黎明期を知る”悪役専門”柴田秀勝が語り尽くした「声優のリアル」を聴け!(後編)
#声優
──先ほどおっしゃっていた、”底が浅い”という部分が気になりました。もっと深みのある演技ができるといいということだとは思うのですが。
柴田 本を読める人だけが役者になるのであって、本を読めない人は役者になるべきではないというのは、いまだに役者道ということではそうなんでしょうけれども。ただ、アニメに関して言わせていただくとね、5本に1本出てくるとか、最後のほうだけ出てくるという役だと、物語が分からないんですよ。それで相手の心を読んで、こちらの心を表現しろと言われてもね。物語がなんだか分からない。そういう意味ではこれからの声優さんは大変だと思うんだけれども、やっぱり役作りに苦労した人は、引き出しが違うんですよね。今僕らがやっている仕事はほとんど引き出し芝居ですよ。自分の脳に収まっている五感の記憶からいかに適切なものを引き出すか、それにかかっていると思いますね。技術優先ではあるんだけれども、せめて相手役の心くらいは読む、その中から出てくる言葉は違ってきますからね。
●「役を演ずる者」であり続けるということ
──柴田さんが分野を問わず続けてこられた秘訣とはなんなのでしょうか。
柴田 僕はもともと起用な役者じゃないんですよ。もともと好きで役者になったわけじゃないから、役者とは何をしたらいいんだというところから始まっています。根が不器用なんですよ。なにしろ収録現場に行くと、僕以外の人達は皆うまく聞こえる、見えるでね。だけど不器用な人間は追いつこうとして一所懸命勉強するから。常に初心に戻れるんですよね。器用な人は(一定の段階まで)昇って行くのは速いけど、そこから先が大変。壁にぶつかったら、なかなか乗り越えられないじゃないですか。役者を目指している人にも言うんですけどね、役者の修行というのは「三歩前進二歩後退」だと言っているんです。それでも一歩前進しているっていう。それを忘れない限り役者は続くだろうし。役者にとって大切なのは、いつデビューできるかではなくて、いつまで続けられるかじゃないのかな、と思っていますね。昔の人はよく言ったもので、初心に戻るということは大切なんでしょうね。
──これから声優を目指そうという方にメッセージをいただけますか。
柴田 声優を目指す人は役者を目指しなさいというのは、昔も今もちっとも変わっていないんです。僕は声優という言葉はいまだに好きじゃないんですけれども、役を演ずる者が役者であるし、声優も役を演ずるものでなければいけないと思うんですね。僕が今ナレーションをやるじゃないですか。これはナレーターを演じに行っているだけなんですよ。だから僕は常にナレーターじゃないんですよね。ナレーターを演じている役者にすぎない。
──どうすれば演じられるようになるのでしょうか。
柴田 演じることを覚えるのは、そんなに難しいことじゃないと思うんですね。これから目指す人たちにアドバイスができるとしたら、見たり、聴いたり、試したり。昔から言うじゃないですか、盗んで罪にならないのは芸の道。上手から盗め、下手から学べ。これがいちばん大切、それを理解するまでに時間がかかるんですよ。見る、聴く、に加えて役者としての日常生活を送っているか。これは何も声優だけじゃない、俳優もそうですけど、どうやったら毎日声を出せるか。この三つですよ。やっぱり声も宝石と同じで、珠磨かざれば光無しでね、声は磨きがかかるものなんですよ。で、声に磨きをかけるためには、毎日声を出さなきゃ磨きはかからないじゃないですか。だから、各自の工夫ですよ。僕がいまここでお店をやっているじゃないですか。お店と同じなんですよ、53年というのは。役者も53年、お店も53年。いまだにカウンターの中で僕がお客さんの相手をしているというのは、声を出す仕事をしているのと同じなんですよ。53年間毎日しゃべって、磨きがかからないわけないじゃないですか。
──お店をピカピカにしているのと同じですものね。
柴田 ええ。人間は言葉を聴いて覚えるんだから。赤ちゃんがそうじゃないですか。言葉というのは聴いて覚えるんです。誰だって与えられたイメージを持つ。ただ問題なのは、自分のもったイメージどおりに演じられたかどうかを判別できる耳を持っているか持っていないかなんです。ただ見ていればいい、ただ聴いていればいい、というわけでもない。だから難しいのは、役者としての日常生活。役者にはライセンスもなければ国家試験もありませんからね。オレは今日から役者と思ったら役者なんですよ。誰も否定できないんですよ。ただ役者としての日常生活を送れているか否かなんです。役者としての日常生活を送っているとテレビの見方が違う。聴き方が違う。
