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既存の思考をブチ破るインタラクティブPV SOUR「映し鏡」クリエイターの川村真司に訊く

masashi_kawamura.jpg「インタラクティブすぎる」と話題のPVを手掛ける川村さんの考えるPV論とは?

 これをミュージックビデオと呼んでいいのだろうか。昨年の12月初旬のある日、TwitterのTLが大騒ぎとなった。SOURの新曲「映し鏡」のローンチのカウントダウンが始まったからだ。このPVを手がけるのは、NYの広告代理店でクリエイティブディレクターを務める川村真司氏。同じくSOURの「日々の音色」でご存知の方も多いだろう。

 PVの内容は一見に如かずなので、見ていただくのが一番だが、簡単に説明しよう。まず「日本語/英語」のどちらかをクリックすると7つのウィンドウが開き、事前にFacebookまたはWebcamまたはTwitterに接続してみることをおすすめされる。アプリへの承認を済ませ「Click to Start」をクリック! するとGoogleのトップページが現れ、検索窓には自分の名前が入力されWeb検索、画像検索の結果が現れた。すると、その画像たちが魂を得たかのように動き出し人間の形になって歩き出す。次にTwitter画面に切り替わりTLに歌詞が流れたかと思うと、Google マップに飛ぶとSOURのボーカルhoshijimaさんの画像がまた人型になって歩き出し……。ええい! もうあとはご自身で見ていただきたい、とにかくすごいのだ。FacebookやTwitterにある個人情報がPVにリンクし次から次へと動き出す、アクセスしたその人だけが体験できる、そんな仕組みの誰も見たことがないPVが誕生した。

 今回はNYに住む川村氏にメールインタビューを敢行。「映し鏡」の成り立ちから、制作のプロセス、川村氏が目指す次のPV像について伺った。

――前作「日々の音色」が文化庁メディア芸術祭でエンタテインメント部門の大賞を受賞されていますが、新作「映し鏡」はまずどんなところから映像の企画を考えていったのでしょう? 曲のイメージから構想された部分などを教えてください。

川村真司氏(以下、川村) ミュージックビデオを作るときはいつもそうするのですが、まずは歌をすごく聞き込みました。SOURの「映し鏡」は、あなたの身の回りにあるモノや人、そのすべてがあなたを映す鏡であり、そこに映った自分の姿を通して自分自身が誰であるのかを知ることができる、といったことを歌っています。この歌詞を聞いたとき、オンライン上での他者とのつながりを通して自分自身を見つける旅ができたら、といったイメージが浮かびました。そのイメージを膨らませて、インターネットのソーシャルネットワーク上に存在する個人のデータを集めて、それを活かしたインタラクティブミュージックビデオを作れないだろうかと考えました。結果として、Facebook、Twitter、Webcamに接続することで、ソーシャルネットワークの状況に応じて見る人ひとりひとりが、自分自身にカスタマイズされた映像を体験することができる作品となりました。

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――川村さんは今NYを拠点に活動されていますが、メンバーとの打ち合わせ、制作において、距離的な支障はなかったのでしょうか? 簡単なチーム編成と制作プロセスを教えてください。

川村 今回のプロジェクトはたくさんの才能ある人々の協力がなければ完成しなかったと思っています。そんなチームの中でメインのディレクターをしていたのは僕と清水幹太(http://www.shiroari.com/)さん、Saqoosha(http://saqoo.sh/)さん、そして大野大樹さんです。まずこのアイデアを思いついたとき、真っ先に清水幹太さんに相談しました。世界を見回しても彼ほどのテクニカルディレクターはほとんどいないので、彼にアイデアを送ってストーリーボードを精査しつつ、技術的に実現可能かをプロトタイプしていきました。そしてSaqooshaさんにも加わっていただいて、以前彼がプロトタイプしていたTwitterアイコンのアイデアを改良して後半部分を作っていってもらいました。大野さんには実写パートの撮影と編集をお願いしています。

 僕がNY、清水さんと大野さんが東京、Saqooshaさんが大阪なので、メンバー間での打ち合わせは、ほぼ全てスカイプだけで行っていました。前回の「日々の音色」のときにも感じたことなのですが、もはや世界のどこにいてもインターネットによって距離的な制約をあまり気にせず制作作業ができるようになってきていると感じます。基本は僕がNYでアイデアを考え、スケッチやスペックに基づいた具体的なデザインを送って、それを日本で組み上げていってもらいました。

――制作中に一番困難だったことは何でしょう? 

