大系」と同じくサジタリアスの聖衣らしい。
また『聖闘士星矢』以外にも、バンダイは『鎧伝サムライトルーパー』や『仮面ライダー』シリーズのクロス系フィギュアを発売している。その血統は現在も脈々と受け継がれているのだ。
まで発売された「変身装着」シリーズ。平成
ライダー以外にも、昭和ライダーや宇宙刑事
シリーズなども扱った渋いシリーズ。
なおクロス系フィギュアの元祖「大系」だが、つい最近まで香港バンダイより新作が発売され続けていたというのは先述の通り。
「『聖闘士星矢』の人気は海外でも高く、また香港は日本と同じくらい玩具市場が成熟しているということで、わざわざ日本から金型を持ち出して現地スタッフで新作を生産したようです」(先述のまんだらけ店員T氏)
クオリティそのものは日本国内で生産された過去の商品と比べるとちょっぴり残念な点もあったりするが、80年代に発売されたフィギュアをベースに、最新の技術を惜しみなくつぎ込んでいる現代の「大系」には、ロートル車に最新のモーターを搭載した改造車的な味わいが感じられる。
現在は海外でも「聖闘士聖衣神話」が人気の主流となっている模様だが、80年代ハンター的には今後の「大系」の展開も気になるところである。
(取材・文=有田シュン)
※取材協力:まんだらけコンプレックス
< http://www.mandarake.co.jp/shop/index_cmp.html>
パーフェクトブック。
●【バック・トゥ・ザ・80’S】バックナンバー
【Vol.4】学校で唯一読めたコミック! 『エスパークス』今昔物語
【Vol.3】ゲームの可能性を広げた80年代のミッキーマウス 「パックマン」今昔物語
【Vol.2】世代を超えて愛される地上最速ホビー「ミニ四駆」今昔物語
【Vol.1】手のひらに広がる大冒険!「ゲームブック」今昔物語
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