ターゲットは高齢者と富裕層 相続税増税で税率80%もあり得る!?
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
●第78回(2月2日~2月7日発売号より)
第1位
「大相撲と八百長」(「週刊現代」2月19日号)
第2位
「相続税は80%になる」(「週刊現代」2月19日号)
第3位
「現代の肖像 阿武野勝彦」(「AERA」2月14日号)
「元連合赤軍最高幹部の永田洋子(ひろこ)死刑囚が5日午後、東京・小菅の東京拘置所で多臓器不全のため亡くなった。65歳だった」(2月7日のasahi.comより)
私と同年である。私は大学時代、バーテン稼業のノンポリだったが、彼女は薬科大生のときから革命運動に走り、過激派の指導者となっていった。1972年、山岳ベースで総括と称して仲間12人をリンチで殺した首謀者として逮捕される。
革命という言葉が夢物語ではないかもしれない、そう思えた時代だった。その後の人生を、彼女は裁判と獄中で過ごし、私は雑誌屋稼業を細々と続けてきた。
若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08年公開)を見ても、彼女たちの”狂気”は理解しがたい。だが、主義主張は別にして、青春を燃焼し尽くせる時代が確かにあったことを、甘酸っぱい感傷とともに思い出させる、彼女の死だった。
今週の3位は「東海テレビ」のプロデューサー阿武野氏を取り上げた「AERA」の「現代の肖像」。80年代初め、訓練生の死亡や行方不明事件で世間を騒がせた戸塚ヨットスクールの軌跡と現在を追ったドキュメンタリー『平成ジレンマ』が、劇場でも公開されて話題になっている。
戸塚ヨットスクール校長の戸塚宏氏とは、私も一時期お付き合いした。嵐のような世の批判を受けながらも、自分の信念を貫く生き方に、会うほどに魅せられた一人である。
行き過ぎた「体罰」の問題はあるが、こうした厳しい訓練で立ち直っていった非行や不登校の若者がいたことも事実である。
阿武野氏は多くの優れたテレビ・ドキュメンタリーを作っている。私も、裁判官の本音を語らせた『裁判長のお弁当』や、光市母子殺人事件の弁護団を、内部から撮った『光と影~光市母子殺人事件 弁護団の300日~』を見ている。
『光と影』は、彼に東京にきてもらって、ドキュメンタリー上映後にシンポジウムをやった。弁護団が日本中から叩かれているとき、弁護団側にカメラを据えて撮り続けることは、相当な覚悟が必要だっただろうが、ご本人は構えたところのない物静かな人だった。
この記事を読むと、こうした社会問題を、一商業テレビで撮り続けることの難しさに直面し、突然左遷されたこともあったという。
いまやドキュメンタリーの主戦場は映画ではなく、テレビに移っている。それも東京キー局ではなく、地方のテレビ局からいい作品が多く生み出されている。 『平成ジレンマ』は現在、名古屋シネマテークや東京・東中野ポレポレ座で上映中。これを書き終えたら見に行ってみよう。
2位は「相続税が80パーセントになる」という「現代」の記事。
私の年下の友人が訪ねてきて、90を超える祖父が先日亡くなったと聞いた。連れ合いはだいぶ前にいないというから、残された家屋とお金をどう分けるのか、なかなか大変なようだ。その上、相続税の控除額が変わるそうだから、その前に遺産分けをやらなくてはならないと、ため息をついていた。
どちらかの親が健在ならば、大きな問題にならないが、両方が亡くなると、兄弟は他人の始まりである。親が見たら嘆くだろうなというほどの醜い遺産をめぐる争いは、私の周りでも多くある。
「現代」によれば、現在の税制が作られたのは占領下、米国のシャウプ博士を中心とする7人の税制使節団が「世界で最も優れた税制」を目指して作ったそうだ。
中でも、冨の集中排除を目指して作られた相続税は「相続税論のテキストブック」と呼ばれている。それが、平成23年度税制改正大綱では、富裕層をターゲットにする「相続税の大増税」が打ち出されたのだ。
