衝撃の死から半年 稀代のトリックスター・村崎百郎とはなんだったのか
#本 #サブカルチャー
シベリア出身で中卒の元工員というインパクト全開なプロフィールを引っさげ、1990年代、鬼畜・悪趣味ブーム前夜のサブカル界に突如として現れた怪人・村崎百郎。自らを「鬼畜系」「電波系」と称し日本一ゲスで下品なライターとして、ゴミを漁って他人のプライバシーを暴くダスト・ハンティングをはじめ様々な鬼畜活動を繰り広げた彼の出現はホントに衝撃的だった。しかし、まさかそれ以上に衝撃的な死に方をすることになろうとは……。
2010年7月23日、村崎百郎は「彼の書いた本にだまされた!」というファンによって刺殺された。「自分はキチガイだ」と言ってはばからなかった村崎百郎がリアル・キチガイに殺されるなんて、悪い冗談にもほどがある。正直、出現した当初と比べ近年の活動はいまひとつパッとしないものばかりだったので、ボクの中で村崎百郎への興味はかなり薄くなっていたのだが、それでも今回の事件には驚かされた。サブカル・ライターなんてただでさえ鬱をこじらせて自殺しちゃうような人が多いっていうのに、ファンに刺されるリスクまで背負わなきゃならないとは、なんと因果な商売か(大して儲からないのにねぇ)。
そんな村崎百郎の死からちょうど4カ月後に発売されたこの『村崎百郎の本』(アスペクト)。まあいわゆる追悼本という位置づけなのだろうが、よくある友人や関係者たちが「アイツはあんなことやってたけど、本当はすごくいいヤツだったんだよねー」などと回顧しているタイプの本ではない。
おそらくまだ事件の衝撃も去っていないような時期に取材されたであろう京極夏彦、今野裕一、宇川直宏、根本敬たちへのインタビューや、柳下毅一郎、木村重樹、切通理作といった関係者からの寄稿。関係者たち誰もが今回の事件を、そして村崎百郎こと黒田一郎という人物とは何物だったのかということを自分の中で総括しきれないまま非常に生々しい言葉で語っており、読み進めながら改めて稀代のトリックスター・村崎百郎の特異性と、彼を失ってしまった喪失感に頭の中がもやもやしてしまった。
まあ確かに「14歳の中学生に『なぜ人を殺してはいけないの?』と聞かれたらあなたは何と答えますか」との問いに「ポストが赤いからじゃねーの。のん気に理由考えるヒマあったらさっさと殺せよ馬鹿野郎。暴力はいいぜええええ、暴力はよおおおお」とか答えていた鬼畜キャラな人がホントにキチガイに殺されちゃった……なんて事件、悲しんだらいいのか、鬼畜らしい死に様だと笑ってやればいいのか、キレイに総括なんかできっこないでしょ。
ただ、再録されている過去の原稿は久々に読んでもやはりグイグイ引き込まれてしまう迫力があったし、この本をきっかけに知った森園みるくとの共作漫画たちも村崎百郎らしい鬼畜っぷりと文学性が非常にいいバランスで成り立っていて面白かったので、さらに年をとった彼がどんなものを作り出したのか、それを目にすることが出来なかったのは非常に残念に思う。
ある時期のサブカルチャー界の一端を確実に担っていた村崎百郎を多面的に語り、90年代の鬼畜・悪趣味ブームの記録としても価値のある一冊。コアなファンはもちろん入門編としてもいいのではないだろうか。しっかし、この本でせっかく村崎百郎に興味を持った人がまともに新刊で買える著作が、唐沢俊一との共著『社会派くんがいく』(同)だけってのはなぁ……。死人商売でもいいから、このタイミングで『鬼畜のススメ』(データハウス)あたりを再発すればいいのに。サイゾーさんでいかがでしょうか!?
(文=北村ヂン)
鬼畜万歳!
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