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川村 そもそものアイデア自体がかなり新しい試みだったので、ともかく実際にそれが可能かどうかを検証するためのプロトタイプを作っていくのに時間がかかりました。結果作ってみたけど、これはいまいちだ、ということで使わなかったシーンもたくさんあります。またブラウザによって見え方が大きく違うことも悩みでした。結果的にはSafariとChromeという制限された環境でしか見られない作品になりましたが、今回は「日々の音色」のように万人がパッシブに見て共感してくれるというモノではなく、少し狭かったとしてもよりパーソナルでインタラクティブな体験を目指していたのでしょうがないとしました。

――「日々の音色」の際には予算が限られていた中でWebcomを使うという発想が出てきたとの経緯が語られていましたが、今回は予算的には前よりは潤沢だったのでしょうか?「Kickstarter」【註】を使った経緯などをお聞かせいただけると。

川村 今回も「日々の音色」と同じ状況でした。さらには映像だけの前回と違って、すごく複雑なプログラミングを必要としていたので、これはそもそも予算的にNGな企画なんじゃないかとはじめは思っていました。でもNYで最近スタートしたKickstarterのことを知って、これは素晴らしいサービスだと思い、試してみる意味でもそこで制作資金を募りました。もちろんお金を集めるという目的もあったのですが、何より早い段階からファンの人たちに関わってもらえるのがとても素敵だと思ったんです。制作者としても、支援されていく様がどんどん見えることで、たくさんの人に応援されていることが判ってすごく良いモチベーションをもらえました。

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 「日々の音色」の後、今度は自分も参加したい! と言ってくれる人がたくさんいて、大きなテーマとしてファンの人が参加できる作品を目指していたので Kickstarterの利用はすごくぴったりだったんです。同じような意図で、SOURのオフィシャルTwitterアカウント@SOUR_officialをフォローするだけで、後半のTwitterアイコンで作られた映像のシーンに参加できる仕組みも作りました。これらは共にローンチ前のバズを生むのにも貢献してくれました。

――不況が続く音楽業界において今や立派な商品と化し、楽曲同等の価値をつけられるようになったPVを、作品、もしくは広告など、どのような位置づけとして考えていらっしゃるのでしょうか?

川村 PVはプロモーションビデオという呼び名の通り、その音楽を広めるためのコンテンツだと思っています。だから僕はいつもどうやってその音楽の世界を視覚化できるか、そしてどうやってその音楽とかけ算してもっとリッチな体験が作れるかということを考えています。音楽業界やアーティストの間で、最近こういった音楽の拡張に価値を見いだしてくれる方々が現れているように感じますが、まだまだもっと増えていってほしいですね。いつでもご協力しますので。

――「映し鏡」は完全にWeb媒体(ネットワークを経由した)を使ったPVの形で、いわゆる既存の放送局で放映されるPVとは形態がまったく異なります。今後のPVはどういう方向に向かっていくと思われますか?

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川村 今までのように純粋に放送局で放映されるPVも普通に存在し続けると思います。ただ、今はインターネットを含めさまざまなデジタル技術が身近なモノとなってきているので、それらを使って新しい音楽の体験の仕方を提示してくれるような作品が増えてくるのではないかと思います。「映し鏡」でもよく言われるのですが、それはもはや「ビデオ」という枠では括りにくいものになるんじゃないかな。でもそれは「音楽の世界をどう視覚化するか」というPVの本質に立ち返ると極めて正当な進化のような気がします。ただ、何もやみくもに新しいテクノロジーを使えばいいかといったらそういうことじゃなくて、もっと自由に枠を取っ払って、どのメディアでどのように表現すればいいのかからきちんと考えるということだと思います。

――私は「映し鏡」を初めて見た時、まさに開いた口がふさがりませんでした。反応はいかがでしたか?