今回の相続税のポイントは、最高税率を50%から55%に引き上げることと、基礎控除と呼ばれる非課税枠を4割ほど縮小させたことである。その上、さらなる相続税増税が控えていて、その率は80%にまでなるかもしれないというのだ。
「日本国民が保有する金融資産1,400兆円のうち、その6割ほどは60歳以上の高齢者が持っている。あらゆる控除をなくして、相続税を10%かけただけでも、単純計算で毎年40兆円の税収となる。消費税、所得税をあげるには反発が大きい。そこで政権は大声を出さない高齢者と富裕層をターゲットにしているというわけです」(民間シンクタンクのエコノミスト)
残しておくより使ってしまえと、年寄りのフトコロからカネを吐き出させて、景気を刺激しようなんて、役人の考えそうなことだ。そういえば、麻生元総理も自著の中で、お年寄りからカネをふんだくれと書いていたな。
さて、大相撲春場所を中止にまで追い込んだ八百長問題は、どこまで広がるのか予断を許さない。「大相撲に八百長あり」とキャンペーンをはり続けてきた「ポスト」と「現代」が、どういう切り口でやってくるか楽しみにしていた。
「ポスト」は「角界よ、大新聞、テレビよ、片腹痛いわ!『週刊ポスト』は大相撲八百長を30年間こう報じてきた」と老舗らしく歴史を誇り、2月2日毎日新聞のスクープ「力士が八百長メール」報道など、「何を今さら」とハナで笑う。
「ポスト」が「角界浄化キャンペーン」を始めたのは80年からで、その後、元大鳴戸親方の告発や元小結・板井圭介氏の実名証言など、「国技のタブーに正面から斬り込んできたメディアは本誌だけといっていい」と豪語するが、掲載は後ろのページで4ページ、内容も今ひとつである。
では、「現代」はどうか。さすがに巻頭で10ページの「ぶち抜き大特集」である。内容は、「八百長力士はまだいくらでもいる」「『八百長メール』原資料を公開する」「『八百長』を見て見ぬふりをした相撲ムラのインサイダーたち」「『八百長報道』本誌と相撲協会の1500日戦争」「腐れ相撲協会はさっさと自主解散すべし」と、盛りだくさんである。
中でも、朝青龍や協会などが束になって訴えてきて、最高裁で上告棄却され、4,785万円の賠償金と記事取り消しの広告掲載が確定した、裁判所への恨み辛みが興味深い。裁判所から、取り消し広告には、記事は十分な裏付けを欠くもので、これを取り消しますと書けと求められたそうだが、これってどうなるのかね。このまま出したら、かえって面白いと思うのだが。
朝青龍の八百長告発では、朝青龍が法廷で、八百長など見たことも聞いたこともないと証言したはずだが、これって偽証罪にならないの? 北の湖理事長(当時)も「相撲に八百長なんかない」といい続けていたが、こういう連中を国会喚問したらどうかね。
この記事を、当時の編集長・加藤晴之氏に書いてもらいたかったと思うのは、私だけではないはずだ。そうすれば「本誌は裁判には敗訴したが、『八百長相撲の蔓延』という重要事実を、正確に伝えたと自負している」というような表現にはならず、怒りに充ち満ちた原稿になったはずなのに。
ともあれ、大相撲の八百長問題をときの横綱・朝青龍に結びつけ、読者の関心を引き付けたことや、元序ノ口・時太山が親方や先輩力士の暴力で稽古中に急死したことを告発するなど、相撲界浄化に大きな役割を果たした「現代」に敬意を表して、今週のスクープ賞を与えたい。
それにしても、野球賭博問題や八百長問題を知る立場にいた新聞やテレビの記者たちの「責任」は、もっと追及されてもいいはずである。
(文=元木昌彦)
そろそろ本気でベーシックインカム。
「ポスト」のエロ度がエスカレート! ”エロ検定”、あなたは何問正解できる?
「評価されすぎ!?」副知事辞任で見えた河村名古屋市長の実像と虚像
“シンブンキシャ”の思考は停止中? なぜ日本の新聞はダメなのか
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事