昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界
#アジア・ポップカルチャーNOW!
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第13回
作家・イラストレーター
Son Ni (兒子/ ソン・ニ)
台北市に住むSon Ni(ソン・ニ)は、昼間は特許の登録会社で経理として働くOLだ。会社がひけると家に帰り、イラストや漫画を描いたり、コラージュ作品やzine作りに時間を費やす。
(集英社)
自分の好きなことを黙々と続けるのが好きなだけだから、周りが面白がって、彼女の作品に関するいろんなことを聞いたとしても、返ってくる答えはそっけない。でもそれは、「自分の作ったものについて話すということに、どうしても一生懸命になれないから。ごめんなさい」とソン。自分のことに饒舌にはなれない彼女の作品からは、しかし、決して寡黙ではない彼女の内的世界がはっきりと伝わってくる。
自分の子どもの頃の環境や、影響を受けたジャパニーズ・カルチャーのことを聞くと、ポツポツと話してくれた。
「子どもの頃、同級生の筆箱にあったHello Kittyの鉛筆は、燦然と輝いていました。日本の商品は、いつも宝物のように思えました」
「好きなのは、漫画家だと諸星大二郎さん、作家だと澁澤龍彦さん。理由ですか? 彼らの作品からは、秘密の快楽が享受できるから」
でも、日本語が分からないので、選ぶものは、どうしても「みんなが見ているもの=流行っているもの」になってしまうというジレンマもあった。
「日本の漫画は、作家が描きたいものを描いている。これを描いてはいけない、というタブーもない。そもそも”何故描くのか”なんて聞かれない。私が日本のカルチャーから一番影響を受けたのは、そういうところです」
アートを見るのは好きだが、自分が特に詳しいとは思わない。今台湾で流行っていることも、「あまりよく知らないんです。あ、でも3Dはめちゃくちゃ流行ってるみたいです……」。
今後の予定は、特にないという。
「毎日会社に行きます。そして、空いた時間で絵を描きます」
どこまでも寡黙なOLアーティスト、ソン。作る理由や、決まりことから解き放たれた彼女の想像力が行き着く先を、是非見たいと思う。
(取材・文=中西多香[ASHU])
●ソン・ニ
作家、イラストレーター。台湾生まれ。昼間は会社勤めをしながら、作品制作、zine制作も行う。これまで参加した展覧会(いずれもグループ展)は「樂而不雅淫畫展 Lustfully Yours」展( Hulahoop Gallery, Hong Kong 2009年)、「DRAWN from TAIWAN」展( Domy Books, Houston, USA. 2010年)。作品集に『Mermaid, Foufa 』(Nos Books, Taipei 発行 2009年)、『人體盆栽栽培』(Nos Books, Taipei 発行 2010年)。
<http://www.deadtreeopenflower.com/>
<http://www.flickr.com/photos/yourson/>
<http://www.nosbooks.com>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
怪異。
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