Kダブシャインさんの至言「宇多丸は、Kダブをシャインさせない」(後編)
#インタビュー #対談 #サブカルチャー #小明 #大人よ教えて!
■前編はこちらから
──そ、それはそれでトラウマ! あと、よくテレビや雑誌で「親に殴られて育つと、子どももそういう大人になる」みたいに言われるのが大嫌いで。医学的、科学的に証明されてるのかもしれないし、確かにそういう負のスパイラルがあるのは分かるけど、「お前はもう既に失敗したレールの上を歩いていて、もうずっとその上を歩くしかないんだ」って言われてる気がして、すっごい悔しいんです。
K それは変えられるし、親だって人間だしさ。それこそ親が俺たちを育ててる頃なんて、今の俺たちと同い年ぐらいだったりするわけだから、幼いわけじゃん? 自制心なんて利かない部分はいっぱいあるわけだから、それが分かってると、許せるというか、理解できるようになるし。
──もちろん許すし、理解してるつもりでいるけど、たまに「虐待された子どもはどうせ~」とか「片親は~」みたいに言う人がいると、人のことでもすごく腹が立ってしまう。なんで自分の人生を創ろうと頑張ってる人に、上からわざわざ「不幸!」ってレッテルを貼りたがるんだろう。「なんだよ! 不幸にならなきゃいけないのかよ!」って、すごくムカつくんです。
K 俺は鈍感だったのか、人からそういう陰口みたいなのがあっても、全然気になんなかったんだと思う。例えば「あそこは家がちゃんとしてない」とか「親が片親で~」とか「躾がちゃんとできてない」って言われても、「お前らに何が分かるんだ?」って思ってたし。親も、俺に対してはちょっと狂ったようなところもあって……。例えば俺が問題を起こして、外で怒られたり苦情が来たりすると、「恥ずかしい。恥ずかしくて近所歩けない。あんた殺して私も死ぬ!」って、何年も日常的に言われ続けてたから、最後は「殺されてたまるか!」ってなってたもんね。「寝てるうちに殺してやる」ってよく言われたから、「寝るのこえーな……」と思いながら、寝ちゃうんだよね、中学生だから。で、起きると殺されてなくて、「なんだよ、本気じゃねえじゃん」って。
──お母さんもいろいろ追い詰められてたんでしょうけど、病弱で死ぬか生きるかの幼少期を経て、またスリリングな思春期を過ごされましたね……。ちなみに、幼少期はどういう病気だったんですか?
K 腎臓が悪くて、それが合併症を起こして、みたいな。もともと未熟児で生まれてきちゃったから体力もなくて、負のスパイラルが重なって病気になってたんだけど、医学の力と俺の生命力で、小学校2年生くらいにはもう何にも病気しなくなった。おかげで自分の力を過信して、だいぶ悪さはしましたけどね。死ななかったから楽しまなきゃって(笑)。
──楽しみすぎです! アメリカに留学したのはいつですか?
K 高一の終わりくらい。
──そんな早くから? KKKとかがいた場所に留学したんですよね? なんだってまたそんな治安の悪い場所に……。
K だってまあ、こっちに居場所がない感じになっちゃって。
──寝てる間に殺されるから?
