“メジャーの壁”知らずの筧昌也監督が新作ドラマでは”表現の壁”もスルー!
#インタビュー #吉高由里子 #邦画
缶詰の中からセクシーな美女が続々と現われる、男のリビドー200%刺激作『美女缶』(2003)でゆうばりファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリを受賞した筧昌也監督。死んだ人間が人生のロスタイムを使って、最後にやりたいことを遂げる感涙系ファンタジー『ロス:タイム:ライフ』は08年にフジテレビ系で連続ドラマ化され、さらに新作がケータイ向けコンテンツとして配信された。アジアンスター金城武を主演に迎えた『Sweet Rain 死神の精度』(08)は長編デビュー作ながら、ワーナー系で全国公開。1977年生まれの筧監督は、メジャーorインディペンデントというボーダーを身軽に跳び越えて映画・テレビ・ケータイ……と様々な映像媒体で活躍する個性派クリエイターなのだ。そんな筧監督が、またまた一風変わった新作ドラマをDVDリリースする。WOWOWで昨夏オンエアされた吉高由里子主演作『豆腐姉妹』がそれだ。
『婚前特急』『GANTZ』の公開を控える人気女優・吉高由里子が、5話完結の『豆腐姉妹』では3姉妹をひとりで演じ分けている。不倫中の長女・絹代はフィクションドラマ、キャバクラに勤める次女・もめんはアニメーション、売り出し中の新人女優である三女・由里子はドキュメンタリータッチで描かれている。ドラマ・アニメ・ドキュメンタリーと3つの異なる表現方法が『豆腐姉妹』という作品の中に同居し、3つの表現を駆使することで吉高由里子の多面的な魅力に迫った野心作なのだ。筧監督、相変わらずカマしてくれますなぁ。映像のデジタル化が進み、様々な表現スタイルが可能となった新時代エンターテイメントの旗手・筧監督の素顔をクローズアップしよう。
――筧監督、よろしくお願いします。あれ、筧監督の名刺って、名前と住所だけのシンプルなものですね。
筧 えぇ、いろいろとやっているもので、最近は名刺に肩書きを入れるのは止めたんです。まぁ、長編映画はまだ『Sweet Rain』だけですけど、自分としては映画監督をメーンに考えてはいます。でも劇場用の作品だとかテレビ向けの作品だとかは、自分ではあまり意識してないですね。ケースバイケースですけど、企画のアイデアを考える際は、どの媒体向けでやるかという意識よりも、面白い作品を作りたいという意識が強いんです。
――ユニークすぎる『豆腐姉妹』は、どのようにして誕生したんでしょうか?
筧 今回の『豆腐姉妹』は”まるで豆腐のように色の白い姉妹のお話”というユルい設定をずいぶん前に考えたものです。それで2年くらい前に、吉高由里子さん主演でDVD用のオリジナルドラマを作らないかという話が来たんで、実写ドラマとアニメを融合した『ロジャー・ラビット』(88)みたいな作品にしようと思ったんですね。でも、どうせやるなら、より面白いものに挑戦してみたい。ドラマとアニメに、さらにドキュメンタリーも加えたらどうなるんだろうと。ボク自身もどんな作品になるか分からなかったのに、製作のアミューズさんがボクの予想以上に食い付いてきたんです(笑)。せっかくだから、WOWOWの連続ドラマにしようと企画が膨らんで、脚本をしっかり練ることになり、製作の準備に1年半を要しましたね。
監督。「今回の『豆腐姉妹』は肌の白い
美人姉妹という、自分としてはかなりユル
い設定から始まりました。その後、ブレ
ストで話がどんどん膨らんでいくんです」
――2年前から吉高由里子主演作として企画が動いたということですが、彼女が『蛇にピアス』(08)で注目を集め始めた頃でしょうか?