──柴田さんはどのようなアドバイスを受けたのですか。
柴田 とてもじゃないけど役者で食えない頃に、先輩にアドバイスを求めたことがあるんですよ。このまま役者を続けていていいもんだろうかと、先輩に相談したんですね。そうしたらその先輩が教えてくれたのはね、「おまえさ、黙って新橋から銀座四丁目まで普通の恰好をして歩いてみろ。三人以上の人がおまえを振り返ったら、おまえは役者だよ。台詞をうまくしゃべれる、そんなのはどうでもいいんだ。台詞は日常会話の再現だよ。耳がよくなれば、そんなものは誰でもできるんだ。そんなことよりは、人を振り返らせる魅力を持て。これが役者だよ」と言われましたね。でもこれまた理解するのに、だいぶ年月がかかりましたけどね。それが普通の人が持っていない役者のオーラなんだ、それを身につけろ、と。どうやって身につけるか、それはおまえが考えろ、という。
──決まった答えはないわけですね。
柴田 ええ。だからね、感性というかセンスというか、こればかりは持って生まれたやつにはかなわない。持って生まれたやつもいるんだよ。じゃあ、持って生まれてこなかったからといって役者になれないのかというと、そうでもない。ただどれだけ努力しても報われるという約束の無いのがオレたちの世界だ、とも言われましたけどね。
──今後の抱負は。
柴田 5年くらい前から「オレも今年一杯で終わりだな」と言い続けているんですが、また新しい年が来た。僕は歳をとってから考えが変わったところがあるんですよ。ひとつは、残された人生のなかで忘れ物をしない。忘れ物のない人生で終わりたい。それともうひとつは、65歳くらいまでは、人はどうでもよかったんですよ、自分さえ売れていれば。青二に新しいマネジャーが入ってくるとよく言うんですよ、人はどうでもいいからオレを売れ、って。それが65を過ぎたら変わっちゃったんですよね。少しでも人の役に立てることがあったらやりたい。このインタビューもそうです。将来声優を目指す人の役に立てることが何か言えるのなら残しておきたい。53年かけて分かってきたものを、40年で、あるいは30年で、オレに追いつき追い越すことのできるアドバイスをできるものなら残しておいてやりたい、と思ってます。いまはギャラなんてどうでもいいんですよ。ギャラのないのにもずいぶん出ています。人間、歳取ると変わってきますね。それも忘れ物のない、ということに入っているんですかね。
──ところで新春早々、タイガーマスク運動が話題となりました。ミスターXとしては伊達直人になんと言ってやりたいですか?
柴田 最後まで宿敵だった伊達直人だが……。そうだな、敵ながら「あっぱれ」を言ってやりたい。来年は罪ほろぼしに『虎の穴』からランドセルを送ってやりたいね。「ふっふっふ、タイガーめ……やってくれるナ」
(取材・文=後藤勝/写真=木下裕義)
●しばた・ひでかつ
1937年、東京都生まれ。大学卒業後、関西歌舞伎を経て、58年に俳優デビュー。69年、俳協のマネージャーだった久保進らと共に青二プロダクションを設立。同年の『タイガーマスク』(=ミスターX役)を皮切りに声優として数多くの作品に出演している。また、ナレーターとして第28回国際産業映画・ビデオ祭文部大臣賞、第29回国際産業映画・ビデオ祭通商産業大臣賞受賞。近作に『鋼の錬金術師』(キング・ブラッドレイ役)、『ONE PIECE』(モンキー・D・ドラゴン役)等。73歳の現在も精力的に出演作を重ねながら後進の指導にあたっている。
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柴田秀勝氏が53年の役者生活をもとに「声優のリアル」を語るイベントが、3月に開催される。声優という仕事、俳優という生き方をもっと知りたいあなた、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
●「Respond! You!! -聞きたくねーか?本音のハナシ。」
2011年3月20日(日) 13時開演~16時終演予定(最大延長 16時半)
阿佐ヶ谷ロフトA http://www.loft-prj.co.jp/lofta/
出演:柴田秀勝(声優 青二プロダクション所属) 飯田里樹(音響監督 ダックスプロダクション所属)
詳細は「声優のリアル」公式サイト
<http://www.real-seiyu.net>
虎になるのだ!
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