オアシズ それぞれにブスを昇華した「現実と空想のアンサンブル」
#お笑い #M-1 #大久保佳代子 #ラリー遠田 #オアシズ #光浦靖子
1月27日放送の『アメトーーク』(テレビ朝日)では、「39(サンキュー)オアシズ姐さん」という企画が放送されていた。森三中、北陽、いとうあさこ、椿鬼奴という女芸人たちが集まり、普段から世話になっているオアシズの2人を囲んで、トークを展開していた。
かつてはテレビの世界でも希少生物だった「女芸人」という存在は、今ではさほど珍しいものではなくなった。なぜそうなったかと言えば、テレビの中の女芸人がいつのまにか道化であることを脱却して、単なる一般人女性の代表になったからだ。彼女たちは、自らの身体的欠陥や女性的な性格を誇張することをやめて、普通の女性にとって身近な存在となることで、存在意義を獲得した。
そんな時代の転換点を生き抜いてきたのが、オアシズの光浦靖子と大久保佳代子だ。彼女たちは、一種の「ブスキャラ」として頭角を現して、それ以降はブスキャラにつきまとうキワモノ感を少しずつ脱臭させていくことで、テレビの中で一定の居場所を確保することができるようになった。ただ、彼女たちが現在の地位を築くためにやってきたことの内容は、光浦と大久保で180度異なっている。
光浦は、ブスであるという自覚と、自分がお笑いを貫くことも「いい女」を気取ることもできない、という大いなる断念を胸に抱きながら、鋭い分析力と観察眼を生かして、皮肉と批評と自己嫌悪を己の芸にまで昇華させた。いわば、光浦は、事実をまっすぐ見つめるリアリスト。前述の『アメトーーク』の中でも、光浦が語った将来の夢は、「お嫁さん」や「司会者」などではなく、自身の趣味を生かした「手芸の先生」だった。地に足を付けて、一歩一歩進んできた彼女の現実主義がそこにある。
一方、大久保は、光浦とは対照的に、恐るべき夢想家で、型に囚われない自然体の持ち主。一時はOLと芸人の二足のわらじを履いていた彼女は、OLとしての感覚をそのままに、手ぶらでテレビの舞台に上がっているようなところがある。あまり声を張らず、積極的にしゃべらず、淡々と「そこら辺にいるオバサン」のように思ったことをそのまま口にする。そのマイペースぶりは、芸人同士が必死で前に出ようとするテレビバラエティの世界では、ひときわ異様なものに映る。
『アメトーーク』では、コンビ結成当初、光浦が大久保に彼氏を奪われたという衝撃のエピソードを涙ながらに告白していた。光浦はいまだにそのときのショックを引きずっているのに、隣に座る大久保は一切動揺するそぶりを見せず、「そのときは性欲が異常にあったから」と、ケロッとしていた。徹底して無感情で、ポジティブでもネガティブでもない大久保の言動は、見る者を「笑うしかない」という思考の崖っぷちに追い詰める。これは、彼女にしかできない反則すれすれの名人芸だ。
オアシズの2人が特別だったのは、「女芸人はナメられる」「たとえ笑いを取っても、それでモテるようにはならない」という事実を冷静に把握した上で、そのことを「めんどくさい」と思う気持ちをそれぞれのやり方で素直に表現していたということだ。だから、光浦や大久保は、芸人という立場でありながら、テレビに出てもあまりガツガツすることもなく、自分たちがいわゆる「芸人」のカテゴリーに属することを全面的に受け入れてはいないようなところがある。
地を見つめる光浦と、天を仰ぐ大久保。現実主義者と空想主義者の奇妙な腐れ縁。お笑い界という不思議の国に迷い込んだ2人のアリスの冒険は、まだまだ終わらない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
ふたりはなかよし。
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