自己破産の正しい作法とは? 消費者金融の実態を描いた『仮面の消費者金融』
#本
「Let’s go」と何の脈絡もなくレオタード姿の女性たちが踊り狂うCM。武富士という会社はいったい何の会社なのだろう、と子ども心に思いながら画面を凝視していたものだった。2010年6月、貸金業法の改正が施行されて以来、貸金業界は風雲急を迎えている。09年には大手のアイフル、10年には武富士が事実上経営破綻し、他の大手・中小消費者金融も軒並み収益減となっている。消費者金融なんて『ナニワ金融道』や『闇金ウシジマくん』の世界だけのことと思っていたが、実に多くの一般市民が消費者金融を利用し、かつ食い物にされているようだ。
借金についての教科書と言えるのが『仮面の消費者金融 弱者を食い物にする下流金融の実態』(鹿砦社)。フリーライターの橋本玉泉氏が、消費者金融の実態について解説・言及した本だ。「総量規制をめぐる報道の真偽」「多重債務と債務整理二次被害」「自己破産について」「消費者金融・クレジットカードの現状」「武富士の経営破綻」「債務整理をする弁護士の不法行為」など、現代の消費者金融をとりまく数々の問題が全6章で構成され、大手マスコミでは報道されない消費者金融の虚と実が、分かりやすく、懇切丁寧に説明されている。掲載された破産申立書の現物コピーなどは、滅多にお目にかかることのないシロモノだ。版元の鹿砦社には、武富士の元社員を名乗る人物から「よくここまで詳細に書いた」という電話が入ったというほど、消費者金融業界の闇に迫っている。
貸金業界の勢力図を一変させた貸金業法の改正とはどんなものなのか。改正の主な内容として、「執拗な取立て行為の規制」、「過剰貸付けの抑制(総量規制)」、「ヤミ金の罰則強化」利息制限法の上限金利15%~20%以上、出資法の上限金利29.2%以下の金利帯で貸付を行う「グレーゾーン金利の廃止」などが挙げられる。この改正により、今まで20%台の高金利で貸付を行っていた消費者金融は収益力が低下し、さらに利息の過払い金を借主に返還せねばならず、多額の負債を抱えた。
消費者金融問題の根は深い。債務を整理する弁護士が、債務者から多額の弁護士費用を要求し、さらに還ってきた過払い金を騙し取るなどする”債務整理二次被害”も相次いでいるという。橋本氏は「借金をしなければ最低限の生活もできない貧困こそが消費者金融問題を引き起こしている」と指摘する。
現在、年間10万人以上の人が自己破産をし、900万人近くの人が借金返済の困難な状況にあるという。借金苦の処世など学校では教えてくれない。いつ何時「借金をしなければ生活もできない」貧困に陥るかも分からない不安定な世の中であるから、最低限、借金や債務処理の実態をつかんでおく必要あるだろう。
(文=平野遼)
・はしもと・ぎょくせん
1953年、横浜市出身。トラック運転手、学習塾の時間講師、コンビニの雇われ店長、経営実務資料の編集、販促ツール等の営業、フリーペーパー記者、派遣労働者、夜間工場内作業員など複数の職業を経験。91年からフリーライターとして活動し、企業経営に関する事例取材を4年程続けるが、景気低迷によって仕事が激減。活動の場を一般的なメディアに移し、雑誌やムックなどに幅広く執筆。現在では、世相、庶民生活、風俗、娯楽、文化などといったジャンルのほか、事件や犯罪に関するレポートも手がける。ジャンルを問わず、常に「庶民の目線」からの取材を心がけている。著書『色街をゆく』(彩図社)など。
これが金融問題の本質。
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