『R-1ぐらんぷり2011』覇者・佐久間一行が”信じきったもの”とは
#お笑い #R-1ぐらんぷり #ラリー遠田
2月11日、ピン芸日本一を決める「R-1ぐらんぷり2011」の決勝戦が行われた。8名の芸人によって争われた決勝を勝ち抜いて、見事に優勝を果たしたのは佐久間一行。「ほんわか王子」の異名を持つさわやかな笑顔と明るいキャラクターが売りの佐久間が、過去最多となる3,572名の出場者の頂点に立った。
今回のR-1決勝は、今までとは違う新しいシステムが導入されていた。最初に全員がネタを演じて採点されるという形ではなく、トーナメント形式で一対一の戦いを続けて優勝者を決める、という形に変更されていたのだ。つまり、決勝で優勝するには、3本のネタを仕上げていかなくてはならない、ということになる。
佐久間が勝利した理由は、このルール変更を踏まえて、優勝するための作戦を緻密に構築したことにあると思う。それは具体的にはどういうことだったのか、ポイントは2つある。
第一に、3本それぞれ違った形のネタを用意してきた、ということ。一般に、お笑いの賞レースで2本以上のネタを演じなくてはいけないとき、それは消耗戦の様相を呈することになる。1本の自信作を何とかひねり出すことはできても、2本作るのはそう簡単ではない。ましてや、3本となるとますます至難の業だ。
2~3本立て続けに同じ芸人のネタを見せられると、どうしても見る側の集中力は下がり、笑いの量も減っていってしまう。それを極力防ぐためには、ネタの形式を変えて、飽きさせないようにするしかない。佐久間は、それぞれ毛色の違ったネタを3本演じたことで、決勝の2戦目、3戦目を順調に勝ち上がることができた。
第二に、3本のネタを演じる順番にこだわった、ということだ。3本のネタをどう組み立てるかということについては、いろんな考え方がある。基本的には、トーナメント形式だと一度負けてしまえば終わりなのだから、自信のあるネタはなるべく早めにぶつけておくべきだ、ということは言える。恐らく、佐久間もそれを考えて、1本目に自信作である「井戸」を持ってきたのだろう。
ただ、そこには恐らく、もう1つ別の狙いもあった。それは、あえて1本目に変則的なネタを見せることで、次のネタへの期待感を煽る、ということだ。彼は、ピン芸のセオリーを覆すような変わった形のネタをあえて最初に演じることで、「佐久間一行」という芸人の存在を強烈に印象付けて、興味を引こうとしたのだ。
それは、野球の投手が、最後に決め球で打ち取るために、初球に見せ球を投げるようなもの。または、ミステリー作家が、最後の謎解きを鮮やかに見せるために、序盤に伏線を張るようなものだ。
実際、佐久間が選んだその作戦は、決勝の戦いが進むにつれて少しずつ効果を現してきた。彼は、1戦目を「井戸」の不可思議なネタで勝ち抜いたのち、2戦目にも違った形の独創的なネタを持ってきた。日本語をしゃべらないインディアンが、フリップを使って自分なりのあるあるネタを披露する、というもの。これはこれで、「フリップネタ」「あるあるネタ」「インチキ外国語ネタ」という、定番のフォーマットを無理矢理3つ組み合わせてまとめたような、趣向を凝らしたネタだった。
佐久間が2戦目を勝ち抜いたとき、恐らく視聴者や観客の多くは、佐久間が優勝するのではないかという予感を感じ取っていたことだろう。彼の3戦目の相手となったAMEMIYAは、それまでの2戦で同じような形の歌ネタを披露。着実に笑いは取っていたが、3戦目もそのパターンで来るだろうということが誰の目にも見えていた。
だが、佐久間の3本目は、見えなかった。そして、それに対する見る側の期待はいい意味で高まっていた。佐久間だけは、3本目にどんなネタをやってくるのかわからない。だから、わくわくしてそれを待とう。多くの人がそんな気分で彼のネタを見守っていたに違いない。
満を持して披露されたのは「中学校の休み時間」。幼虫の手触りを恐れる男子中学生が、そのことだけでひたすら想像を膨らませていく、というもの。それは、彼にしかできない斬新なネタだった。
これまでの佐久間には、伝わりにくいネタを演じるときに、「つたわれー」と自分で言う定番ギャグのようなものがあった。だが、今回のR-1決勝では、彼はそのフレーズを一度も口にすることはなかった。伝わらないかもしれない不思議なネタが、説明抜きに必ず通じると強く信じた。その信念の強さこそが、彼にR-1の栄冠をもたらした最後の決め手になったのだろう。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
去年も激戦でした。
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