筧 そうですね。『蛇にピアス』が劇場公開されていたけど、まだテレビでの露出が少なくて、広く知られている感じではなかった頃ですね。それで吉高由里子さんに会ったんですけど、彼女はすぐにこちら側をイジリたがるんですよ(苦笑)。現場でもボクのことをやたらとイジってくるんですけど、ボクも現場ではいろいろやることがあるんで途中から相手をするのを止めたら、すごく寂しそうな顔をするんです。面白い子ですね(笑)。
――有料チャンネルであるWOWOWは、山下敦弘監督やタナダユキ監督らが参加したオムニバスドラマ『蒼井優×4つの嘘』(08)をはじめ、作品のクオリティーが高いことで定評があります。
筧 確かに、WOWOWのドラマはレベルが高い。でも、ボクの場合、あまり他の作品を意識することや「ライバルは××監督です」みたいなことを考えることがほとんどないんです。大きいことを言うようですが、他の監督がライバルというよりも、今の若い人たちは映画の他にテレビもあるし、DVDもあるし、ケータイもあるし……という状況で育っているので、そういう若者たちにどうすれば自分の作品を観てもらえるかということなんです。それでボクは、他の人がやらないような変わった設定、ひと言説明しただけで「面白そう!」と興味を持ってもらえる企画を考えるようにしているんです。
イツ姿”を披露する吉高由里子。ふわふわとした
つかみ所のなさが、彼女の魅力。
――若手人気女優vs.気鋭のクリエイターの組み合わせである『豆腐姉妹』ですが、ドラマ&アニメ&ドキュメンタリーの融合という今回の趣旨を吉高由里子はすぐに理解できた?
筧 吉高さんに最初に今回の企画を説明したときは、それこそ彼女の頭の上に「?」マークが並んでました(笑)。まぁ、ボクの企画はいつも突飛なものだと思われがちなので、プロデューサーたちにプレゼンするときは、企画書と一緒にキービジュアルもイラストにしてセットで見せるようにしています。今回の場合だと、3姉妹のキャラクターが一列に並んで食事をしているイラストですね。仲のいい3姉妹だけど、実はそれぞれの顔が向いている方向はバラバラだという。
――家族が横に並んで食事してるシーンというと、森田芳光監督の『家族ゲーム』(83)ですね!
筧 えぇ、ボクの持論なんですが、映画って面白い作品に限って、強烈なビジュアルがキーになっているように思うんです。強烈なビジュアルから、ストーリーが広がっていくんです。でも、困ったことに、ふだん映画を観に行くときも、面白い設定に出くわすと、自分の頭の中で勝手にオリジナルストーリーが始まってしまう。つまんない映画ならそれでもいいけど、面白い映画を観ていても、自分の頭の中でまったく別なストーリーを考えてしまうんです(苦笑)。とりあえず映画館を出たら、すぐにメモ書きするようにしていますね。
――『豆腐姉妹』の撮影現場はどんな感じだったんでしょうか?
筧 ドラマ部分の撮影に20日間ほど要し、ドキュメンタリー部分はそのうち1~2割程度の時間を割きました。アニメ部分は実写パートの撮影が終わってから、2カ月間くらいかけて完成したアニメにアフレコしていきました。吉高さん、アニメの本格的なアフレコは初めて。また実年齢より上となる長女・絹代みたいな役を演じるのも珍しかったようで、声の出し方から変えていましたね。彼女は憑依型でもないし、地道に役づくりをしていくタイプでもない。カメラが回っていないときは明るくおしゃべりしているけど、カメラが回るとパッと役に入っていく。一種の天才肌でしょうね。ドキュメンタリー部分は部分的にはフェイクですが、でも6~7割は吉高由里子の”素”だと思います。劇中のインタビューで、交通事故に遭って死を意識したと語っていますが、あれは彼女の実体験。彼女はすごく勘がいいので、劇中のインタビューでも質問によって、自分の素をさらしたほうがいいか、『豆腐姉妹』の三女として答えたほうがいいかを自分で瞬時に判断してしゃべっているんです。インタビュー部分の台本は白紙にしていたので、全部彼女がその場で考えてしゃべっている形です。ドキュメンタリー部分では白タイツ姿でダンスも披露しますが、女優らしくないことなら良かったんです。白タイツはボクの趣味というより、プロデューサーの趣味じゃないですか(笑)。
『豆腐姉妹』は、はたしてレンタル店のどのコーナーに置かれるのか?