K そう(笑)。いや、家も親も好きだったけど、ずっと一緒に住んでるのが窮屈だったし。国内で学校行きながら一人暮らしは無理そうでも、「海外に行きたいんだ」って言えば、なんとか脱出できるかなって思って。なんとなくこの場所も飽きたかな~って感じで、行っちゃいました。
──8年もアメリカにいたんですよね。8年って相当じゃないですか。なのに会話にもラップにも全然英語を入れないですよね。長く英語圏にいた人って、ちょいちょい会話の途中で流暢な横文字が出たりするじゃないですか。
K あれは、あんまり良くないと思う。その人たち同士のコミュニケーションがそれで円滑にいくならいいけど、日本語として表記したときに、あんまりカッコよく見えないなと思って。ちっちゃいころからずっと外国にいて、本当に”ちゃんぽん”でしかしゃべれない人もいるけど、そういうの、なんかこう言葉として物足りないというか、未熟。一貫性がないから。だったら、英語を外来語として日本語に変化させて日本語の中に入れてればいいんだけど、途中から英語になって、また日本語になって……っていうのは、俺は言語として破綻してるって思うのね。
──英語が入ってると、「その単語なんて意味だっけ?」とか「あれ? 今のは日本語? 英語?」って混ざっちゃって、聴いてるだけだとちんぷんかんぷんになったりします……。
K インター出身の人たちが話してると、ただ頭の中で訳すのがめんどくさいから、使いやすい言葉を記号のように混ぜて使ってるんだなって思うけど、日本語ラップとか、音楽業界で英語の歌詞を混ぜてる人って、たぶん9割が英会話自体できないし、ヒアリングもそんなできないと思うのね。俺の分析だと、洋楽って、曲中の1.5割くらい英語の殺し文句みたいなのが入ってて、そこがタイトルだったり分かりやすい言葉だったりするでしょ? そこだけなんとなく頭に入ってるから、自分の曲でも1.5割くらい英語のフレーズを入れて、日本語の部分の発音を曖昧にして、なんとなく曖昧にさせてカッコいいと思ってるんじゃないかな。
――おお、すごい。納得しました。
K でしょ? だから英語のヒアリングができない人でもそこそこ分かる「アイガッチャ」とかをピックアップして、自分の歌詞にも入れてるんじゃないかなって。聴いてると、たぶん本当にそんな感じなんですよね。だから、ちょっと英語が分かる立場から英語のラップと、日英のちゃんぽんのラップを聴くのとじゃ、もう言葉としても、英語のほうが断然聴きやすいし、日本語と英語と混ぜてんのに何にもなってないっていうのが、正直、「ダセーな」って思う。で、こうやって正直なこと言うと、みんなに嫌われる(笑)。
──あはは! でも、そのせいかKダブさんのラップはかなり聴きやすくって頭にすっと入ります! 『それでも生きる子どもたちへ』のテーマソングだった『ソンはしないから聞いときな』の歌詞で、「なんだってやれる」「なんだってなれる」って、Kダブさんが言うじゃないですか。あれを聴いて、私は子どもの時から「どうせ……どうせ……」って性格だったから、いろんなことにチャレンジしないまま、こうして歳を取っていって、一つ一つ道が消えてって、私は今まで何をしてたわけ? って、情けなくて涙が出そうに……。
K あれは大人に向けてる歌じゃないからね(笑)。大人にはたぶん、もっと現実とか真実とかを突きつけなきゃいけないんだけど、子どもたちが今の世の中を見たら、おそらく俺が子どもの頃よりもよっぽど不安が多いんじゃないかなって。実際、景気とか雇用とか、どんどん道は狭まってるわけだし。でも、それを「そういうもんだから」って言って諦めちゃったら、子どもは子どもらしくなくなっちゃう。皆がやりたいことをやれてるわけじゃないけど、本気で信じて貫いてきた人は、やれてることもいっぱいあるじゃない? 全員は無理だと思うけど、ある程度は叶う。大人たちが子どもに対して無関心になってきた今の時代、子どもたちにはそれくらいの”おまじない”は必要かなって。子どものうちから斜に構えて、「やったってどうせ何もうまくいかねえよ」ってなったら、それこそ愚連隊みたいになっちゃうよ。
──愚連隊とまではいかずとも、なんだか残念な大人になってしまいました……。私の場合、もう子どもとか親とかを守らなきゃいけない歳なのに、まだこうして誰かに「助けてー!」みたいなことを言ってばかりで、もう自己嫌悪で「うわああああ!」ってなりますわー。
K みんなそうだと思うよ。俺もそうだし。でも、心無い大人が多いから、そいつらが何もしないんだったら、口で言えることだけは言おうかなって。俺、来年のテーマがたぶん「親孝行」になると思うんだけど、どうやれば親孝行ができるんだろう。残りの短いタイムリミットの中で。
──親孝行、難しいですよねぇ。一人っ子ですか?
K 一人っ子。
──荷が重いですな! うちは姉が先に子どもを作ってくれたし、母も父が亡くなって故郷に戻るので、孫に関してのプレッシャーからはかなり逃れました!
K 階段から落とされたお父さん亡くなったの? ……「私にも一回つき落とさせて!」って、小明の恨みが!!