川村 まず数字だけの話をすると、サイトをローンチしてから初日の数時間だけで4万人以上のアクセスがあり、その後も順調に数を伸ばしています。滞在時間も平均で3分以上と、普通じゃ考えられないような結果が出ていたり。最初の数日間はTwitterのTL上ですごい量のツイートが流れているのを見て、チームみんなで盛り上がりに圧倒されました。

 多くの人からは「どうなってんのか分からないけどすごい!」という反応をもらうことが多いですね。ちょっとやりすぎたかなと思うこともありますが、ソーシャルネットワークと個人データを活かしてどこまでいけるかが自分に課していたチャレンジだったので、分からないけど置いてきぼりをくわずに楽しんでくれてるという状況がうれしいです。前回の「日々の音色」に引き続き今回も日本語詞の歌にも関わらず、海外からもたくさんのアクセスやコメントをもらっていて、いい音楽とアイデアがあれば言葉の壁は越えられるんだなぁとすごく実感しています。

niji.jpg川村さん著の『RAINBOW IN YOUR
HAND
』(ユトレヒト)。全く同じ大き
さの7色の四角形が印刷された、36枚
の真っ黒なページをパラパラとめくる
と、小さな虹を作り出すことができる。
© Utrecht

 あとこれは知らなくても別にいいことなんですが、よく「html5作品すげー!」と書かれるけど実はこれFlashとhtmlで作っているんです。今回の複雑な構成を実現するには知見の多いFlashの方が良いという判断でした。 でも次は何かhtml5でも作ってみたいですね。

――今回の作品で得た新たな問題・課題があったら教えてください。

川村 今回は間口の広さよりも、多少狭くてもよりパーソナルで深いインタラクティブ体験を目指していたのでそれでもやろう! という判断をしたのですが、ブラウザがSafariとChromeにしか対応できなかったのはやはり少し残念でした。このような変わった表現をする場合は仕方がないのですが、「日々の音色」と比べるとやはり少しギークな作りになってますよね。今回のラーニングを元に、また別のやり方で見ている人が参加できるようなアイデアを考えたいです。

――今後やりたいことを教えてください。具体的なプロジェクトではなく抽象的な話でもかまいません。

川村 今は会社(Wieden + Kennedy New York)で何組かのミュージシャンのためにインタラクティブなプロモーションコンテンツを作っています。「映し鏡」同様かなりぶっ飛んでるので実現するかどうか不安ですが。基本的には新しいことにチャレンジするのが好きなので、最近多かった映像やインタラクティブの表現だけではなく、もっとプロダクトやインスタレーションのようなアイデアも実現していきたいです。
(取材・文=上條桂子)

【註】Kickstarter:クリエーターが少額の出資を広く募るためのオンラインプラットフォーム。

●かわむら・まさし
1979年東京生まれ。慶応義塾大学佐藤雅彦研究室にて「任意の点P」「ピタゴラスイッチ」といった作品の制作に携わり、卒業後、2002年よりCMプランナーとして博報堂に入社。2005年よりBBH Japanの立ち上げに参加し、2007年よりアムステルダムの180、BBH New York、そして現在はWieden & Kennedy New Yorkのクリエイティブディレクター。Adidas、PlayStation、Nissan、Axe、Googleといったブランドのグローバルキャンペーンを手がけつつ、「Rainbow in your hand」といったブックデザイン、SOUR「日々の音色」ミュージックビデオのディレクションなど活動は多岐に渡る。主な受賞歴に、カンヌ国際広告祭、メディア芸術祭、アヌシー国際アニメーションフェスティバル、NY ADC、One Show、D&AD等。
<http://www.masa-ka.com/>

●SOUR「映し鏡」公式ページ
<http://sour-mirror.jp/>

映像作家100人 2010

これが最前線。

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最終更新:2011/02/09 15:04
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