(c)WOWOW/アミューズソフトエンタテインメント
――筧監督が感じた女優・吉高由里子の魅力とは?
筧 吉高さん本人に聞いたんですけど、「フラットでいたい」そうです。人を色メガネで見ないようにしているみたいですね。局のエラい人が来ても、現場スタッフとも、変わらず同じように接しているように思います。彼女は撮影現場で製作スタッフと仲良くなって、撮影が終わってからも共演者とではなく、スタッフと飲みに行く方が楽とか言っていました。知らない人間同士がわぁ~と集まって、1~2カ月熱い時間を過ごす撮影現場が好きみたいですね。今回、最初は企画を説明しても「???」だらけだったのに、わかんないけどとりあえずやってみようという柔軟性もある。個性があるようで、個性がないというのかな。でも、それって女優としてメリットですよね。どんな役でも演じられるということですから。
――なるほど、吉高由里子はどんな調理法にも合う豆腐みたいな女優だと。
筧 ハハハ、うまくまとめましたね。”吉高由里子は豆腐みたいな女優”。味がなさそうで、味がある(笑)。ボクの企画はブレーンストーミング的に、こういう風に話している最中にキャッチコピーが決まったりすることが多いんですよ。
――最後にもうひとつ。筧監督ってメジャーorインディペンデントというこだわりを感じさせないんですが、その点は自分ではどう考えていますか?
筧 ボクらの世代だと、そういう意識はあまりないように思いますね。ボクらよりひと周り上の世代だとハリウッド映画への憧れがあるように感じますが、ボクらの世代は何でもあり。面白ければ、スピルバーグも観るし、ウォン・カーウェイも観るし、岩井俊二監督や伊丹十三監督も観る。本当、観てるものがグチャグチャ(笑)。面白ければ、メジャーもマイナーも関係ない。実際の製作になると予算による影響が多少あるでしょうけど、基本的に企画を考える段階では、メジャーかマイナーかといったことは考えないですね。もちろん、できれば自分の作品は何千万人もの人に観てほしいという気持ちで作っています。でもいちばん大事なのは、やっぱり”もっと面白いものを”ということですね。
(取材・文=長野辰次)
●かけひ・まさや
1977年東京都出身。日大芸術学部卒業。中学時代には漫画執筆に勤しみ、講談社「ちばてつや賞」に入選。大学時代から自主映画製作を始め、『美女缶』(03)はゆうばりファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリ受賞後、04年に劇場公開。さらに『世にも奇妙な物語 ’05春の特別編』(フジテレビ系)の一編、妻夫木聡主演作としてセルフリメイクされた。03年から始めたショートムービー『ロス:タイム:ライフ』は、フジテレビ系で08年に連続ドラマ化。その後もauで配信された谷村美月主演『ロス:タイム:ライフ 猫編』(09)など発表媒体を変えて新作を発表している。伊坂幸太郎の原作を映画化した『Sweet Rain 死神の精度』(08)で長編映画の監督デビューも果たした。
豆腐姉妹
監督/筧昌也 脚本/鈴木智尋、筧昌也 アニメーション監督/青木純 ナレーション/小林幸子 出演/吉高由里子、塚地武雅(ドランクドラゴン)、平田薫、宮崎美穂(AKB48)、ムロツヨシ、きたろう、津田寛治、田中要次
発売元/WOWOW、アミューズソフト 販売元/アミューズソフト
1月28日(金)発売&レンタル開始
http://www.wowow.co.jp/drama/tofu
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