――普通に寿命ですよ!!
K あはは。でも、次女だからいいよね。俺はひとり息子だし、俺には全然安心してないから、ちょっと景気が悪くなると、「あんた大丈夫なの? 続けていけんの?」って言われるから、嫁もらって、子ども作って、おばあちゃんにっていう感じにしてあげたいけどねぇ。
──子ども好きだし、結婚の予定はないんですか?
K うーん、しようとしても、女の子に途中下車されちゃうみたいな。したいですけどね。宇多丸とどっちが先かな。(※宇多丸さんは2011年2月10日に入籍を発表しました)
──宇多丸さんはラジオで彼女や同棲の話もオープンにしてて、若干リーチかかってる気がしますね。
K ね。俺ちょっと今度言ってやろうかと思って。女ができて芸風が変わってきたっていうのが最近の俺の不満で。女できて、地上波も出てるでしょ?
──『1924』(フジテレビ)、見てますよ! 宇多丸さん、自然に司会されてますよね。
K ちょっとリセットし始めてるんだよね。地上波向けというか、マス向けの自分を。
──『ウィークエンド・シャッフル』(TBSラジオ)もギャラクシー賞取りましたしね。
K あの辺りからねぇ、ちょっとねぇ?
──あはは! これからも仲良く頑張ってください! 今日はありがとうございました!
(取材・構成=小明)
●Kダブ・シャイン(けーだぶしゃいん)
1968年、東京都生まれ。93年に友人だったZEEBRAらと共にラップグループ「キングギドラ」を結成し、95年にデビュー。96年からはソロ活動も活発に行っている。近譜は2枚目となるベストアルバム『自主規制』(ワーナーミュージック・ジャパン)。
●小明(あかり)
1985年栃木県生まれ。02年史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)、DVD『小明の感じる仏像』(エースデュース)発売中。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
サイゾーテレビ<http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120>にて生トーク番組『小明の副作用』(隔週木曜)出演中
最強のメッセージソング集。
●小明の「大人よ、教えて!」”逆”人生相談バックナンバー
【第20回】 楳図かずおさんの至言「世界を相手にやっている人は、友達作っちゃうと危ない!」(前編)
【第19回】 キングオブコメディさんの至言「いつ辞めてもいいから、続けられるんです」
【第18回】 バカリズムさんの至言「モヤモヤは、そのまま持ち帰って立ち向かいます」
【第17回】 島田秀平さんの至言「小明さんの手相にはアブノーマル線があるんです」
【第16回】 小森純さんの至言「写真のチェックとか、自分では一切しないんです」
【第15回】 堀江貴文さんの至言「もうメジャー路線っていうものは存在しないかもしれない」
【第14回】 稲川淳二さんの至言「自分の子どもを殺そうか、と思った自分が一番怖かった」
【第13回】 蝶野正洋さんの至言「自分の役割の中で、最大限に光らなきゃならない」
【第12回】 有野晋哉さんの至言「アイドルは『育ちがええねんなー』っていうのが大事です」
【第11回】 鳥居みゆきさんの至言「やりたくないこと、やらないだろうな、ってことをやるの」
【第10回】 宇多丸さんの至言「人にはだいたい『ちょうどいい』ところがあるんです」
【第9回】 桜木ピロコさんの至言「あたしいつもだいたいいやらしいことしてるもん!」
【第8回】 伊集院光さんの至言「結局、うんこを食うしかない状況になるんです」
【第7回】 ルー大柴さんの至言「ライフっていうのはマウンテンありバレーありです」
【第6回】 大堀恵さんの至言「私、いつも『アンチ上等』って思ってるんです」
【第5回】 品川祐さんの至言「なったらいいなと思ってることは、だいたい実現する」
【第4回】 福本伸行さんの至言「俺は『面白いものを作ろう』じゃなくて、作れちゃう」
【第3回】 大根仁さんの至言「ネットの書き込みなんて、バカにしていいんじゃない?」
【第2回】 杉作J太郎さんの至言「そんなことより『ファフナー』見ろ、『ファフナー』を」
【第1回】 河原雅彦さんの至言「もう無理やりヤラれちゃえばいいんじゃない?」
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事